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インド概説

中国は日本の歴史に深いかかわりを持ってきたがゆえに、その近現代史についても比較的学んだ記憶がある。国共内戦とか文化革命とか天安門事件とか。しかしインドについてはよう知らん。というわけで、ざっくりインドの現代史をみなさんと学ぼうと思う。

インドはアーリア人が原住民のドラヴィダ人を駆逐したと学んだような気がするが、現代のインドは南インドに追いやられたドラヴィダ系インド人の方が教育水準が高く、治安もよく、バンガロールやハイデラバードなどのIT集積地も擁している。
よく知られているようにインド人は「出身地・言語・宗教・カースト」の4つでその人のアイデンティティを規定されてしまう。9億人の国民がインターネットで総選挙の投票を行い、軍事クーデターが1度も起きていないことなどから「世界最大の民主主義国」と言われているが、三権分立とかシビリアンコントロールの側面からしたら民主主義国だとしても、「自由・平等・博愛」が民主主義の根幹だとしたら、とてもインドがそれに当てはまらないような気が私にはする。

とはいえ、このような多様性の中で生きるインド人だからこそ、世界中で活躍しているわけだ。抽象的な思考に優れたインド人は数学・工学・ITなどの分野で優れ、グーグル・マイクロソフト・アドビなどのグローバルIT起業のCEOはインド人が占めている。かつては世界最高水準のインド工科大学をはじめとする教育機関から海外に人材を輩出してきたが、近年はインド国内でもインフォシスなどITが次々と育っており、ユニコーン企業は71社ある(日本は6社)。タタなどの財閥も自動車のみならずあらゆる業界を抑え、国内消費者の信頼を勝ち得ている。

インドと言えばインド独立の父マハトマ・ガンディーであり、その盟友ネルーであるが、ネルーの子孫であるガンディー家は実はマハトマ・ガンディーとは血縁関係がないのにも関わらず、多くの国民がそれを知らず、ガンディー家が牛耳るインド国民会議派が長年政権を担ってきた。
ネルーの「第三世界」志向からの伝統で、冷戦時代も非同盟外交を行ってきたが、実はソ連(ロシア)との関係が深い。というのもインドから分離したパキスタンを長年アメリカが支援してきた(ここにもアメリカ外交の破綻が見える)ため、インド・パキスタン戦争の時に支援を受け、勝利に貢献してくれたロシアとは安全保障上切っても切れない関係なのだ。中印紛争など中国に裏切られ続けたインドは、アメリカとも中国とも距離を置いていた。モディ首相がウクライナ侵攻時、ロシア非難決議に棄権票を投じたのもこうした背景がある。とはいえ、ロシア、中国、アメリカ、ウクライナとの関係は流動的である。

現代インドの顔と言えばモディ首相であり、汚職撲滅・インフラ整備・投資環境の改善に努め、世界第5位の経済大国に育てたモディの功績は大きいが、中国の経済発展モデルを念頭に、規律を重んじる開発独裁型リーダーを目指しているといわれる。

人口は多く、市場は大きく、人材は若く優秀で、日本からしたら輝かしい国であるのは間違いない。親日国であり、インドに友好的な日本人も多い。というわけで脚光を浴びないはずはない新興国だが、深刻な医療体制・所得格差・男女間格差・貧困問題など、影の部分もやはり見逃せない。特に重症ともいえるのが、人権軽視と、環境問題だと私は考える。ニュースをみるだけでも、レイプや殺人などにわかには信じがたい事件が常に起きているし、ガンジス川の汚染やニューデリーの大気汚染など、これでは住めたものではない。人権と環境問題は地味な問題かもしれないが、インドにとっては宿痾として近代化を阻害し続けるかもしれない。

まったく個人的には、インドに非常に好感を持ちつつも、やはり治安や人権、環境問題を含めて、住みたいかというと住みたいない国であるのが正直な思いである。これらの問題を解決したとき、輝ける民主主義国のリーダーに躍り出るように思う。でもその道のりは長いと思う。

参考文献:近藤正規『インド―グローバル・サウスの超大国』


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