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新潮流となるか「ベテランコンビ+ベテランピン」ユニット

 M-1グランプリの参加条件に結成年の制限があります。2010年までは結成10年以内、2015年からは結成15年以内。島田紳助さんは漫才師が辞めるきっかけを作るために同大会を立ち上げたとされ、年数制限もその一環だと考えられています。

 しかし、M-1グランプリが始まったのは2001年、今から約20年前です。人間からしてみたら大きな期間であり、状況が変化するには充分な時間です。M-1グランプリ自体もいくつかの転換点に見舞われました。2010年に大会が一旦終了し、代わりに結成年制限を排除したプロ限定の漫才賞レース「THE MANZAI」が始まります。その矢先に、大会発案者の島田さんが不祥事で芸能界を引退、大会運営から手を引く形になります。やがて、M-1グランプリの復活と共に賞レースとしてのTHE MANZAIは終了、再びアマチュアに門戸が開かれ、参加条件は結成15年以内に改められます。

 「『結成』〇〇年以内」という条件もまた時代の変化と共に、様々な効果をもたらすようになりました。例えば、ユニットです。つまり、即席のコンビを組んでM-1グランプリに参加する。年数制限がかかっているのはあくまで結成年であり、芸歴は関係ないため、事実上ベテラン芸人も参加が可能な大会となりました。

 実際、第1回目からユニットの組が存在しています。例として、板尾創路さんと木村祐一さんのコンビ「イタキム」、石田靖さんと山田花子さんのコンビ「石田・花子」などがあげられます。「ケツカッチン」のように、のちに正式なコンビとなる場合もありましたが、黎明期のユニットは基本的に予選で話題を集める、いわば賑やかしのポジションにありました。

 大会が続くに従い、ユニットの状況に変化が起きてきます。2009年の第9回には村上ショージさんと金成公信さん(現・千葉公平さん)のコンビ「なりきんショージ」が準決勝まで進出します。そして、2020年の第16回ではおいでやす小田さんとこがけんさんのベテランピン芸人同士が組んだ「おいでやすこが」が結成2年目にして準優勝を果たします。その結果を受けて翌年のキングオブコントではユニットの参加が解禁になるなど、ただの賑やかしでは終わらない事例が少しずつ増えています。また昨年に錦鯉という史上最高齢の優勝者が現れた事実は「『結成』〇〇年以内」という条件がもちろん関係しています。長谷川さんは錦鯉結成時41歳、芸歴は17年目に突入していました。

 そんなユニット事情ですが、昨年に少々気になる現象がございました。結成年制限を超えたコンビが新たに芸人をひとり迎えて新ユニットとして参加し、それなりに勝ち上がって来たのです。

 もちろん、以前からそのような動きはありましたが、割とガチめなコンビが割とガチめな人を引き入れた点が個人的には気になりました。例えばアイデンRです。アイデンRはお笑いコンビ「アイデンティティ」とピン芸人のR藤本さんとのトリオです。

 アイデンティティは2005年に活動開始、漫才をメインに活動していましたが、2015年頃から田島さんが野沢雅子さんの物真似で頭角を現し、物真似を活かしたネタでラスト3年は準々決勝まで勝ち上がっていました。一方のR藤本さんは2006年にピン芸人として活動開始、いくつかのコンビを経ながらも、ドラゴンボールに登場するベジータの物真似を中心に活動、R-1では2度の準決勝進出経験があります。

 アイデンティティとR藤本さんはドラゴンボールの物真似をする通称「DB芸人」仲間としての共演が多く、それゆえのコンビ結成と考えられます。ネタは野沢さんとベジータがいろいろと滅茶苦茶にする形です。結果は3回戦敗退ですが、今後の活躍が期待できそうです。

 続いて、人人です。「ちゅちゅ」と読みます。お笑いコンビ「しゃもじ」とピン芸人の与座よしあきさんとのトリオです。

 しゃもじは2003年に結成、当初は出身である沖縄で活動していましたが、のちに東京へ進出します。漫才もコントもでき、M-1では2015年に準々決勝進出、キングオブコントでは2010年・2012年・2016年と3度の準決勝進出を果たしています。与座よしあきさんは1996年に活動開始、当初はお笑いコンビ「ホーム・チーム」として活動、往年のネタ番組「爆笑オンエアバトル」で最多オンエア数を獲得するなど活躍しましたが2010年に解散、以降はピン芸人として活動し、役者として映画やドラマへの出演経験も多くございます。パントマイムが得意で、面白い動きに定評があります。

 3人は事務所も出身地も同じであり、彼らにキャン×キャンを加えた5人組ユニット「ヨジャモキャン」としても活動するなど、以前から交流がございました。結成は自然の流れだったのかもしれません。ネタは「フリは思いつくけどボケが思いつかない人」と「フリは思いつかないけどボケれる人」が織りなす独自システムに与座さんのコミカルな動きが加わったものとなっています。

 最後は三日月ヶ浜です。お笑いコンビ「三日月マンハッタン」とピン芸人の浜村凡平太さんとのトリオです。

 三日月マンハッタンは2002年結成、こちらも当初は出身である沖縄で活動していましたが、やがて上京します。M-1では2010年と2017年に準々決勝進出、仲嶺さんは「お笑いクイズ」の制作者としても知られます。浜村凡平太さんは2003年に小学校からの同級生と「浜口浜村」を結成、2014年のTHE MANZAIでは準決勝と同等扱いである認定漫才師に選ばれるなどの実績を残しつつも2015年に解散、以降はピン芸人として活動していました。

 三日月マンハッタン、特に仲嶺さんは年数制限で出られなくなってからもユニットで活路を見出し続けていた人でした。ラストイヤー翌年の2018年には三日月マンハッタンと池城淳さんのトリオ「三明マンハッタン」、仲嶺さんとお笑いコンビ「ジョリー惑星」のトリオ「月に惑星」、仲嶺さんとピン芸人の松原タニシさんとのコンビ「松嶺」、仲嶺さんとものまね芸人のRocky石井さんとのコンビ「Rocky's」として参加、2020年には仲嶺さんとお笑いコンビ「てるてる娘」とのトリオ「月娘」として参加、いずれも結果は2回戦敗退となっています。

 ユニットの多くは1年限りの活動ですが、三日月マンハッタンと浜口さんとのトリオは初めて参加した2019年以降も活動を継続、最初は「三日月ハマンハッタン」という名前でしたが、2021年に「三日月ヶ浜」へ改名、浜口浜村のネタをベースにしたネタで準々決勝まで勝ち抜きます。ちなみに、2020年までは同一の人物が複数の組を掛け持ちして参加する行為が黙認されていた状態だったため、三日月マンハッタンもまた上記のような参加ができていましたが、2021年からは掛け持ちが禁止となっています。

 ベテラン同士が組む利点としては経験があるでしょう。気心が知れた相手ならばネタ合わせも進むに違いない。加えて、ベテランのコンビがいる点も大きいと睨んでいます。ピン芸人同士のユニットですと、普段と異なり、誰かと会話をするネタが必要となる。ベテランコンビとベテランピンのユニットでも、3人用のネタが必要にはなりますが、もともと掛け合い話のネタを作って披露している人がいるため、ピン同士のユニットよりもネタが作りやすいと考えられます。コンビ時代のネタを活用しているユニットがいる点からもそれがうかがえます。

 以前にnoteで書きましたが、準々決勝に行ける組は全参加者の2%少々といったところです。ちなみに、2021年に3回戦へ進出した組は全体の約4.9%です。今回、取り上げた3組のユニットはその狭き門を突破している。

 M-1に参加できなくなるコンビは毎年のように出てきますし、ベテランのピン芸人も数が随分と増えてきました。ユニット最大の欠点は活動が継続されづらいところですけれども、今後は「ベテランコンビ+ベテランピン」というユニットがお笑い界隈から注目されたりするのでしょうか。個人的には注目していきたいと考えています。

 なお、大会のルールや歴史、各組のプロフィールなどはウィキペディアの他、M-1グランプリ公式サイトの情報を参考にしています。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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