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「溺愛する猫耳魔法少女とリアルで会ったら、イケメンだったのだが」 14話

#創作大賞2023  

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 14話


 「あ……」
 
 思わぬ方向から衝撃を喰らったような顔をしている。

 「それは……、困りますね」

 「何よ、自分で言ったんでしょ? 衣装は無駄なんでしょ?」
 
 「言いましたが……」


 と困った様子を見せる五百城を見て、なるほどとほくそ笑んだ。
 そうか、五百城はムギのアバターみたいな女の子が好みなのか。 
 なるほどね。だとしたら私など好みじゃないと言った理由も頷ける。

 「ほう。あんな猫耳美少女が好みとな」

 「……ん? なんです?」

 「いいって、いいって、そうだよねえ。可愛い衣装を着せたいよねえ。わかるよ。うんうん」

 首を傾げる五百城に、達観した笑顔を向ける。
 まあ五百城も普通の大学生の男の子ってことなのだ。
 理想の彼女をアバターにする。そういう素直な欲望、嫌いじゃないよ? うんうん。

 「じゃあさあ。エイム力あげるために協力してよ。
 で、その余ったお金でムギちゃんの衣装をガチャるってのでどう?」

というなり、五百城の視線が鋭くなる。

 「……構いませんが」

と遠慮がちに彼は言った。


*    1    *



 そんなわけで、ここ最近、家に帰るたびに五百城とゲーム三昧な日々を送っている。
 職場の同僚は、元彼とのこの前の話をした後だったので何か怪しい趣味でも始めたのではないかと心配がっていたが、思ったよりも立ち直りが早い私の様子に安堵しているようにも見える。気づかれるのも無理はない。


 だって、毎日ゲーム三昧できるんだから!!


 まずは、エイム力を養うために、向かう先はプレーヤーキルエリア。
 そのエリアに入った途端、プレイヤー同士が殺し合えるバトルエリアのため、
 365度どこから狙われるかわからない緊張感に包まれる。

 ふっと緊張が解けた瞬間、アバターのH Pが半分に減った。
 
 「っふぁ!!」

 周囲に人影はない。けれどもどこからか確実に狙い撃ちしている。
 ということは遠距離からの攻撃ということだ。

 「うわー!むかつく! なんで狙撃で狙うんかなー?」

 「ぼーっと立ってたら、的にしてくださいって言ってるようなもんですからね。常に動いててください」

 「えー。そんなん無理。逆に近場のプレイヤーにキルされるよね?」

 動いていれば、今度は近距離に潜むプレイヤーに狙われる。

 気づかれたらロックオンされて、地の果てまで追ってくるプレイヤーもいるのが、このエリアだ。
 プレイヤーのレベル補正がされていたとしても、格上のレベルのプレイヤーに見つかれば、ワンパンチでキルされる。

 「ですね。じゃ、動いたり止まったりを繰り返せばいいんじゃないんですか?」

 「そんな適当すぎ! ちゃんと教えなさいよ!」

 「嫌なら帰ってもいいんですけど?」

と、生意気なことを五百城が言う。

 「な、なんんん」

 たかが一度私よりランキングが高くなったからって!
 私よりエイム力があるからなんて!
 ほぼ無課金だからって! 年下のくせに生意気!

 ……と、言ってやりたいが、ここはグッと抑える。
 このままムギちゃんと差ができて、さらにはゲーム下手くそ認定されたら、やばい。
 そんな認定をされた挙句。
 「同居解消しましょうか?」なんて捨てられるなんて、絶対嫌!!


 「今日はこの辺にしときますかね」
と、五百城が大きく伸びをする。

 「ええ??? もう?」
と言ったものの、時計を見るとすでに深夜1時を回っている。

 「明日、1コマ目からあるし、そろそろ寝ないとやばいんで」

 「そっか……。しょうがないよね。じゃあ、ハグしておかないと」

と、エリアから出て、自宅へと戻ろうとアバターを移動させる。
と、背後からふわっと何かに包まれた。

 「なななっ?」

と、振り返るとそこにいるのは五百城だった。
 私を背後から抱きしめている。

 「……ハグですよね?」

と、眠たげに五百城がつぶやいた。

 「ハグ……だけども! それはムギちゃんとで!」

 ”リアルのハグじゃない!”

 「また間違えた。ムギ……くん。です」

と、甘えた様子で彼は囁いた。耳元にあたる吐息が熱い。五百城の体温は私よりもずっと高くて、まるで子供みたいだ。
 けれども、彼はもう20歳そこそこの大人で、きっと恋だって経験している青年。
 このまま、何かが始まってもおかしくないほどに、ずっと抱きしめられてしまい、私の心臓の音は緊張と期待とで高鳴っている。
 
 ……あれ?

 いつまで経っても次の行動に移らない五百城に痺れを切らして、声を掛ける。

 「あ、あの……、ムギくん?」

と、身体を彼へと向けた途端、ごとんっと何かが倒れる音がした。

 「何事?」

 慌てて振り返ると、床に倒れ込むように眠っている五百城がいる。
 すでにスースーと寝息を立てている。

 「ね、寝ちゃった?」

 ゲームのデバイスを持ったままの五百城の手からデバイスを抜き出す。

 「仕方がないな。こっちもハグしておこうか」

と画面上で承認ボタンを押してハグモーションをする。
 すると五百城のデバイスの上にポンっと表示がされた。
 メッセージには、
 
 『麦くんに会いたいよ』

 と、表示がされていた。明るい画面に引き寄せられるように視線が向いてしまう。

 「なになに? 会いたいって、そんなメッセージ送ってくるのって、もしや麦くんの彼女??」

と、興味津々でひかる画面を覗いてしまう。
 それは五百城のプライベートであって、ゲームの中の同居人が知ってはならない秘密の領域。
 けれど、目にしてしまったメッセージの続きが気になってしまい、続いてくるメッセージにもう視線が釘付けだ。

と、ついつい画面に視線が向いてしまう。
 それは五百城のプライベートであって、ゲームの中の同居人が知ってはならない秘密の領域。

 けれど、目にしてしまったメッセージの続きが気になってしまい、
 続いてくるメッセージにもう視線が釘付けだ。


 「麦くんと会えなかったら、死んじゃう」
 「死んでもいいの?」
 「寂しいとか思わないの?」
 「あたしは麦くんだけなんだよ?」

と、なんだか重たいメッセージが並んでいる。どんどんメッセージは現れては消え、
 
 「ねえ、どうして無視するの?」と、ポンと表示された。

 「見てるんでしょ?」

 ふと、背後の気配が気になり部屋の中を見渡す。そばで寝息を立てる五百城以外気配はない。

 「な、わけないよね?」

と気を取り直して、スマホをテーブルの上に置いた途端。再びメッセージが現れた。

 「無視しないで」

 「無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで、無視しないで……」

 「ひいいい!!!」

 振動し続けるスマホから逃げるように五百城のそばに寄った。
 テーブルの上で点滅するスマホ。
 今もなおメッセージが続いているというのに、何も気づかないで五百城は眠っていた。
 
—— そしてスマホの振動音は、夜明け近くまで続いた。


*    2    *


 「おはようございます!あー、久々よく寝た!」

 うーんと背伸びをしてカーテンの外の朝日を浴びる五百城は溌剌とした様子だ。一方私は、昨夜、五百城のスマホを見たせいで一睡もできないまま朝を迎えてしまった。

 重たい身体を無理やり持ち上げて、キッチンで電気ポッドのスイッチを入れる。
 せめて珈琲ぐらいは飲みたい。

 五百城は歯ブラシを手にした状態で、やっと私に気づいたように「おわっ」と驚きの声を上げた。
 スイッチを入れた後、キッチンの床に座り込んだ私を見て、妖怪にでもあったかのような恐々とした表情をしている。

 「お、脅かさないでください。スナイパーのつもりですか?」
「んなわけがないでしょ。もー、君のせいなんだからね」
 「僕のせい?……ってどういうことです?」

と五百城は呑気な様子で首を傾げる。
 「昨日さ、」と言いかけて、慌てて口をつぐんだ。
 いけない、いけない。勝手に人のスマホを見たなんていくらなんでも、マナー違反すぎる。

 「な、なんでもない」
 
 何も無かったことにして立ちあがろうとすると、私と視線の高さを合わせるように五百城がすっとしゃがんだ。
 歯ブラシを口のなかに入れたまま、エクボを作って、にっと楽しげに彼は笑う。

 「あー。まさか、隣で僕が寝てて意識しちゃって寝れなかったとか?」

 などと、あらぬ方向へと話題がシフトした。
 そんな勘違いに、目を細める。

 「はあ? んなわけないでしょ」

と、否定をするものの五百城はなんだか楽しげに顔をにやつかせている。
 そんな五百城に断固として違うと宣言したいものの、あまりこの話題を追うのも逆にツンデレだとか思われそうで嫌だ。
 ここは違う話題に変えて終わらせるのがいいだろう。

 「退いてくれる? 私も顔洗いたいから」
 「はいはい」

と、彼は立ち上がると私のためにスペースを作った。その間をすり抜けて、洗面所へと向かう。
 洗面所の前でため息を吐く。

 昨夜は、五百城を意識してしまったというより、五百城のスマホが怖すぎて意識が向きすぎたと言うのが正解だ。
 だって……、
 あんなメッセージ恐すぎ……。

 「あ、そういえば、スマホどこに行ったかな?」

と、五百城のパタパタと廊下を歩く音が聞こえてきた。
 
 「あ! スマホはやめた方が!!」

と言いかけたところで、すでに五百城はスマホを手にしている。
 スマホの液晶を覗き込む五百城を見て、背筋がさっと冷たくなった。

 ”それを開けたら呪いの源が溢れ出てしまうー!”

と、彼目掛けて突進する。
 スマホを奪い取ろうとした途端、ヒョイっと五百城が腕を引っ込めたせいで、私は前のめりにつんのめってしまった。そのまま2人揃って床へと倒れ込んだ。

「うわ!!」

と、五百城の悲鳴が上がる。バフンと床にあった大きなクッションが空気を吐き出した。
 気づくと私の目の前には五百城の胸板があった。
 細いくせに引き締まっていて、硬い胸板に抱かれてしまい、無駄に胸が高鳴ってしまう。

 「何するんですか……」

 不満げな声を五百城が漏らす。

 「あ、いやあの。スマホが……」

と、言いながら危険な胸元から体を引き剥がすように上体を持ち上げる。
 けれど、なぜか五百城の腕が伸びてきて私をそのまま抱きしめた。

「ちょ! な、なななん、なんなの?」
「何って……こうして欲しかったんじゃないんですか?」


なんて彼はさらに力を強めた。互いの鼓動が感じられるほどに密着してしまい、否が応でも心臓が爆音を鳴らす。


「あ、でも……。今日1限から講義入ってるんですよね……」


とボソッと呟いた。


「ん? 講義?」
「残念だな。何もなかったらこのまま……しちゃえたのに」


と、私の頬をそっと撫でる。


「一限、サボろうかな」


 などと、耳元に囁かれる。それに驚いている間もなく彼の顔面が迫ってくる。
 綺麗な顔がドアップになり、唇が触れそうな距離になるまで近づいた。


 「ひひゃあああ!!」


 五百城の唇を、背後にあったクッションを引っ掴みブロックする。
 私の行動に不満げに眉を寄せて彼は睨んだ。


 「ほ、ほらぁー。り、リアルで恋愛関係になったらゲームに支障が出ちゃうでしょ?」
 「好きにならなければいいんですよね? ボクは、そういうのなしでも、平気なんで」
 「わ、私はそういうの平気じゃない!!」

と、五百城の手を叩いた瞬間、スマホが五百城の手からするりと離れた。

 「あ!」

 声をあげるが早いか、スマホがスローモーションで床へと落ちる。
 ガシャンっと嫌な音が部屋の中に響いた。

(15話へ続く)

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