シェア
スタンドは少し高めに席を取る グラウンドの隅々までを見渡して 9人をひとつの視界において 守りの回は祈りの時間 ピンチになればすることがある 9つに広がる1人1人を マウンドから順に視線で繋ぎ 想いの糸を張っていく 白球よ この糸を走り 手から手へと渡っておいで グラウンドに散らばるナインを 1本の糸で繋いだら 最後にマウンドからホームへと 幾重もの糸を張る 見えないけれどそこにある ナインの心を繋ぐ糸を 決して途切れることのないよう 祈りを込めて辿っていく 球
忘れられない場面がある 十才になったばかりの君が 正義のために流した涙を 正義のために発した怒声を 今も鮮明に覚えている その涙の一滴も 自分のためのものでなく その怒りの一片も 自分のためのものじゃない 鈍りかけた大人の魂を 揺さぶり目覚ませた その場面を その瞬間を その感情を 握りしめた拳と 震える唇と 赤く染まった瞳とともに 今もこの胸が覚えている 清廉なる魂よ 高く羽ばたけ 自らの道を真っすぐに歩め 数多の球児の未来とともに 君の未来に夢を見る 忘れ
彼らが成ろうとしたものは 誰よりも高く飛べる鳥だった 鍛えた体はずしりと重く 飛ぶために要るのは広い翼 翼の広さは心の広さ 翼の強さは心の強さ それが2年と4カ月で 彼らがその手に掴んだもの 広く伸びた骨格には 無数の羽根が要るでしょう 生え揃うことなく飛び立てば 強い風には向かえない 彼らの今がそう見えた 誰よりも高く飛ぶための 広い翼の骨格を得た 彼らの未来に訪れる飛翔は 直に揃うだろう羽根さえあれば めざす高みへ届くだろう 彼らが成ろうとしたものは 誰よりも
翼はまだないのです 真っ白なその背中には 固く閉じた骨格に 飛べるほどの羽根はなく 大空を翔けるその時を 静かに待っているのです 滴る汗が土に浸みる刹那 熱い鼓動に胸打たれる瞬間 歯を食いしばり立ち向かう時 絶望の淵を見た何時か 人知れず涙する夜 激情に駆られ目覚める朝 そして 決意の時 繰り返される瞬間(とき)の中で 柔らかで小さな少年の羽根は 意志持つ一個の羽と成り 隙間なく満ちるその瞬間に 陽光に煌めく銀の翼は 歓喜の飛翔を遂げるでしょう 白い背中の戦士た
始まりは失意とともにあった 時を止め 歩みを止め 自らの進む道 混沌に潜む光を探る 迷い 葛藤のその果てに ようやく射した光を見つけた 遠い遠い道の先 小さく眩い光へ向かい 飛び始めたのは夏の終わり 生えそろうばかりの羽を広げた 若鳥たちの編成飛行 大空高く飛翔する 心ひとつに希望へ向かって 秋の嵐も 凍える冬も 吹きつける逆風に阻まれた時も 休まず羽ばたき続けた翼 泥にまみれて千切れた羽根は 光を帯びて 銀となる 四季を超えた飛翔の果てに その手に掴んだ光はない け
その時僕らは確かに見たんだ 開きかけた扉の向こうに 光り輝く道の続きを はじめそれは彼方にあった 歩んでも駆けてみても 遥かに見えるだけの夢は 近づくばかりか霧中に紛れ 僕はそれを見失った どの道を行けばいいのだろう どうやって歩めば届くのだろうか 夢は頂きに輝いて在るのに 僕は道の続きを見つけられない ただひたすらに顔を上げ 夢中で歩む日々が続く ふと頬を照らす光 心の奥へと沁みる声 温かな想いが胸の内に満ちていく 束の間 頂きから目をそらす 僕は立ち止りぐるりと
たとえば 勝利が球体だとすれば ほどほど高いところに浮いていて 運動会でおなじみの 大玉ほどのサイズがあります 一人ずつ代わる代わるに 跳びついてみても 弾かれるばかりで一向に 掴めるものではないようです ですから 日々の研鑽で磨いた技と 通わせ続けた思いの業とが 積もりに積もり 叩き上げた堅固な土台の上に立ち みんなの想いがいっせーのーでと 整う時がそのときです 球体は時折表面が程よく湿り 手のひらにしっかりとした 手応えを残す時もあれば 石鹸水を塗ったかのように