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メタノールナイツストーリー10 Blue

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第十章 賞金稼ぎ

「デュフフフフフ……」

 約5年前にバスジャックを起こしたコテハン『ワオ緑茶』が犯行前に大型掲示板に書き込んだ言葉そのままの笑いは、目の前のベッピンアヴァターから発せられた笑い声だ。女子力仕事しろ……全力で……
 先程、柚葉の”雷撃”と僕の投擲用ナイフで屠ったゴブリンから、最後の一枚のマントがドロップした。遂に『賢者への貢物』イベントの目処が立った。早速ジヌ民の商人のところへ、というところだが、パートナー様は謎の笑い声をあげつつブツブツと何かを呟いていた。
 怖い。怖すぎる。
「ジヌ民のところに行く前に、ショップ作らせてね」
 おお! そうか! そういう事か!!
「キャラクターレベル50になったんだ! すごいね」
 と言うと
「ウヒヒwww」
 と、またも女子力ゼロな笑い声で笑い返す。
 ”デュフフコポォ オウフドプフォ フォカヌポウ”……と心で一句詠みつつ柚葉を見やると、短いモーションで『ヘルパー』と呼ばれる、キャラクターLv20以上のメタストラーが使役することができる精霊を呼び出した。
 白い羽の生えた、小さな人型のヘルパーに向け、柚葉が語りかける。
「ボーダー。ショップを作ってきて。宝石の組み合わせレシピのショップで、『ホラトス』に作ってね」
「ほい」
 と答えると、ナゾの人型はふよふよと南へ向かって飛んで消えた。
「よし、じゃあ、ジヌ民のところへ行きまっせ」

 コボルドの森の、鬱蒼とした木立の中を進む。
「ヘルパー……か…...」
 と、僕はため息をつかずにいられなかった。現在の僕のキャラクターLvは12。ヘルパーを持ち、職業選択ができるLv20には、まだまだ遠い。
「ん?どしたの?」
「いや、いいなぁ、ヘルパー」
「あぁ、ヘルパーね。戦闘でプレイヤーをサポートさせるも良し、今私がやったみたいにおつかいをさせるも良し。ビジュアルもある程度カスタマイズできるから、ペット感覚で連れてる人も多いよね。こないだもかっわいいヘルパー連れたナイトの女の子がいたなぁー」
「あと8レベルか…...」
「案外あっという間よ。まして私のサポートがあるんだから、モタモタなんてさせない。ユーリ、アンタには早く足手まといを卒業して、ちゃんとバディになってもらわなきゃ困るの」
 いつもどおりの柚葉のノリにぐぬぬとなる。頼もしさはあるが、本来それは、柚葉が僕に感じて欲しい感情だった。38のレベル差は遠い。
 左後方からがさっ、と音がし、緩んだ空気に氷槍が打ち込まれる。柚葉が一瞬速く反応した。

<<Et Witz Spalken!!>>

 柚葉の”雷撃”が敵を貫く。バタリと『何か』が倒れる音がした。敵は、倒された。
 ……敵?

「なッッ!!」
 敵…...ではなかった。倒したのは……プレイヤーキャラクターだった。
 がさっ、がさっ、と、瞬く間に周囲をプレイヤーに囲まれる。
 これは…...まんまとハメられたか…...
 ネトゲ名物、PKK(プレイヤーキル キリング)だ。

「クッ!!!」
 柚葉が苦悶の表情を浮かべる。と、柚葉の背後に死神のような影が映る。
 メタストには、『賞金首』というシステムが存在する。PK(プレイヤーキル)のペナルティとして存在するシステムだが、PKを行ったプレイヤーには、目印となる死神が憑く。これ自体には見た目以外の問題はなく、一定期間を過ぎれば自然に消えるのだが、死神が付いたプレイヤーキャラは、PKしてもペナルティがつかない上に、殺されるとキャラクターLvの末尾の数字ごとに特定のカテゴリの装備品を強制ドロップさせられる。末尾が1なら兜系、2ならシールド、といった具合だ。末尾0は……装飾品だ。
 このシステムを悪用して、HPを1まで削った状態の仲間をわざと殺させ、プレイヤーの装備品やアイテムを巻き上げる PKKギルドが存在するとは聞いていたけれど、まさかこんな場所で遭遇するとは…...
 現在Lv50、鎧や盾を装備できない柚葉にとって、コルドと時間をかけて作った装飾品を奪われるのは死活問題だ。

「よぅ!ネーチャン。ウチのギルメン(ギルドメンバー)に何シてけつかんねん! バラすぞワレ!」

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