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進化するブラジル先住民アート

ブラジルの先住民アートは進化しています。先住民アートというとプリミティブなイメージがありますが、現在は、もっとマーケットの需要とデザインに焦点を当てて、「売れる」民藝を作っています。そんなことをしては彼らの文化の破壊に繋がるのではないかと、批判する声もありますが、私はそうは思いません。ペルーでは、アンデスの先住民が、かつて自分たちの民藝の生き残りをかけて、ペルーの一般社会の需要に合わせて変えたように、ブラジルの先住民アートも、ここ20年ぐらいのあいだにずいぶん様変わりしました。時代に応じて変化していくのは当然であり、市場の需要に応えることで彼らの技術の向上やデザインのイノベーションが起こるので、今後も進化し続けると思います。
一例として、アマゾンの先住民たちが作った職人協会「バルセロス先住民芸術文化団体(NACIB)」を取り上げて、どう進化しているのか紹介します。

ブラジルの先住民アートとは

かつて先住民の多くは、暮らしに必要なもの全てを自分たちの手で作り出していました。住居に始まり、ボディペインティング、織物、羽根装飾品、土器、編み組細工、木製の道具、楽器など、これら全ては、(私たちがするように)外部から買ってくるのではなく、内部で作られてきました。しかも、各々が好きなように作るのではなく、彼らが作るものには、部族の在り方やエネルギー源のメッセージが込められており、代々受け継がれてきた伝統的な手法に従い、制作されます。ですから、彼らの手から作り出されるものには全て、部族の美的感性が反映されているのです。先住民の間では、芸術と生活は混ざり合っていて、分離することはできません。例えば、火起こし用のウチワだって、そうです。丹念に編まれた植物の繊維で作られた編み細工は、デザインと制作過程の中に芸術的メッセージが込められており、これも先住民の芸術表現の一形態なのです。



ブラジル先住民アート+デザイナー

ブラジルの先住民の中には、一般社会と一切の交流を遮断して、今も自給自足の生活をしている部族もまだ極一部いますが、多くは、なんらかの形で一般社会と関わっています。そして、経済活動を彼らの手仕事「民藝」に頼っています。自分たちの編み細工や木彫り細工の技術を活かして、民藝を作り、販売して来ましたが、高度な技術や芸術性を評価されることなく、二束三文で地元の土産ショップに卸していました。

アマゾンのバルバロス市に住む先住民職人たちも同様でした。この町には、バレ族、バニワ族、タリアノ族、トゥカノ族、トゥユカ族といったアマゾンのネグロ川流域に居住する部族の人たちが住んでおり、ジナウバ・カンポスさんが、部族の違いを越えて、編み細工の女性先住民の職人を集めてNACIBを作ったのは、彼らの民藝の価値を高め、もっと広く普及させるためでした。2012年に創設したものの、なかなか軌道に乗らず、そこで、SEBRAEという民藝職人を支援する行政機関の支援を受けることにしたそうです。彼女たちに転機がおきたのは、2014年、SEBRAEの支援プログラム「ブラジル・オリジナル」で、デザイナーとのコラボをする機会を設けてもらってから。インテリアデザイナーのセルジオ・マトス氏の協力で、ネグロ川流域に生息するヤシの一種、ピアサバの繊維を使って、先住民の伝統的な技術を100%活かしたカゴのコレクションを制作することに成功しました。有名デザイナーとの共同制作により、ギフトショーに参加したり、インテリア雑誌に掲載されたりすることになり、一気に販売がブラジル全国規模に変貌。ネグロ川流域に居住する複数の部族が伝統的に守って来た編み細工の技術は、デザインを更新することでブラジル全国に知られるようになりました。

このようにここ20年ぐらいの傾向としてブラジルでは、先住民の編み細工の技術+デザイナーとのコラボ商品が流行っています。生粋の先住民アートではなくなっていますが、他者と力を合わせることで、一般市場の扉が開き、彼らの技術が、ブラジル全国、ひいては海外まで認識、評価されることになったのです。これも彼らの文化の生き残りをかけた術であり、コロンビアやチリ、アルゼンチンなどでも同様の活動が行われています。

進化するブラジル先住民アート

ブラジル全国展開に成功したNACIBは、アマゾン地方の成功例の一つで、今やお手本となっています。とは言え、ブラジルマーケットのニーズに合わせるために、外部のデザイナーへの依存が大きすぎては、やがてアイデンティティの面で行き詰まりが出てくる可能性も含んでいます。そうならないために、NACIBは、自分たちの伝統アートの再構築にも取り組んでいます。伝統的に受け継がれてきた編み細工の火起こし用ウチワにいろいろな色を取り込み、カラフルに。とても乙女チックな仕上がりが話題を呼んでいて、壁に飾るインテリアとしてとても好評なのです。

ここにもう一つ興味深い進化を遂げている先住民アートの例をあげてみましょう。カヤポ族とブラジルの履物メーカー「ペルキ」とのコラボ商品です。カヤポ族の女性たちは、部族内で伝統的に幾何学模様のボディペインティングとビーズ装飾作りを任されています。この絵の技術を応用して、エスパドリーユやリュックなどのカバンの生地に、この幾何学模様をハンドペイントするというものです。カヤポ族の村に届けられた生地に伝統的な手法で描きます。幾何学模様は、カヤポ族の大切な芸術表現であり、それを靴やカバンに変えるという発想に感心しました。

まとめ

以上、ブラジルの先住民アートの今の姿を紹介しました。かつては彼らの社会の中でしか美しさを発揮することができなかった先住民アートが、20世紀後半には、人類学者などの研究者を通じて一般社会でもその美しさが理解されるようになりました。そして21世紀になって、今度は、先住民たちが主体的にその価値を広く認識させようと奮闘しています。彼らのアートがどう発展していくのか、今後の展開が楽しみです。

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