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メタノールナイツストーリー Blue 26話 第弐拾六章 「全力中年」

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 メタストのフィールドであるガイヤードとは全く勝手が違う「軟件探偵団」のフィールドに、僕、リードル、柚葉のおなじみパーティは苦戦を強いられていた。

 途中でパーティにinした秋戸と名乗る、浮世離れした印象のオッチャンは……

「わたたっ!」
『グァエ?』
「ひぇぇぇい!」
『グォォォ!……オ?』

 ヨタヨタとしかし紙一重で屍人たちの攻撃をかわしていた。
 正直、危なっかしい。
 見合わせた俺たち三人の顔に、等しく「足手まとい」という単語がへばりついていた。

 屍人達は、数ばかり多くて攻撃力は大したことはない。
 たまに避けそこねてオッチャンにへばりついた屍人を倒しつつ、僕達は石室についた。

『火をつけろ』と張り紙のあるドアの両隣には、ここに火をつけてくださいと言わんばかりのトーチが設置されていた。

「あそこのろうそくから火を持って来て、ここに灯せばいいとな」

 オッチャンがニコニコ笑いながら、東側の壁に掲げられていたロウソクを手にかける。
 一抹の不安が、僕の心によぎる。

 こんなイージーなものを、あの天才、輝咲雅夫(きざきまさお)が作るわけがない。
 「軟件探偵団」だって、一般向けエンタメ作品とはいえ最新のVR端末、オクトパスを利用したコンテンツだ。こんなつまらない仕掛けでお茶を濁すようなことは、彼なら絶対にしない。

「ほい♪ ほい♪」

 喜々としてトーチに火を灯すオッチャン。

「待て!」

 という僕の叫びは、遅きに失した。
 2本のトーチに火が灯り、果たして扉は開かれた……が……
 ドアの前。先程からやけにグニャグニャしているなと感じていた地面から、4体の屍人が血と泥に塗れながら現れた。

「なに……これ……」

 アンデッドモンスターに耐性の低い柚葉が、脚を震わせながら呟く。

 現れたのは、4体の屍人(グール)。 先程までの道中で相手にしていた、「普通の」屍人達とは、その身に纏う空気が違う。
 なにより違っていたのは、奴らが携えている得物だ。

 AK47。通称、カラシニコフ。1947年に旧ソ連のミハイル・カラシニコフが開発し、構造の単純さと遊びの大きさゆえのメンテナンス性の高さと、複製の簡単さで世界中の紛争国で採用されている突撃銃だ。
 バレルには銃剣が着けられている。
 銃によるロングレンジの射撃と銃剣による近接戦闘、どちらも可能ということか。
 これまでの道中で相手にしてきた連中とは、間違いなく格が違う。

「ウロォォォォォォ!!」

 4体の屍人の銃口が、一斉に火を噴く。
 ハンドガンを装備した柚葉以外、僕もリードルも近接型の武器だ。
 オッチャンに至っては丸腰だ。
 屍人達の銃剣スキルがどの程度かはわからないが、間合いを詰めるしかない!

 と、西側の壁にへばりついていたオッチャンが、猛烈なスピードで間合いを詰め、一体の屍人の顎に強烈な掌底を喰らわせた!
 怯んだ他の3体に、次々と、流れるように攻撃を加えていく。

 オッチャンは、装備品を見る限りメタストのプレイヤーではない。 大昔の中華圏のどっかの国の官吏のような、謎のデザインのゆったりとした服に身を包んだオッチャンは、掌底と足技のみで踊るように戦っていた。
 ゆったりとして見えるその動きは、その実アサシンのリードルに匹敵するスピードだ。
 体術スキルをMAXまで上げても、こんな動きはできない。

 このオッチャン、一体何者だ!?

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