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効率的に進めた結果のLOIで_問われるサーチャーの価値観①_コラム021

セミナーを開催します

企業オーナー様・M&A仲介/アドバイザー向け: 7月28日水19時
https://peatix.com/event/1987464/

サーチャー候補向け: 8月3日火19時~
https://peatix.com/event/1984187

それぞれの方向けに㈱サーチファンド・ジャパンと私からサーチファンドとして出来ることを詳しくお話する場になってます、是非ご参加下さい。

苦境のときこそ "価値軸" を強固にする

何回かに分けて、サーチャーが価値観を問われる場面について考えたいと思います。

サーチ活動がうまく行かないとき、相手側との交渉で大きな決断を求められるときには、ホントは何をやりたかったんだっけ?という問いを、サーチャーは自問自答することになります。

そんなときこそ己の価値軸が強固になるチャンスです。ここがフワフワしたままではM&Aは成就しないか、運よく成就したとしても後々の経営で困難に直面することになるのではないか、というお話です。

今回取り上げるのは、いとこ同士のサーチャーペアという珍しい事例Buck Jack Capital のケースです。

ローラ・フランクリンは従弟(いとこ)のウィリアム・コルトを誘ってBuck Jack Capital というサーチファンドを立ち上げます。ケース資料内には活動資金の立ち上げ時のことがあまり詳しくは書かれていないのですが、2018年頃にファンドを立ち上げて活動をスタートしたようです。

サーチ活動を効率化して多くのオーナーと出会う

二人が最初にやったことはサーチ活動を効率的に進めることでした。「約2年間」という期限が決まっている以上、「効率化」は誰でが考えるところでしょう。引用してみます。

さぁ行こうぜ

To streamline prospecting, Colt tested a custom tool with around 30 potential sellers that programmatically personalized a simple email. “We learned from investors that the response rate to our initial emails was typical of cold emails,” Colt recalled. “We used that same process to contact thousands of companies and spoke with each that responded.” Following dozens of unsuccessful meetings with other prospects, Colt and Franklin entered advanced discussions with Paragon Energy, an electricity brokerage in Houston. In late September, Paragon’s owner agreed to sign an LOI with Colt and Franklin.  “After dinner,” Colt remembered, “the seller surprised us with Paragon-branded polo shirts to wear when we announced the new ownership together.”
(意訳)最初の探索活動を効率化するために、個社毎にメールの内容を変えらえるようプログラミングされたツールを開発して、それを約30社の候補企業に向けてテストした。コルトは、「最初のメールへの反応率は(求められていない)"飛び込み"メールと変わらないよと、投資家からきいていました」と振り返る。「同じやり方で何千もの企業に連絡を取り、反応のあった企業と話をしました」。コルトとフランクリンは、候補先とのミーティングが何十回も失敗した後、ヒューストンの電力ブローカーであるパラゴンエナジー社との話し合いを進めた。9月下旬、パラゴンのオーナーは二人とLOIを締結することに合意する。「夕食の後、売主がパラゴンブランドのポロシャツをサプライズで用意してくれて、一緒に新しいオーナーになることを発表したんだ」とコルトは振り返る。

話が簡略化されているので分かりにくいのですが、交渉事に多くの時間と労力を割くために、最初のコールドコールを工夫して簡略化した様子がうかがえます。

でもやっぱり遠回りは避けられない?

候補先とのミーティングが何十回も失敗した後」とさらっと書かれていますが、この間費やしたお金や時間、労力はかなりのものだったと思います。効率化のしかけ(?)をつくっても、遠回りは避けては通れないものなのでしょう。

そうしてようやく出会ったのが電力ブローカー・パラゴンエナジー社です。これは発電事業者がつくった電力を仲介する業者のことで、アグリゲータと呼ばれることもあります。

「LOIを締結することに合意した」「一緒に新しいオーナーになったことを発表した」とありますから、場面はLOI締結の直前(サインはまだしてない?)で、自分たちの投資家だけでなく、オーナー側の株主や関係者にも通知したということでしょう。

ここまで来れば普通はすんなりとLOI締結まで行きそうです。

握手

LOI締結直前の急転直下

しかし、その直後に二人は考え直します。パラゴンエナジー社との夕食後の帰り道、車の中の様子が描かれています。

As they drove home, there was an uncomfortable silence in the car. Eventually, Franklin said what was on both of their minds, “I cannot go through with this. I have no interest in running an energy company. It is just not me.” They had been pretending to be enthusiastic to get the company under an LOI. Colt explained, “By going through such a high volume of leads, Laura and I figured we were bound to eventually find the right company. But we realized that focusing on process distracted us from reflecting on what kind of company was personally authentic.”
(意訳)帰りの車の中では居心地の悪い沈黙が続いた。やがてフランクリンは2人の胸中にあった言葉を口にした。「このままじゃマズいわ。私、エネルギー会社の経営になんて興味ないもの。私には向いていないわ」二人は、LOIに基づいて会社を設立しようと意気込んでいるふりをしていたのだ。その理由をコルトは説明する。「これだけ大量の案件をこなしていれば、ローラも私も、いずれはいい会社に巡り合えるだろうと思っていました。しかしプロセスを重視するあまり、自分達らしい会社とは何かを考えることができなくなってしまったのです。

売り手側のパラゴンエナジー社からすれば寝耳に水だっただろうと思いますが、結局この後、Buck Jack Capital側からLOI締結を断念することを申し入れ、この話は破談となります。

「これだけ大量の案件をこなしていれば、ローラも私も、いずれはいい会社に巡り合えるだろうと思っていました。」

という発言の通り、多くの時間や交渉を経ると、そろそろ決めたいなという誘惑がむっくと起き上がって来ます

「もう十分探しただろう、このまま続けてもっと良い候補に出会える確証は何もない。だったらいま目の前にいるお相手に決めるべきじゃないか。せっかくのチャンスをフイにすることはない。後から後悔したくないし、その時に時間切れ(資金活動が尽きる)にでもなったら取返しがつかないじゃないか、、、。」

とセリフっぽく書いてみましたが、こんなセリフはケース資料には出て来ません。しかし、恐らくこのような気持ちが二人の胸中に渦巻いていたのだろと推察します。

サーチファンドにおける失敗とは

最後にこのコラム等でも度々引用しているBrown Robin Capital のライアン・ロビンソン氏が同ケース内で述べている言葉を引用して終わりたいと思います。

In a search fund, ‘failure’ is not failing to buy a business. Failure is buying a bad business.
(意訳)サーチファンドにおける失敗とは企業買収できなかったことはなく、ダメな企業を買収してしまうことである。

"Bad business"の定義は様々でしょうが、自分たちの土地勘も興味もない企業に投資家から集めたお金を投じてしまうのは、結果的に失敗を招いてしまうことになること、苦しい時期が続くと活動資金の枯渇=時間切れの恐怖に支配されますが、そんなサーチャー達に対する警告のようなものでしょう。

自分達の「興味のない」企業を買わずに済んだローラ・フランクリンとウィリアム・コルトのBuck Jack Capital ですが、この後も更なる困難に直面します。やはりそこでも問われたのは自分達の価値観でした。

長くなりましたのでその話は次回にしたいと思います。

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