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死ぬまでに見たいお笑い動画

 お笑い芸人の千原ジュニアさんを語る上で外せないのがバイク事故です。2001年に起こした事故でございまして、ウィキペディアによりますと顔の骨を軒並み折る重傷を負ったようです。怪我の重さもさることながら、顔に大きな怪我を負うのは芸能人としては致命的です。当然ながら本人もその自覚があり、病院で横になっている間、芸人の道を諦めて裏方に回ろうと考えていたとのことです。

 芸人仲間もジュニアさんの気持ちを察知したようで、即座に次々とお見舞いへやってきたそうです。しかし、皆さん芸人ですから、お見舞いもそれ相応の流儀でおこなわれまして、ジュニアさんやお見舞いした本人たちによって今でもたまにネタにされています。「バイクで事故ったって知ってるのにバイク雑誌を買ってきた」だの「怪我でご飯を食べられないと知っているのに料理漫画を持ってきた」だの、ちゃんと笑える話になって本当によかったと思います。

 そんな芸人流のお見舞いの中で、世間一般の人から見ても割と正攻法の手段で挑んだ方がいらっしゃいます。東野幸治さんです。東野さんはジュニアさんのために、1本のビデオテープを持ってきました。いわゆるVHSというやつで、当時はこういうものに映像が記録されていました。

 ビデオテープに入っていた映像は読売テレビで制作されたテレビ番組「鶴瓶・上岡パペポTV」の最終回でした。笑福亭鶴瓶さんと上岡龍太郎さんが打ち合わせも台本も無しで60分トークをするという番組でございまして、上岡さんが東京進出するきっかけとなった番組です。それだけの人気を誇っておりましたが、上岡さんの芸能界引退により最終回となったわけです。

 最終回には上岡さんを心の師と仰ぐ島田紳助さんが登場しました。3人ともトークの技術は抜群ですから、観客は爆笑に次ぐ爆笑で大いに盛り上がったそうです。しばらくすると、もうひとりゲストが現れました。本来は紳助さんとは別々に絡ませるつもりだったようですが、誰かの意図により同時に絡むこととなりました。そのゲストとは明石家さんまでした。3人でも充分に面白いのに、そこへお笑い怪獣が襲撃したら大変なことになります。事実、大変なことになりまして、爆笑だらけの映像は3時間半にも膨れ上がり、それを泣く泣く60分番組に編集したとされています。そんな番組のノー編集版を東野さんはテレビ局から取り寄せ、ジュニアさんに渡したそうです。「これを見て戻って来い」というメッセージだとジュニアさんもすぐ分かったのでしょう。「あれがなかったら芸人を続けていなかった」という旨の発言を、最近になってテレビ番組で発現されております。

 その映像の存在を知った時から、私はずっとその「パペポTV」ノー編集版を見たいと思っているんです。何しろ、トークが桁外れにうまい4人の会話です。3時間半なんてあっという間に過ぎるでしょう。そんな素晴らしい映像、どなたかが権利関係をうまく整理して特別映像として販売してくれれば、苦労に見合いまくった利益を出せると思うんです。

 世の中には怪しい話を持ち掛けてお金を払わせようとする人たちがいらっしゃいます。何がどうなってるのかよく分からない怪しい投資話とか、欲求不満の女性があなたを待っていますみたいなオファーとかでしたら、私も「ああ、はいはい詐欺詐欺」と軽くあしらえるんですが、「パペポTV最終回ノー編集ビデオ買いませんか」とか言われたら、内臓ひとつくらいなら質に入れてでも買ってしまいそうです。

 私の内臓の無事のためにも、どなたか関係者の方、よろしくお願いいたします。

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