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メタノールナイツ・ストーリー30話 Blue

第参拾章 Evolution

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「大口叩いた割にはあっけない幕引きね」

ウィザードの首にダガーの切っ先を向けつつ、リードルが呟く。

「スイートね、あなたたち。詰めがとってもスイートだわ」
「負け惜しみを!」

胸部に現れた即死マーカーに、リードルがダガーを突き立てる。
その刹那、ウィザードの身体が爆散した。

熱風と爆発の衝撃で、リードルの近くにいたじーさんと柚葉までダメージを喰らう。

「ぐぬぉっ!」
「きゃぁ!」

まさかこれは……デコイ⁉︎
ゼロ距離でモロに喰らったリードルは、HPを限りなくゼロまで削られ、閃光によるスタン効果で行動不能に陥る。

「リードル!」

爆心地に横たわるリードルを抱き抱え、辺りを見渡す。

「あははっ♪ うかつすぎー♪」

楽しげな声が上空から聞こえる。
くそッ! あれが本体か!

「影分身のスキルとエクスプロージョン(爆破)の魔法を組み合わせた独自スキルじゃな……オリジナルスキルの作製は、Lv60以上のウィザードだけが利用可能なスキルじゃが、メタスト内にそんな高レベルウィザードはまだ存在しないはずじゃ……チートか?」

よろよろと起き上がりながら、じーさんが言う。

「自らの能力と才覚を使って、最強を目指すのがゲーマーってやつでしょ? ゲーム内だけでチマチマレベリングするよりも、リアルな『才能』を使った方が、話が早いんじゃないかしら?」

ウィザードが嘯く。
僕は言い返せなかった。
彼は実際、リアルではウィザード級のプログラマーなのだから。その能力や知見を、リアルワールド以外で使ってはいけない理由を、僕は見つけることができなかった。
ウィザード姿の祭は、言葉を続ける。

「『強くなる』、とても良い言葉だわ。でもね、正攻法で戦えるほどの力も条件も備えず生まれ落ちた者は、一体どうすればいいの? 一生地べたを這い回って暮らすしかないのかしら? アタシはそんなのは嫌よ。世界がアタシに適合しないのなら、世界の方を変えるしかないじゃない?」

軽い口調で語られる祭恭一の言葉には、彼の生きてきた背景が透けて見えたように思えた。

「ナイト気取りのリア充くん、あなたみたいにモッテモテで、オクトパスみたいな高額なデバイスを買い与えてくれる財力のある親がいて、人生オールオッケーで生きてるあなたに、『持たざるモノ』のこの気持ち、わかるかしら?」
「……」
「持たざるモノはね、革命でも起こすしかないのよ。世界のルールそのものを変える。それしか、アタシみたいな劣等者が生き残る術なんて、ないのよ」

わからない。
どうすれば

「それって、楽しい?」

フィールドに倒れこんだままの柚葉が、息も絶え絶えに呟く。

「何かしら?」

ウィザード姿の祭の片眉が、不機嫌そうに上がる。

「あなたがどんな家庭に生まれて、どんな風に生きてきたかは知らない。そこのパツキン純粋バカが、あなたのお涙頂戴話に感化されかけてるみたいだけど、『バカなの? 死ぬの?』って言いたいところよ!」

「吠えるわね、小娘。アンタにアタシの辛さなんて……」

「わかるわけないでしょ! 拗ねていじけて、自分の後ろ暗さを誤魔化して、挙句選んだ道がこれ? 滑稽だわ!」

「なにを……ッッッッッッ!」

「ルールは変えるもの。変わっていくもの。それに異論はないわ。でも、それを選んで実行したあなたは、全然楽しそうに見えないのは気のせいかしら?」

「それこそバカなのかしら? 小娘! これはね、アタシの復讐。『楽しいか?』ですって? そんな薄っぺらいもんじゃないのよ!」

「いいえ、違うわ。『楽しい』って、とても大事。私は、ユーリと……それから、リードルとも、一緒にメタストのフィールドで暴れてる時、とっても楽しい。一緒にいて楽しいから、私達の関係が成立するの。あなたが私達の、いいえ、プレイヤーみんなの『楽しい』を奪おうというなら、どこまでもあなたに抗うわ!」

そう啖呵を切ると、柚葉はなにかを宙に放り、ガンで撃ち抜いた。
撃ち抜かれた「それ」は小爆発を起こし、青い霧がぼくたち四人を包む。
と、戦闘で受けた傷がみるみる回復していった。
これって、最大回復アイテムのエクストラポーション?

「効果がバラけたから、全回復とはいかないけど、動ける程度にはなったでしょ?」

柚葉は立ち上がり、にっと笑う。

「単体回復アイテムを爆散させて全体回復に使うとは……ワシら開発の人間の想像を上回る使い方じゃぞい」

じーさんは、よっこらしょと起き上がり、祭を睨む。

「祭恭一! 世界を変える力は、後ろ暗い情念ではない! それぞれの人間の、知恵と勇気、創意工夫じゃよ!」

「っせーんだよ! 揃いも揃ってクッせーことばっか言ってんじゃねーよ!」

祭恭一はそう一喝し、杖を振る。
上空に暗雲が立ち込め、湯が煮え立つようなボコボコという不穏な音が響く。

「死んじゃえよ」

とポツリと呟き、祭恭一は杖を振り下ろす。
と,上空の雲から無数の火球が降り注ぐ!

「はーはははははは!!」

燃え盛る炎の間に、狂笑する祭が見えた。


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