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「桜」for Flute, Euphonium, Pianoについて

今年(2022)の3/13に、「桜」という曲が初演されます(されました)。

実は、以前から「桜」をテーマにした楽曲作りに興味がありました。そのきっかけとなったのが、
大岡信さんの『言葉の力』というエッセイです。
(中学の国語の教科書にも掲載されていますね)
以下、本文を少し引用します。

「京都の嵯峨に住む染織家志村ふくみさんの仕事場で話していたおり、志村さんがなんとも美しい桜色に染まった糸で織った着物を見せてくれた。そのピンクは淡いようでいて、しかも燃えるような強さを内に秘め、はなやかで、しかも深く落ち着いている色だった。その美しさは目と心を吸い込むように感じられた。

「この色は何から取り出したんですか」
「桜からです」

と志村さんは答えた。素人の気安さで、私はすぐに桜の花びらを煮詰めて色を取り出したものだろうと思った。実際はこれは桜の皮から取り出した色なのだった。あの黒っぽいごつごつした桜の皮からこの美しいピンクの色が取れるのだという。志村さんは続いてこう教えてくれた。この桜色は一年中どの季節でもとれるわけではない。桜の花が咲く直前のころ、山の桜の皮をもらってきて染めると、こんな上気したような、えもいわれぬ色が取り出せるのだ、と。

 私はその話を聞いて、体が一瞬ゆらぐような不思議な感じにおそわれた。春先、間もなく花となって咲き出でようとしている桜の木が、花びらだけでなく、木全体で懸命になって最上のピンクの色になろうとしている姿が、私の脳裡にゆらめいたからである。花びらのピンクは幹のピンクであり、樹皮のピンクであり、樹液のピンクであった。桜は全身で春のピンクに色づいていて、花びらはいわばそれらのピンクが、ほんの先端だけ姿を出したものにすぎなかった。

考えてみればこれはまさにそのとおりで、木全体の一刻も休むことのない活動の精髄が、春という時節に桜の花びらという一つの現象になるにすぎないのだった。しかしわれわれの限られた視野の中では、桜の花びらに現れ出たピンクしか見えない。たまたま志村さんのような人がそれを樹木全身の色として見せてくれると、はっと驚く。」
大岡信『言葉の力』より


大岡信さんは、この後、これは言葉の世界の出来事と同じ、つまり我々が話す一語一語のささやかな言葉は、その人の生き方や人生を反映すると、書いています。

この奥深い桜の世界を音楽で表現できないか?

その想いで書いた作品が、今回の『桜』という曲です。

全体は、
1)序奏
2)冬
3)厳しい寒さのなか降る雨(1月の雨)
4)春を告げる雨(2月中旬に降る大雨)
5)芽生え
6)開花
7)満開の桜
8)舞い散る桜

以上の8つの場面に分かれており、冬から春にかけての季節の移ろいを表現しています。
そして、それらの場面に「桜」を表す印象的な音型を散りばめることで、全体の統一を図っています。

各楽器について

今回はユーフォニアム、フルート、ピアノという編成です。(なかなか見かけない編成ですね)
ユーフォニアムについては、様々なソロ曲を研究していくと、♪♬(タンタタ)のリズムが多いことが分かりました。
このリズムが嫌いなわけではありませんが、これを使用すると「よくある」ユーフォニアムの曲になる恐れがあったため、今回の曲では あえてこのリズムを使用しませんでした。

またメロディも、限られた音域内で構成されたものが非常に多いことが研究すると分かりました。たしかにその方が吹きやすいのかもしれませんが、ユーフォニアムが持つ表現の可能性を探るために、今回は広い音域且つ、横に流れるようなメロディを作りました(曲の後半で出てきます)。

他の楽器に関しては、比較的スタンダードな使い方をしています。ピアノに関しては「よくある」ユーフォニアムソロ曲の伴奏の形を避けるため、技巧的且つ流れる様なパッセージが沢山ありますが、全体的に流動感と生命力溢れる演奏になると嬉しく思います。

桜の幹(2021春に撮影したもの)

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