いい夢見なよ、と男は言った

悪夢に魘されながら眠る依頼人。どんな夢を見ているのやら。俺は床に寝転がり、愛用の枕を頭の下に敷いて、仕事の準備に入る。

おっと、こいつを忘れるとこだった。俺は使い古したトランクを開き、無造作に突っ込まれたパルプ雑誌を抜き取り、枕の下に挟み込む。西部劇。俺の得意とするジャンルの1つだ。

やめて、もう許して。私を虐めるクラスメート達。男に媚びる売女が。陰気なゴミめ。誹謗中傷。悪意の視線。同級生の顔は段々と抽象的になり、足元が歪み始める。

これは夢だと叫ぶ自分を遠くに感じつつ、私は頭を抱えて蹲っていた。囲む悪意の塊。投げつけられる心無い言葉。私の心は壊れかけて「ぐぎゃあッ」「うぎぃッ」同級生の頭が弾ける。

どこからか乾いた風が吹き込む。教室の扉はいつしか酒場の扉に変わり、そこには男が一人。

「ヘイ、ヒーローのおでましだ」

古臭いカウボーイハットと拳銃を片手に。教室は酒場に。同級生は荒くれ者に変わっていた。
【続く】
#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?