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局所的あるあるネタ

 「あるあるネタ」というものがございます。日常的にありそうなことを取り上げ、共感を得ることでウケを狙う芸を指すようです。

 共感を笑いに繋げるためか、世間に広く知られているものがテーマにされがちです。学校、職場、家庭などで、誰もが一度は経験してそうなことを扱う。これがあるあるネタの基本であると考えられます。

 「あるあるネタ」の起源をキッチリ調べた方はあまりいらっしゃらないようです。恐らく、陳腐な表現やステレオタイプなもの自体は昔からあったでしょうし、それを笑う場合もあったに違いありません。ただ、「あるあるネタで売れた」と明確に言える最初期の人物は、私が知る限りではつぶやきシローさんです。調べたらブレイクは1990年代後半だそうです。また、ウィキペディアを見ると「あるあるネタ」の基本を作った人物としてビートたけしさんが挙げられていました。いずれにしろ、ここ数十年で発達してきたジャンルのようです。

 とは言え、この数十年で「あるあるネタ」も進化してきました。みんなが経験しているものでウケを狙う形だけでなく、「自分は経験してないけどありそうだ」というものや「あるあるネタっぽいけどあるあるネタじゃない」というものなど、いろんなものが出揃っています。「あるあるネタじゃないあるあるネタ」なんて、もう何を言ってるのかよく分かりませんが、恐らくは観客が「あるあるネタ」を知っている前提で展開されるネタであり、「あるあるネタ」が世に浸透したからこそ生まれたものだと思われます。

 さて、話は急に個人的なものへと移りますが、私が大学生をしておりました頃、大学の付属研究施設へ実習に行くことになりました。

 第一報が入ったのは行きのバスの中でした。これから行く研究施設で爆発事故が起き、数人の負傷者が出たとのこと。学生は色めき立ち、教授陣は苦笑いです。現地には既にマスコミが駆けつけており、教授から「余計なことは言わないように」とのお達しがありました。

 余計なことを言おうにも学生は何も知りませんし、何より我々には実習があります。幸い、実習場所は事故が起きた棟から離れた場所だったため、特に何事もなく実習をしていたのですが、やがて男子学生を中心にメールやらメッセージやらが届くようになります。もちろん、私の携帯電話にも届きました。相手は高校時代の同級生からネットで知り合った社会人のお姉様まで様々でしたが、内容はどれも大体同じでした。「お前とうとうやりやがったな」。

 要は皆さん爆発事故のニュースを見たようなんです。で、現場が私の通っている大学だった。これは一発いじってやらねばと、何人ものお調子者が同時期に思い、携帯電話を手に取った。「爆発を起こしたのはお前だろ」。他の男子学生がもらったメッセージも見せてもらいましたが、内容は似たり寄ったりでした。文字だけではどんな人が送ったのか分かりませんが、どれも半笑いで書いた文章なのは分かりました。

 何だかんだ言って爆発事故なんて滅多に起きません。ニュースに取り上げられる規模となると特にそうです。つまり、滅多に起きない出来事と言える。しかし、私たちが経験したように、全国から似たようなメッセージが飛んでくる様子は、明らかに「あるあるネタ」の要素を含んでいますし、経験してない人だって「ありそうだよね」と考える余地が充分ある。かなり局所的ではありますが、これも「あるあるネタ」のひとつなのでしょう。

 以来、大学の実験施設で事故があるたびに、ああまた現地の学生が例のメッセージをもらってるのだろうな、と思うようになりました。

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