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サーチャーになる前に経験しておいて良かった仕事とは_コラム002

はじめに

このコラムは事業承継先のサーチ活動を続ける筆者が、日々感じたことを徒然に記録するものです。サーチファンドについて体系的に知りたい方はこちらの連載を御笑覧下さい。

これまでの職歴

3つの会社のサラリーマンを経験しました、職歴は以下の通りです。

■(株)博報堂: 広告代理店、営業・マーケティング
■㈱ミスミ: 機械部品商社、商品開発、海外駐在(東南アジア・インド)
■フロンティア・マネジメント㈱: 企業再生、取締役2社・執行役員1社

現在サーチ活動中であり、投資実行後のCEO経験はありません。あくまで現時点での(活動最中での)判断になる点ご容赦ください。

良い職歴=オーナー社長が認めてくれる職歴

サーチャーは、オーナー社長から「あなたに事業を譲っても良い」と認めていただくことを目指します。いくら売却意向が強いケースでも、「この人には譲りたいくないな」と思われたら、そこで終わりです。

1人の人間(サーチャー)が、もう1人の人間(オーナー社長)に認めていただくというプロセスが非常に重要になる。これが一般的な企業間のM&Aとは異なる点です。人対人、良くも悪くもウェットな事情がそこにあります。

アクセラレータ型のサーチャーは、候補企業にM&A仲介業者(㈱サーチファンド・ジャパンでは日本M&Aセンターが株主なので、同社からの紹介が多い)を介したり、あるいは地域金融機関からの紹介というケースが多いです。

仲介者がいる場合、先方への初回コンタクトも人を介します。仲介業者さんから推しコメントを添えていただいたりもしますが、基本的にはプロフィールの記載内容がすべてです。性別、年齢、居住地、家族構成、学歴、職歴、保有資格、趣味、見た目(顔写真)など。

当たり前ですが最も大事なのは職歴です。オーナー社長から「この経歴を持っている人だったら会ってみたい」と言ってもらえる「この」にあたる部分です。

何人かのオーナー社長にお会いした経験から、経歴のどこに反応されたかをまとめてみたいと思います。

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経験して良かった仕事①:事業会社での実務経験

㈱ミスミという機械部品商社に9年ほど勤務していました。

一般にモノを売る事業会社の仕事とは、商品を開発し、生産し、売るというサイクルを回すことです。コンサルや広告代理店では、この商売の手触り感はなかなか経験できません。

コンサルはクライアントにいろいろと提案をしますが、機械部品は提案だけでは生産できません。

広告代理店のように、買い付けたメディア枠(モノではなく情報)をバルクで販売してコミッションで稼ぐという商売も、製造業では成立しません。

モノは設計した通りに製造できないこともあるし、壊れたり、腐ったりもします。納期遅れでお客様に届かないこともあるし、売れ過ぎたら在庫切れも起きますし、届いたものが不良品だったということもあります。

モノをゼロから開発して商品を顧客にまで届けるプロセスの中に、サービス業では経験できない要素が沢山あります。

この点はオーナー社長から評価されることが多いように思います。多くのオーナー社長は現場の叩き上げ、社内のすべてのプロセスを自分でやった経験を持っていますから、自分の手で事業を回した経験を相手方に求めるのは必然なのかも知れません。

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経験して良かった仕事②:中小企業への出向(役員派遣)

フロンティア・マネジメント社での勤務経験です。大企業へのコンサルティングではなく、身1つで地方のオーナー企業に入り込んで、創業家の方々に並んで取締役として入ることもありました。

この場合、もし経営が悪化したら大きな責任を負うことになります。再生が成就せず、創業家と関係がこじれてしまうと係争案件に発展するケースもあります。

コンサル業界では「ハンズオン」「常駐支援」と言ってクライアント先へ派遣することは当たり前になりましたが、肩書を持ってラインに就くケースは稀です。理由は簡単で、もし経営の同じ船に乗って失敗しても責任取れないからです。評判が何よりも大事なコンサル業界で「●●社はコンサル入ったのに潰れたらしいよ」と言われるのは痛すぎます。「常駐」と言いながら朝から晩まで会議室に陣取っているだけのケースも多い。

こうしたリスクの高い仕事をしてきた点を評価いただいたりもしました。

会議室

経験して良かった仕事③:脱サラしたこと

反則な書き方でごめんなさい。ですがオーナー社長からの評価と言う点ではとても大事です。

オーナー社長を前にして「事業を譲ってください」と言うとき、「いまはサラリーマンです(譲ってくれたら辞めます)」なのか、「もう辞めてきました」なのかでは、相手方の受け取り方がまったく違います

念のために添えると、こうしたリスクを取ることをすべからく推奨するものではありません。別の連載でも書きますが、㈱サーチファンド・ジャパン副業でのサーチ活動を推奨しています

私も副業でスタートしましたが、開始直後に気づきました。「事業承継が決まるまではサラリーマンを続けます(≒安全地帯にとどまります)」は、オーナー社長に対峙するとどうしても「弱い」と。

オーナー側の立場に立って想像すれば、容易にご理解いただけると思います。

更に言えば、サーチャーの勤務先が副業を認めていないケース。無報酬で活動していれば就業規定には抵触しないでしょうが、何となくバレたくはない。すると「いまは内緒で活動しているので、私のこと余所では黙っていてくださいね」とオーナーにお願いすることになります。「会社を譲ってください」とまで願い出ておきながら「私のことは口外しないでね」というのは少々腰砕けな感じもします。

こうしたことを考えると、覚悟を決めて参りましたと言い切れるのは大きな効果があると思います。

脱サラは実は投資家にとっても大きな意味がある

後がない状態というのは売り手側も去ることながら、投資家にとっても重要な要素のようです。

この点について、世界のビジネススクールでよく使われるBrown Robin Capitalのケースでも指摘があります。ブラウン&ロビンソンというスタンフォード大学GSBの同窓生2人組が、投資家に対峙したときの様子です。(※1)

As Robinson put it, “When we went into an investor meeting, the first thing they would want to know is how committed we were.  (中略) So what we said that really excited them is that we were totally committed. We had ‘burned the boats.’” 
(意訳) ロビンソン曰く「投資家とのミーティングで、彼らがまず知りたがったのは私たちがどれだけコミットしているかということでした。 (中略) 彼らを本当の意味で喜ばせたのは私たちが完全にコミットしているいう言葉だったのです。「背水の陣を敷いています(脱出用ボートは焼き払った)」と。

「お金を出してあげても良いけれど、君たちどこまで本気なんだ?」という感じでしょうか。

ここでの背水の陣とは、ブラウン&ロビンソンがサーチ活動だけに専念して別の活動は一切行っていないという意味です。このケースの中には、MBAの同窓生たちが、投資銀行やコンサルティングファームから高額のオファーをもらって旅立っていくのに後ろ髪をひかれる2人も描かれており、なかなか考えさせられるものがあります。

オーナー社長であれ、投資家であれ、活動の中心人物であるサーチャーのハラの据わり方に関心を持つのはサーチファンドの仕組みから考えれば当然なのですが、しかしときに忘れがちなポイントでもあります。

ちなみにBrown Robin Capitalは伝統的なサーチファンドであるが故に、投資家から直接に厳正な審査を受けるという点はあると思います。私のようなアクセラレータ型は、投資家との間にサポーターがいるため少々事情が異なります。

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※1: サーチファンド発祥のStanford Graduate School of Businessが作成したBROWN ROBIN CAPITALのケース資料は、The Case Centreのサイトに登録すれば誰でも購入できます。PayPal/クレジットカード決済で£6.45(≒1,000円)でPDFファイルとしてダウンロードできます。

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