第四の夏(改題)
ラジオ体操の起源は知ってるか。俺は知ってるぞ。うろ覚えだけどな!
確かあれはアメリカで始まったんだ。イギリスだったか?何にでも「ラジオ○○」って付けるのはアメ公のセンスっぽいけどな。とにかく、日本でもそれを真似てラジオ体操が始まったのさ。
とにかくあれは大したムーブメントだ。日本人ならあれを聴けば誰でも踊れる。踊り出す。試しにどこでもいい。地方都市の小さな公園にラジオを持ってって、朝6時から体操してみろよ。1週間後にはお前の後ろには同じ動きをする同士が数十人いて、お前が先生だ。嘘じゃないぞ。日本人にはあの曲とあの動きがDNAに染み込んでるんだ。小ちゃい頃に学校で習ったからだって?野暮なこと言うんじゃないよ。
日本が負けた後にマッカーサーが飛んで来てGHQを作ったけどさ、あいつが最初の朝に聞いたのがラジオから流れて来た第二だったそうだ。もちろん嘘だ。あいつ、「天皇崇拝が」とか言ってラジオ体操を禁止したけど、案外こんな理由だったんじゃないかって話だよ。
それよりお前、ラジオ体操第二は踊れるかね?NHKの朝の放送じゃ第二までやってるから、あれを毎日見てる奴なら踊れるはずだ。じゃあ第三は?こいつは一地方都市だけで流れてただけだから、日本で踊れる奴らはどこまでいるんだか。じゃあ第四は…悪い。忘れてくれ。そんなもんはないわな…ははは。ところでトイレはどこだい。え?オムツにしろって言うのか?それはあんまり…
一時停止。
「このテープで兄さんが言ってる、もう一つのラジオ体操を探してくれ」それが依頼だ。もちろん日本は太平洋戦争で負けてなんかないし、ラジオ体操は1つしかない。だが俺はそれを探す。金はいつだって強いし、俺は弱い。
俺はため息を吐きながら、痛み止めがキマり過ぎたせん妄患者のローファイな排泄音と向き合う覚悟を固め、デッキの再生ボタンを強く押し込んだ。【続く】
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