老いたる機械

機械の身体や電脳は老化とは無縁である。
などと無責任に言い放ったのは誰だっただろうか。

「私の燃料補給はまだでしょうか」

滑らかな機械音声で彼が問いかける。

「AT-9、補給は終わってるよ」

「私の識別番号はAR-13です、補給はまだでしょうか」

私はダミーの液体燃料を補充する。そもそも補給不要のロボット掃除機のはずだが、AT-9もといAR-13本人が主張するならそうなのだろう。

補充を済ませた彼は掃除を開始する。ついさっき彼が終わらせた場所だと指摘するのはやめておく。彼のメモリには残ってないからだ。ああ、猫の尻尾を吸うのはやめてくれ。

優れた人工知能で家庭内の掃除を一挙に担ってきた彼にも、とうとう耐久年数間近による“老い”が訪れていた。

西暦は3000年を超え、人工知能に人権を認める法案が成立して久しからず。老いた人工知能が満足して最期を迎えられるよう、人間が機械を介護する時代が到来していた。

【続く】
#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

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