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同じように食べてても評価は変わる

 当てになるようでならないのが人の評価でございます。何だかんだ、見当違いな評価を下すことは意外と少ないんです。でも、人の評価は何かの拍子にガラッと変わってしまう。これが当てにできない大きな理由でございます。

 私、中学高校とお弁当が必須の学校に通っておりました。当然、大変なのはお弁当を作る人です。我が家では母が作っておりまして、多い時には父と姉と弟と私、それから母自身のものと、5人分のお弁当を作っておりました。もちろん、母は家族それぞれの好き嫌いを把握していましたが、5人分ともなると、そんなことを計算している暇なんてありません。後年、母が言うには「自分が食べたくないものを入れない献立しか考えなかった」とのことです。

 そうなると、最も被害を受けるのは嫌いな食べ物が多い私でした。もう高確率で弁当を残して帰ってくる。中学の頃は食が細かったこともあり、帰宅して母へ弁当箱を渡すたび「また残してる」と怒られていたものでした。ただ、こちらとしても無理に食べようとすると吐きそうになる食材を簡単に食べるわけにはいきません。どれだけ怒られようと、頑なに残す日々が続きました。

 それが高校生になると風向きが変わりました。気づいたら怒られなくなったどころか、「ちゃんと食べてくるじゃないか」と褒められるようになったんです。もちろん、成長期に入り、食べる量が増えたことも理由のひとつだとは思います。しかし、嫌いなものは相変わらず食べず、それでいて小腹が空いた時はこっそりコンビニでパンを買って食べていました。

 風向きが変わった理由は弟でした。弟は末っ子ということもありまして、遠慮を知らずに育っていたんです。小遣いを貰えば「もうちょっと欲しい」と言い、母に誕生日プレゼントとしてあげた漫画を母よりも先に読破していました。弟は深刻な遠慮不足が続いていたんです。

 その上、中学生や高校生は思春期バリバリです。だから、弟は母の弁当を友達に食べさせ、代わりに自分はコンビニ弁当とお菓子を食べ、それを平気で母に言うんです。「何でそんなことをするのか」と母がキレながら尋ねると、弟は「弁当がおいしくない」と言い放つ。ちょうどその瞬間に遭遇した私は、台所で嵐が起きているのを見ました。激怒する母を見て、弟は何が面白いのか知りませんが笑っています。母が「お前の弁当はもう作らん!」と言えば弟が「助かるわ、ありがとう」と言い、母が更に怒る。誰も何も得しない、怒りの無限ループが出来上がっていました。

 もともと弟は昔から好き嫌いが少なく、それでいてよく食べるため、食べ残しなんてしない子でした。だから、食事に関しては弟が褒められ、それと比較される形で私はよく叱られていました。しかし、弟が思春期に突入し、母の弁当を乱雑に扱った結果として弟の評価が一気に下がり、相対的に私の評価が勝手に上がっていきました。昔から同じように食べ残していた私ですが、「ちゃんと食べてくる」「美味しかったものを言ってくれる」などと、褒められる始末です。

 当時は高校生なりに「そんなに評価変わるんすか」と思い、「人の評価なんて当てにならないな」と痛感した次第です。ただ、弟は今でも弁当の件でたまに母から思い出したようになじられ、苦笑いしています。

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