アシダカ砲、発射
実家には昔からアシダカグモと呼ばれる大きなクモが生息しています。不意に近くで動かれるとさすがにビビりますが、壁にへばりついているのを見るくらいでは何も思いません。それくらい身近な生き物です。
家族の間で「クモは益虫」との考え方が根付いていましたから、追い払うようなことはしませんでしたし、殺傷するなんてもってのほかでした。たとえ近くにいても向こうから逃げていきますので、見かけても放置していました。共存していると言うほど立派な状態ではありませんが、同じ屋根の下で暮らしていたのは事実です。
ネットを使うようになると、アシダカグモが益虫との考え方は思ったより世間に浸透していると知りました。何だったら「アシダカ軍曹」なんてあだ名までつけられていました。
アシダカグモの主食はゴキブリやハエなどの害虫でございまして、一説にはこのクモが家に2~3匹いれば同じ屋根の下にいるゴキブリを半年以内に駆逐してしまうそうです。道理で実家は古い家の割にゴキブリを見ないと思いました。人間に目撃されるよりも先にアシダカグモが片っ端から食べてしまっていたんですね。
ちなみに、家のゴキブリを食べ尽くすと、アシダカグモは別の獲物を求めて去ってしまうそうです。その性質が、最前線で戦う軍隊の中核を担う「軍曹」に例えられ、「アシダカ軍曹」と呼ばれるようになったそうです。つまり、いつまでもアシダカグモが居ついている我が実家は、常にゴキブリやハエが攻め入ってくる激戦区であり続けているわけです。
さて、そんな激戦区でその日もいつも通り時刻に起きた小学生時代の私は、これまたいつものようにトイレへ向かいました。まだ半分寝た状態で用を足しまして、トイレットペーパーを掴み、グッと引きました。そうしたら、いきなりアシダカグモが丸出しの腿に向かってポンと飛び出して来たんです。
半分寝ていたのが幸いしてか、「おおー」とのん気な声をあげる私に対し、アシダカグモはもう慌てに慌てた様子で私の腿から飛び降り、トイレの壁を全速力で登り、天井付近に辿り着いてようやく動きを止めました。壁を登る間、何回か足を滑らせていたので、よほどビックリしたのだと思います。
なんでいきなりアシダカグモが飛び出してきたのか。獲物を待ち構えていたのか、はたまた休んでいたのかは知りませんが、とにかくアシダカグモはトイレットペーパーの上に乗っていたようなんです。それを私が気づかずに引っ張ったもんだから、結果的にアシダカ砲が火を噴いたわけです。
それなりに目が覚めてからアシダカ砲の恐ろしさを痛感した私、それからしばらくは注意してトイレットペーパーを使うようになりましたし、今でも帰省した時にはついつい注意してしまいます。
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