見出し画像

相手方との個人的な距離を詰める _問われるサーチャーの価値観③_コラム023

セミナーを開催します

企業オーナー様・M&A仲介/アドバイザー向け: 7月28日水19時
https://peatix.com/event/1987464/

サーチャー候補向け: 8月3日火19時~
https://peatix.com/event/1984187

㈱サーチファンド・ジャパンと私からサーチファンドとして出来ることを詳しくお話する場になってます、是非ご参加下さい。

理想のお相手と地道に信頼関係を構築する

何回かに分けて、いとこ同士のサーチャーペア Buck Jack Capital のケース を取り上げています。LOI直前で破談したり、やっかいな交渉相手(ニセ情報を伝えたり商売上で保険を悪用する企業)と決裂したりと、サーチファンドらしい苦労の軌跡を追ってきました。過去2回分を未読の方はこちらを御笑覧ください。
効率的に進めた結果のLOIで_問われるサーチャーの価値観①
DDで感じた小さな違和感_問われるサーチャーの価値観②

これまでのプロセスを通じて二人のサーチャーが学んだ教訓をまとめると以下のようになると思います。

教訓①: サーチの効率化より自分の価値軸を強化する方が大事
教訓②: 対象企業オーナーとの人間対人間の信頼関係が大事


陳腐な言葉になってしまいますが、期間限定の企業買収という仕事ではとかく忘れがちな事柄なのかも知れません。

2回目の破談の後、二人は理想的なお相手をみつけます。The Shandy Clinic(シャンディ・クリニック)という、タイ・シャンディとエイミー・シャンディ夫妻が設立・運営する病院で、コロラド州で最大規模の自閉症の患者さんを対象とした治療機関です。時期としては2019年頃と思われますが、正確な時期は不明です。

シャンディ・クリニック出会いの経緯と馴れ初めについて、少々長いですが参考になる記述がありますので引用してみます。

人間のつながり

偶然がつなぐご縁、そしてプライベートな話は沢山する方が良い

It was the novelty of Franklin’s email that led the Shandys to respond. In particular, the subject line: Former fourth grade teacher would love to talk with you and Amy. It turned out Ty’s mom had also been a fourth-grade teacher. ...  Also during that meal, Amy asked the cousins about how their families had raised them, and then point blank, what their values were. Franklin shared how, as young kids, she and Colt rode a horse that would always buck them off. “But, no matter how many times we landed on the ground,” she told them, “we always got back on. We decided to keep that lesson top of mind by naming our fund after that horse, Buck Jack.”  
(意訳)シャンディ夫妻が反応したのは送られてきたメールが目新しかったからだ。何より件名「私は元小学4年生の教師です、是非お話したい」。なんと、タイのお母さんも4年生のクラスを受け持つ担任だったのだ。(中略) そして食事の際、エイミーは二人の家族が二人をどう育てたのか、価値観は何なのかを単刀直入に尋ねた。フランクリンは、幼い頃に二人が乗馬遊びをして、いつも馬から振り下ろされたエピソードも話した。「何度振り下ろされても、また乗ろうとするんです。その教訓を忘れないために、ファンドの名前をその馬の名前『バック・ジャック』から取りました」

メールの表題にローラの前職(小学4年生のクラス担任)を記載したことで偶然の一致が発覚し、相手の注意を惹く。狙ってできることではないのでしょうが、サーチファンドの活動において、ちょっとしたご縁や偶然の連鎖がお互いの心理的距離を縮めることが少なくないようです。

私の印象では、交渉の場数を多く踏んでいる人ほど、プライベートの話や家族・趣味・子供時代のことなどをオープンに話す傾向がありますが、それは、こちらから胸襟を開くことで相手との距離を縮める効果を知っているからではないかと思います。

あわよくばセレンディピティと呼ばれるような、ふとした偶然から幸運をつかみ取る可能性も決してゼロではありません、とにかく初めて出会った同士、何がきっかけでどう転ぶのか分かりません。

まだこの世界では駆け出しの私ですが、趣味のこと(多くは無いんですが)、過去に行った旅行の話(最近は遠出してませんが)、出身地や子供時代のこと、家族のことなど、出来るだけお相手に伝えるようにしています。

問われる価値観、相手の「人間」を知りたがる売り手

エイミーは二人の家族がどのように彼らを育ててきたのか、彼らの価値観は何なのかを単刀直入に尋ねた

企業価値(買収価額)をいくらと算定するのか、社名は残すのか、従業員を大切にしてくれるのか、どんな経営方針を掲げるのかといった問題は勿論重要なのですが、その前に、我が子同然の大切な企業を譲り渡す相手はいったいどんな人間なのかを知りたいという欲求は、特に売り手側にとっては強くあると思います。

馬と女性

そして、相手のビジネスを "身体ごと" 理解する

さらに、ローラ・フランクリンと従弟(いとこ)のウィリアム・コルトのペアが身体ごと突っ込んで事業を理解している様子が描かれます。

Over the following months, Franklin and Colt flew to Colorado Springs repeatedly. They focused on understanding the Shandys’ business instead of diving straight into spreadsheets and discussions around price. And, at each visit with the Shandys, they received affirmation that they were making progress building the relationship. ... "We were also investing more of our time into building personal relationships than we had in the past. For example, a few times a week when we were in town, Laura and I would wake up at 5 A.M. to join the Shandys at a spin class. And, after I learned that Ty enjoys outdoor cycling, I started going on long rides with him—which were not easy after eight years out of the saddle."
(意訳)それから数カ月、フランクリンとコルトはコロラドスプリングスに何度も足を運んだ。彼らは、表計算や価格の議論に飛びつかずに、シャンディ家のビジネスを理解することに集中した。 (中略)「私達は、以前よりも個人的な関係構築に時間を割きました。例えば、週に数回、私とローラは朝5時に起きて、シャンディ夫妻のスピンクラス(サイクリングを利用したトレーニング)に参加しました。また、タイが屋外でのサイクリングを楽しんでいることを知ってからは、彼と一緒にロングライドに出かけるようになりました。8年間も自転車に乗っていなかったので、容易ではありませんでしたが。

画像3

オーナー社長との自転車のロングライド。一見、M&Aやビジネスとは関係がないように見えますが大事なポイントです。

日本では酒席・宴席を設けたり、一緒にゴルフをしたりするのが一般的かも知れません。そうした昔ながらの(?)の人間関係構築は、私はあまり得意ではありませんし、「飲み会を絶対に断らない」的なスタンスも好きではありません。

一方で、相手方はこちらの人間を知りたがっています。プレゼン資料や職務経歴書、F2Fの打合せやZOOMを通して先方がこちらの「人間」を掴んでくれれば問題ないでしょう。しかし、現実にはなかなかそうは行かないケースも多い。

こうした、フィジカルな方法は(少々変な呼び方ですが)、同時にこちらが相手方のビジネスを理解することにも役立ちます。相手のビジネスを理解するには、現場・サイトに身を置いてみるのが一番です。百聞は一見に如かず、百見は一度の現場体験に如かず。営業現場を見る、客として買ってみる、工場のラインをみせてもらう、あわよくばライン作業を1日とか半日でも良いから体験させて貰う。勿論、オーナー社長に了解を貰い、かつ現場の社員さんに付き添って貰いながらです。

オーナーからすれば、私達を間接的にであれ(企業買収のことは事前に伝えられないケースが殆どです)、現場の社員さんに紹介することになる訳です。当然社員さんからは「どこの誰だろう?」と懸念されますが、そんなリスクを冒してでも、こうした場を設けてもらうということは、つまりそれだけ信頼関係が構築されているとも言えます。

こうして確実に徐々に距離を縮めて行き、投資家の説得も終わり(全部で11人いたそうです)、「ようやく苦労が報われるかも知れない」という手応えを感じながら2019年が終わります。

画像4

悪夢の2020年、パンデミック襲来

年が明けた2020年、中国に端を発したウィルス蔓延が、瞬く間にアメリカ合衆国にも広がります。日々広がる感染状況、ロックダウン、株価の暴落。

この危機的状況に呆然とする二人の様子も描かれています。

Laura Franklin and William Colt met at the kitchen table of their Colorado Springs apartment to decide how to respond to the spread of COVID-19. The pandemic had reached Colorado, which caused them to question their plan to close the purchase of the Shandy Clinic in a few days. The documents were complete, approvals had been granted by the state authorities, and investor money had been received. All that remained was signing the last page and wiring the money. They were worn out from working on this acquisition for two-and-a-half years and, in anticipation of closing, the pair had spent their last few thousand dollars paying off outstanding bills—leaving them completely out of money. Franklin said to Colt, her cousin, “If this falls apart then we’re done. I might as well go back to teaching fourth grade in Mississippi, and you to installing pipelines.”
(意訳)ローラ・フランクリンとウィリアム・コルトは、COVID-19の感染拡大への対応を決めるため、コロラドスプリングスのアパートのキッチンテーブルで向かい合っていた。コロラド州にまで及んでいたパンデミックが、数日後に迫ったシャンディクリニック買収完了に疑問を投げかけたのだ。書類は揃った、州当局からの承認も得た、投資家からの資金も揃った。残るは、最後のページにサインをしてお金を振り込むだけだ。2年半もの間、サーチ活動を続けて来た2人は疲弊していた。最後の数千ドルを未払いの請求書の支払いに使ってしまい、完全に資金不足に陥っていた。フランクリンは、コルトに言った「これで失敗したら私達は終わりよ。 私はミシシッピ州の小学4年生の教師に戻り、あなたはパイプライン敷設の仕事ることになるわ

またまた長くなりました、残りは次に回します。二人が最後どんな決断をするのか、私だったらどう対処するか、次回考えてみたいと思います。

SNSでも発信しています

Facebook: /takashi.oya.104
ツイッター: @Oya_SearchFund

#サーチファンド #事業承継


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?