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同人誌の装丁の話

1月24日ブリデお疲れ様でした。

同人誌つくるのがとっても楽しかったので、
楽しかったな〜という気持ちで新刊のメイキングをまとめてみました。

といいつつ、漫画そのものの描き方とかは他のもっと上手な人が沢山やってくださっている気がするのと、わたし自身が本の装丁大好きなので、ほぼほぼ装丁の話です。

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※装丁そのものを中身の物語とリンクする形で考えていったので、新刊『THE BLUE』の盛大なネタバレと共にお送りします。
ネタバレ嫌だ!って方はそっと戻るか、
こちらより通販にてご購入をしてから読んでください。
 


■発案

装丁厨の朝は早い。
何故なら締め切りも早いので。

9月下旬の土日あたりに即売会があったのですが、
その次の月曜日から取り掛かりました。

書きためたプロットを読み返してネタ出しをしつつ、印刷会社さんのサイトと睨めっこして使えそうなデザインを練ります。

ちなみに、わたしはいつも
プリントオン様
にお世話になっています。
特殊装丁に特化した印刷会社さんで、
オンデマンド印刷主体にすることでわたしのようなピコサークルでも手に届きやすい価格で可愛い本を作ることができます。
お問い合わせすればメニューにないトンチキ装丁でも可能な限り刷っていただけるので非常に助かっております。
あと、応対してくださるスタッフさんがとても丁寧で、装丁やデータ、納期についてのご相談にも綿密に対応していただけるので同人誌初心者さんにもおすすめです。
サイト見やすいし。

この印刷会社さんには早割が5段階くらいあります。もちろん、早く入稿すればするほど安くなります。
(というか、割引なしの値段だと単価がとんでもない事になる)

いつも一番割引率の高い早割を狙って大体失敗、
大抵2〜3番目のランクの早割でどうにか入稿しています。

装丁盛るコツは、
早割しないと破産するような見積もりを組んでおく』
『でも間に合わなかった時でも形にはできるように妥協案も組んでおく』

これに尽きます。


さて、1月24日合わせの本を早割で出す場合、
下手すると締め切りが年内になる可能性が高い。
そうなると執筆期間は3ヶ月と数日。
この時点でだいぶ差し迫っている気がする。
やりたい事が多いほど、多くなくてもオプション料金が高いほど、締め切りは早くなり、単価は高くなっていきます。

使える時間的にもわたしのモチベ的にも、ページ数は「まあ40ページ前後が限度かな」という予想を立て、思いついた装丁の仮見積もりを片っ端から組んでいきます。

確か10〜20通りくらい組みました。
以下当時考えてた(と思われる)こと

・短編集の予定
・短編集なので表紙と中身は噛み合ってなくてもまあ大丈夫
・三人の男の話なのでそれが活きたデザインだといいなあ
・表紙込み40ページ前後
・カッティング(表紙に穴をあけたり切れ目入れたりするやつ)したいなあ
・蛍光の紙使ってみたい
・今までの本大体光ってたから今回も光らないと不安
・でも今までギラギラしすぎてたから、
 もっとかっこいいホログラム紙の使い方考えたい
・ブックカバー憧れる
・あえて『引き』のデザインに挑戦したい
・仕事やめたい
…など。

全部を同時に叶えるのは無理なので、
それぞれを取り込んだデザインを考えつつ価格と締め切りを比較していきました。

この時点で年末どころかクリスマスイブが締め切りのものもありました。

慌てすぎて中身が雑になったら意味がないし、
妥協したりなんだりしてとりあえずクリスマスより後に締め切りが来る装丁を絞って、とりあえず5案くらいキープ。
あとは中身ができてきたら考えよう。
仕事はやめた。

■ラフ

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これは当時の表紙ラフ案の一部です。線より色から入る方が多いです。
先ほど出した装丁案のどれになっても馴染むように、この時点で題字を入れてみたりカッティングの仮組みをしてました。
まあ結果から言うと全てにおいて180度違う方向性になったのですが…

ただ、この段階を踏んだ事で
「カバーを取ったら話の全貌が見えるとかカッコよくない?」
みたいな閃きに辿り着き、ブックカバーのついた本を出す方向性に絞り込むことができたので、やはり手を動かすのが一番です。

ちなみに当時の仮題は『エスエフ』。
科学的空想フィクションを指すジャンル『SF』は
もともと『サイエンスフィクション』の略なのですが、様々な見解やアイデアの中で様々な解釈や洒落の効いた言い回しがされていることばです。
『すこし、ふしぎ』とか。

それになぞらえて様々な『SF』をタイトルに冠した話たちを一冊にまとめようという考えでした。
当時プロットを書いていたメモ帳には、おびただしい量のSがつく単語、Fがつく単語が書き込まれていました。
個人的には『Savanna Fight』『Sorry, Friend』
あと『Sugoi Furo』あたりが好きです。

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これはその題字のラフ。
点線がモールス信号でそれぞれS、Fになってて、
『描き方は違っても最後は同じ場所にたどり着く』という意味をこめてた気がします。
表紙には青いメタル紙を使用して、
黒インクで描画することで、まるで客席で光るペンライトみたいな演出ができるかな〜というものでした。
題字は白インク。
メタル紙とかホロ紙に白インク使うの大好き。

この時点で描いてたプロット全部書いた場合
短編4編で総計60ページという計算になっていました。
既に最初と話が違くね?

■本文開始及び仕様変更

10月中旬くらい。
何を描くにしても、もう本文に手をつけないとまずいので、ここからクリスタでの漫画作業をスタート。見切り発車です。
とりあえずコマ割りと簡単な下書きをしていって
実際漫画になった時のボリューム感を想像しやすくします。
下書きは主にセリフで、細かい言い回しよりは
「このページでこういう会話をさせたい」くらいの大雑把なやつ。
本当はネームちゃんとやってから枠線ツール使うべきな気もするけど段階が多いと面倒くさくなって終わらなくなるタイプなので、できるだけフローを少なくして作業しています。
いちど枠線引いちゃえば後からいくらでも変形したりできるし。

とりあえず事務的に64ページ分の枠線と大まかなセリフを書きました。
またページ数増えてんじゃねえか

これを読み直して、漫画として成立しそうか判断します。
作画にとりかかる前に、話自体の間の取り方とかを見直す感じ。

やってみたところ、4つあった話のうちのひとつ、
25ページくらいあったものが妙に詰まりすぎている感じがしました。
その時点で一番ページ数割いてて話もだいぶ深く作れているのに短編でまとめる方に気を取られているような忙しない印象で、読む側も焦っちゃうような……
よく言えば、これもっとページ割けばもっと面白くなりそうでは?
いっそ今回はこの話を深く掘り下げたものにしない?
じゃあ、短編は前回やったし、残りの話も後日長めにして描くということで!

一晩で残りの約30ページをお蔵入りさせました。
何ごとも思い切りです。時間ねえし!!!

ここで残った話が、
『三人目のHiMERUが出てくるオカルト風味シリアス』でした。

そろそろ皆様お気付きかと思いますが、
何もスケジュール通りに進んでません。
早く始めておいてよかった。

■表紙組み直し

構成が変わったのでカバーイラストも変えます。

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カバー下をそこそこ派手なデザインにする気だったので、それならカバー絵はあえてモチーフ多すぎないようにした方がとっ散らからずにバランス取れるかな〜とか考えて、ラフを描きました。

また、今回の話は(わたしとしては)珍しく
『アイドルであること』
に(いつもよりは)深く関わった内容だったことに加え、最後に表紙の子が死んでしまうという悲惨な結末を更に色濃い衝撃的なものにしたいという考えから、あえて『アイドルとして一番幸せそうな瞬間』の絵にしました。

ライブのクライマックスで、
ライトの真っ白な熱い光を背中に受けて、
ばっと伸び上がった銀テープがくしゃくしゃになって落ちてくる景色。
汗か涙かもわからないくらい顔をびしょびしょにしながら客席に満面の笑みを湛えるアイドル『HiMERU』。

「どうしてこんなことに……」とか言いながら描いてましたが、そのくらいの方がいいものができる気がします。体に悪いな。

プロット練り直してる間に表紙を描き進めていきます。
裏表紙のデザインも迷った末、本を読んだ後に見てドキッとするやつにしたい!という意向から、
『表紙のHiMERUは空想の中だけの存在であり、
現実の世界にはいない架空のアイドルである』ことを示すものにしました。
ここでのフィーチャーの衣装は『実現することのなかった未来』の象徴です。

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銀テープもすべて黄色にする予定だったけど、
話の構成もだいぶ固まってきた段階で変更してます。
絵の中ではHiMERUのカラーである青だけど、
現実に存在するのはCrazy:Bの金色のテープのみ……
という感じにしました。
表紙だけ見ると金色のものだけなんとなく浮いて見えるかと思うのですが、裏表紙を見ることでその違和感に納得できるようにしたかったので、よい着地点を見つけられたな〜と思っています。

絵のメイキングはつまらないと思うので省きますが、裏表紙の勿忘草の花を塗った過程の写真が出てきたのでそれだけ貼っておきます。

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「どうしてこんな塗り方を……」て言ってました。
ほんとにな

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長編に組み直した際に書いてたプロット。この後色々変えてますが……

■締め切り繰り上がった

本文のページ数がほぼ決まり(結局50ページくらいに落ち着きました)、日も近くなってきたので見積もりを再度算出したところ、年末年始の調整で締め切りが繰り上がっていたことが発覚。
12月末予定が21日になりました。
クリスマスより後に脱稿したかった我はどこへ。

原因としては「最初の見積もりを出したのが早すぎて、プリントオンさんが年末のスケジュールを確定させる前だった」
みたいです。
よく考えたらそりゃそうなるわ。

年末年始以外でも、フェアの仕様変更とか
あとはこのご時世なので価格とかも割と変わると思うので、早めかつリスキーなスケジュール組んでる方はこまめに締め切りの変更とか確認するのおすすめです……。

そんなわけで本文の作画をフルスロットルで進めつつ、どうにかカバーに使うイラストが完成。
内容に合わせて机に置いてあるものを加えたり、
巻末折り返しの箇所に『遺書』を置いたり。
話ができていくのと一緒に大きな絵が少しずつ完成していくみたいで楽しかったです。

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■表紙仕様変更

カバーができたところで、問題はカバー下……つまり表紙の仕様。
できたカバーイラストを表紙ラフのデータに重ねてみたら、なんかこう……うるさくなっちゃったなあ……と。
カバーがステージの絵なのでその下の絵が客席になっているのはいい発想だと思ったんだけど絵面的に喧しい気がして、もっと抽象的にこの話の核を表すことが出来ないかな……
タイトルもこの時点で何も考えてないし……
(短編集じゃなくなった時点で『エスエフ』は没)
ということで、この際表紙仕様をいちから考え直すことに。
スケジュールなんて破るためにあるようなものなのでは。


ここで、前々からやってみたかったことのひとつ

・あえて『引き』のデザインに挑戦したい

これに挑戦できるのではないかと考えました。
本来同人誌での引きのデザインはかなりリスキーというか、よっぽどデザインがうまいか元々固定客がそこそこ多い人でないと即売会で並んだ時見つけてもらいにくいというデメリットが目立つのでなかなか自分で踏み出しにくいのですが(個人の経験に基づいた偏見です)、
今回はカバーに華やかなイラストを描いたぶん、二段構えの下にあたる表紙のデザインをシンプルなものにしても問題なさそう。
むしろバランスが良くなるのでは?絶好の機会では?
そう考えて、表紙の方向性を大きく変える決断に至りました。

同時にタイトルも確定。

当時作業BGMに
9mm Parabellum Bullet のDEEP BLUEを聴いていたのもあり、
Cobalt、sky……的な青を意味するを入れたくて色々調べて決めました。

最初は『cobalt blue』にしようとしたのですが
よく考えたらTHE BACK HORNの曲で同名のものがあり、曲のテーマ的にもここで使ってしまうと間違った捉え方をされてしまう気がして避けました。
曲名かぶり自体は別にいいんだけど、わたし自身がバクホン好きだし、
似た趣向の人が読む割合が多いこと考えるとやっぱ意図しない伝わり方をしてしまうのは良くないし……

そんな感じでもっかい調べ直したり、あらゆるものを見直して考え直した結果決まったタイトルが、『THE BLUE』。

Blueという名詞にtheをつけると、「青空」という意味になるようです。
HiMERUの名前がドイツ語で「空」を指す単語・Himmelになぞらえてつけられているのではないかという話や、この本の「空に還る」結末を考えたらこれが一番しっくりきました。
自分が読めなくて焦るので普段はあまり英語のタイトルをつけないのですが、これなら忘れなさそうです。

簡単に配色と文字組みをします。
ギミックがカバーの下にしっかり隠れるように配置して、色を整えます。
タイトルが指す『空』をあらわす青に、
現実をあらわす蜂蜜色で描かれた二本の脚。
ラフ段階では誰のものかわからない裸足の足を描いていましたが、はるかくんの客観的なアドバイスなども取り入れて、最終的な形になりました。

※はるかくん…仲良しのフォロワー。
別カプの女なのに、みのハウスにテニミュの円盤観に来た際に同人誌のディレクションまでしてくれた優しいオタク。

足下に書いてあるメッセージも
「ここにこんな感じの意味の事何か書きたいけどいい一言ある?」
と、はるかくんにアドバイスお願いしたのですが、即答で
「常勝立海大」
と返ってきたので、大人しく自分で考えました。

はるかくん「一発決めてやれ!!!」
はなみの「合ってはいるけどアグレッシブすぎる!!!!!」

マジでありがとう……。
次来てもらうときには部屋片付けときます。


表紙がほぼ決まってきたので紙の選定へ。

カバーの材質はコート紙にクリアPPで決定していたので、これに合う紙を絞りこむところから始めました。
本当はカバー側にホログラムPPつけてキラキラにするのもアリだなと思っていたのですが(光らせることへの執着がおかしい)、
予算から大きくはみ出てしまうので今回はおあずけ。

カバーがつるつるしているからエンボス加工の強い紙を使ってコントラストのきいた手触りを楽しめたらいいなー、とか、
でも小さなサイズの文字を入れること考えると
インク抜けしにくいものを選ばないとなー、とか。
最終的に3案くらいに絞り込んで、
紙見本とにらめっこしながら「岩はだ」という紙に決定。
空にとびこんだ先にあるのは地面だしね。いいのではないでしょうか。

ここまで終わった時点で締め切り2日前とかでした。急げ。

■細かな調整〜完成

本文原稿も無事終わり、後回しにしていた表紙の文字組みや本文内の題字などの配置も完了。

遊び紙はサービスでつけていただけるものの中から、『ミランダ スノーホワイト』を選択。
真っ白な中に上品なラメがきらきらと光る綺麗な紙です。
鮮やかな青色の紙と迷ったのですが、ステージの眩しさ=HiMERUが最も浴びたかった光に近いイメージはこれかな、という感じでカバーイラストとリンクさせたものにしました。

表紙カバーの折り返しに
「読んでからカバーを外してね」という注意書きも。

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これがあるだけで何となく中身を早く読みたい!って思ってもらえるかな〜みたいな意図も多少あったのですが、
ブリデ当日に本を手に取って興奮した身内が
全く読まないでカバー外しててめちゃくちゃ笑いました。

何はともあれ、これでやっと完成です。
今回もギリギリでした。

ここで今一度、本を読むときの順番で
装丁を振り返ってみます。

表紙。

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ごつごつの真っ青な本に、
輝かしいアイドルが描かれているブックカバー。

カバー折り返しに、全部読んでからカバーを外して欲しいという指示。

雪原のように眩しく光る遊び紙

黒い背景に白字で書かれた不穏な注意書き

本文

「幸せになってね HiMERU」
ひとりの人間としての生命を自ら終わらせる瞬間の言葉と
誰もいなくなった屋上の景色で締められる

奥付とあとがき

カバー折り返し部分に『遺書』と、『風早巽の本』

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カバー裏。

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表紙のHiMERUが現実ではなく、スケッチブックに描かれた空想のものであったということを示す、バインダーの端。
それに被せて置いてあるCrazy:Bのライブの銀テープ。

カバー下の裏表紙

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カバー下の表紙

この本の本当の意味での『最後のページ』は、
カバーを外した後の表紙……という構成でした。
いかがでしたでしょうか。

■追記及び今後のこと


『THE BLUE』を発行してから
もうすぐ一ヶ月が経ちます。
匿名やDMなどでもたくさん感想などいただけて、本当に嬉しいです、ありがとうございます!
中には「S(すこし)F(ふしぎ)っぽい」という
初期案とシンクロしたコメントまであってめちゃくちゃびっくりしました。
かなりわかりにくい話を描いた自覚はあったし、それを明解に理解してほしい!というよりは
読んで、感じて、考えてるこの時間に価値を感じていただけたら嬉しいな〜
という感じであえて抽象的且つ様々な考え方ができるように描いた本だったのですが、本当に皆様すごいしっかり読んでいただけてることがこちらに伝わってきて全部スクショしちゃいました。
わたしよりちゃんとわかってるのでは……?

結局三人目のHiMERUとは何だったのか
風早のなくした本は結局どういう事だったのか
本体はどこまで自分の意思で動いていたのか
十条は後を追ったのか
など、
あえて謎が残るように、空想の幅が広がるように全てを説明していない箇所を入れています。

これは『楽しんでいただくため』もありますが、
『人生そんなことばかりじゃない?』という意図もあります。
幽霊の正体なんて憶測でしかわからない事。
死ぬまで誰にも言えない事。
どんなにわかった気になってても、
言われるまではわかってなかった事にすら気付けない事。
論理より感情で左右される事。
死者に口無し。
生者には口はあるけど、
言うか言わぬかは別の話。

わからなくて大丈夫です。
「わからない」
「あれは何だったんだろう……」
決してハッピーエンドとは言い切れないラストシーンのあと、
これまでに読んでいただけた約50ページの小さな話について
ぼんやりと考えていただけたら、
描いた人間としては非常に幸せです。


先述したとおり、
『THE BLUE』はもともと
短編集『エスエフ』の中の一つの話でした。
仮題は『Star Finder』だったようです
(プロットを読み返しながら)

4月発行予定の本も、同じく『エスエフ』の一部になる予定だったものを
少し長めにブラッシュアップして描いていく予定です。

ちなみのタイトルは相変わらず未定です。
『エスエフ』での仮題は『Sex Friend』。
ろくなもんじゃねえな。

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