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ちょうどいい〇〇 ー34歳独身で終わった2023年ー

 ひばりヶ丘駅北口を出てすぐの松屋の隣にある安キャバで働いていた頃、後輩が彼氏を紹介したいと言うからわざわざ西東京市から鶯谷の焼鳥屋まで来てみると、後輩の隣にはフリース素材のジャケットを着たお爺さんが座っていて、まさかと思いながら着席すると「彼氏です」と挨拶された。余命がよほど短くて、遺産がよほどあるのかなどはさておいて、美味しく焼鳥をいただきながら、当時再就職先を探していた私はついでに進路相談などをさせていただいていたのだけれど、ふと老人が「君いくつ?」と尋ねるので、「32歳です(当時)」と答えると、彼は「ちょうどいいね」と言って、オダギリジョー似の30代独身開業医を紹介するとかではなく、私の尻を撫でた。

 女たちが28歳頃から「もうおばさんだなあ」と、うっすら焦りはじめ、仕事が恋人と開き直りだすのに対し、どうしてか男たちは30代以降も給料据え置き中小零細勤め実家暮らしの存在を無視して「男性は年齢を重ねるごとに魅力が増す」と言い出し、「実年齢より若く見られます」と胸を張って、前向きに生きている。挙句、しわくちゃの70歳が32歳を「ちょうどいい」扱いである。

 わかってますわかってます。32歳の女は身の程をわきまえていて維持費がかからず、気を遣わなくてもいいからちょうどいいんでしょ。

 確かに若い女はおっさんはおろか、男たちをうっすら舐めていいて、基本的には馬鹿にしている。このおっさん、水割りだっけ?炭酸割りだっけ?まあいいかバレない大丈夫大丈夫くらいの気合で生きているし、水割りもお茶割りもごちゃまぜにする。私にだって20代だったころはあるのでよく知っている。

 とはいえ、30代になった途端に謙虚で控えめな性格になって、「こんな私でよかったら」なんてもちろん言い出さない。おっさんのことはそんなに尊敬していないが、おっさんの金で肥えた舌と浪費癖はそのままに、結婚もせずに働いていたらイヤでも仕事を覚えるし、自分の稼ぎで叙々苑の肉を食い、駅近築浅物件に一人で暮らすようになる。「さすがです」「知らなかった」は空々しさを増し、「こんなの初めて」は年々減る。結婚相談所には「高望み・理想が高い」などと評価され、こうして絵に描いたようなモンスターができあがる。それが我々です。

 全くちょうどよくない。70歳の爺さんが並んで茶漬けを食べたり、たまに旅行に出かけるのにちょうどいいのは70歳のおばあちゃんで、32歳の血気盛んな女じゃない。あなたたち70代80代の爺さんが30代の女に抱く正しい感情は「性愛の対象ではないが娘や孫のように可愛いのでお金をいっぱいあげたい」なのでよく覚えておくように。

 ちなみに後輩はその後しばらくして爺さんとは別れた。出会いがあれば別れもあります。すべて星か方角か生年月日のせいにでもして前に進みましょう(適当)。来年こそは無職じゃなくて借金まみれじゃなくて穏やかな30代イケメンと出会えますように。南無。

おわり

 


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