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福岡天神よ、セレンディピティの街になれ!

天神から博多へ買い物客が流れる?

福岡天神はデパートから商店街からファッションストリートから大型家電店からなんでもそろう福岡の中心街でしたが、私にとっての天神と言えば大型書店のジュンク堂福岡店でした。西日本最大級の140万冊という品ぞろえ、19年という短い間でしたが、東京から遠く離れた福岡でも東京なみの文化的生活が送れたのは、ひとえにジュンク堂のおかげだったと思います。
そのジュンク堂福岡店がくだんのビル建て替えプロジェクト「天神ビッグバン」に伴い2020年、天神西通りのフォーエバー21跡地に移転しました。規模は4分の1だそうですが、体感では5分の1くらいですかね。
それでも天神西通りにジュンク堂ができたことはよかった、と個人的には思います。
理由のひとつはジュンク堂がなければ、大型書店が天神になくなるところだったからです。そうなると買い物客は60万冊を揃える博多シティ8階の丸善に移ってしまって、それこそ天神が廃れてしまうのではないかと危惧していたからです。
大げさなと思われるかもしれませんが、2011年にオープンした博多駅ビルのJR博多シティは229店舗を擁し、入館者はなんと年間7000万人を突破しています。それに伴い天神の売上は下がっていると報じられています。天神に大型書店がなくなれば、それこそ「天神離れ」に歯止めが利かなくなると危惧していたのです。

大型書店がファッションストリートにできた意義

理由のふたつめは、天神西通りという若者のファッションストリートに書店ができたということです。
最近、ひさびさに天神西通りのジュンク堂を訪れたのですが、やはり以前の品ぞろえとは比較にならず、残念だなあと思いながら回遊していました。ところがジュンク堂にたまたま訪れた若者のカップルが、「すげえ!本っていったい何冊あるんだ」と驚いているのです。
若者の本離れは顕著です。体感では若者のうちコアの5%は年間何冊も本を読みますが、95%は全く本に触れないという感覚です。
本そのものに触れない若者が、偶然に本に出合う機会が増えることは、とても良いことだと思います。

消費者が偶然、思いがけない商品に出会うことを、マーケティング業界では「セレンディピティ」と言います。
私は以前、印刷業界の記者をしていのたのですが、最初にこの言葉を聞いたのは15年前、まさにジュンク堂と丸善を運営する大日本印刷の方からでした。当時からアマゾンのネット通販に圧倒されていたリアル書店では、ネット通販にはない強みを模索していたのです。
そのキーワードが、「セレンディピティ」です。ネット通販のリコメンド機能のアルゴリズムでも出会えない商品に偶然出会える場、それがリアル書店だというわけです。
私もとても実感があります。池袋ジュンク堂は9階建て、回遊しているうちに、入店前には考えてもいなかったジャンルの本を買うことがしばしばありました。例えばアメリカの政治思想史の本を買いに来たのに、セザンヌの画集を手にレジに向かったりすることもありました。
そういったセレンディピティの場が、若者のファッションストリートである天神西通りで起こればいいなと考えているのです。

新福ビルの「創造交差点」

2024年に旧福ビル・天神コア・ビブレ跡地にできる新福ビルのコンセプトでも、「セレンディピティ」という言葉を使っていて、とても好感が持てました。開発業者の西日本鉄道では新福ビルのキャッチコピーを「創造交差点」と謳っています。ビジネスオフィス一つをとっても、コワーキングスペースを設けていますし、ショッピングスペース、ホテルも含めて、多様な人々が集まる。そして新しいものを創造する。

そういった街に天神が生まれ変わればと願っています。


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