メタノールナイツストーリー 8 BLUE

第八章 C Luv’z U

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……高木……おーい、高木……高木悠里!!

 バチコーン!と、僕の後頭部に何かがクリーンヒットする。寝ぼけ眼で周囲を見回すと、左隣の湯川がニヤニヤしてる。恐らく僕のHPをわずかに奪い、催眠魔法から解き放ったのは、右手にもった丸めたノートだろう。

「たーかーぎー……先生の授業、つまらんのはわかるけどな、もーちょい頑張ってくれよー......」

 数学教諭にして担任の半井が、呆れと哀しみを8:2でミックスした表情で言う。いやー、すごいリアルなテクスチャだ……まるで本物のようじゃないか……オクトパスの技術は世界一ぃぃぃ!!

「たーかーぎー……」

 ……リアルだった。

 こんな時、昔の学生はバケツを持って廊下に立たされたりしたらしい。現代は、寝ていた間の授業の遅れの方が問題視され、本日の授業内容のダイジェスト版と理解度調査の為の簡単なテストがパッケージになったデータが、学習端末 ”note”にダウンロードされるだけだ。勿論、建前上は家で復習して、課題は必ず提出しなきゃなんだけど......

「西野!西野!!」

 放課後、僕は斜め右前の席の女子、西野に声をかける。

「え!な!......なに?高木ッ......きゅん……(赤///)」

 めっちゃ噛みながら西野は応えた。西野が僕を好きらしいというのは、このクラスでは周知の事実であるらしい。実際バレンタインの時には、何やら気合の入ったチョコと羊毛でできた何かを手渡され、目の前で真っ赤な顔でもぢもぢされた。

 その時の西野の姿には、『やべ......ちょっと可愛いかも……』とトチ狂いそうになったものの、その後特に何も進展はない。僕は西野から何も答えを要求されていないし、一瞬『可愛いかもー♪』と思った程度のうっすーい感情は、家に帰って夕飯食べて◯◯◯ー(自主規制)してゲームしたら、殆どサッパリ消え去ってしまった。その事を幼馴染の悪友、トールに話したら「ルックスと精神年齢の反比例がお前の最も悪い点だ」と頭を抱えられた。謎だ。

「西野、さっきの半井の数学の課題の答え、教えてくんねぇ?」

 今夜もまた夕飯後はガイヤードに行かねばならないのだ。昨夜はあの後、また夜通しで柚葉とゴブ狩りを続け、更に3枚のマントを毟り取った。コボルドの森を抜けた先、ダヌラという小さな集落にいるジヌ民のイベントNPC、”いかがわしい商人”にマントを渡すと、クエストアイテム”土竜の爪”が手に入る。コイツをフィールドマップのほぼ東端の島、ヤポニカの賢者に渡すことで、『賢者への貢物』クエは終了する。今夜も、勉強なんてしている暇はないのだ。

「え……えと、ここはね......」

 うんうん、西野は素直で優しくていい子だなぁ……今日はノンワイヤー3/4カップの白×ピンクのチェックか......

「ありがと♪」

 と、勉強と透けブラへの心からの感謝の気持ちを満面の笑みと握手で述べると、西野は涙目であうあういいつつ、何度もぶんぶんとお辞儀をしていた。ヘドバンか……見た目に似合わずロックなんだな、西野。

 ……という話を帰りのバスでトールとしたら、「変態スケコマシ。地獄に落ちろ」と言われた。親友の理不尽な言葉に傷ついたフリをし、シートに座った状態から大げさに体を仰け反らせると、この間乳間にラッキースケベしてしまったおJK様が、青い顔で目の前に立っていた事に気づいた。

 明らかに具合が悪そう……というか、息も荒いし顔色悪いし、一刻も早く、せめて座らせた方が良さそうだ。

「あの、ここ座って、いいですよ......」

 ギッ!と、おJK様が僕を睨む。……なんでよ……orz

 感謝してよとは言わないけど、親切心を敵意で返されると、さすがに凹むなぁ……お前は何とたたかってるんだ?

 そんでもやっぱりしんどかったようで、おJK様は譲られたシートに座る。ま、いいけどね。

 次のバス停、秋葉ヶ丘で降りようとすると、

「ありがとう」

 と、蚊の鳴くような小さな声で、それでも彼女は、間違いなく言った。僕は、『どういたしまして』の気持ちを込め、笑顔を返した。

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