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子豚のレースで打ち合わせ

 友人と某イベントに行ったら、子豚のレースをやっていました。ルールは簡単で、ひとりずつ1頭の子豚につき、ゲートが開くと共に人が子豚の後ろから応援をして前進をうながし、子豚を最も早くゴールまで導いた人が勝利というものでした。1位にはちょっとしたイベントオリジナルグッズがプレゼントされるとのこと。

 イベントの性質上、小さな子供が主な挑戦者として選ばれていましたが、大人が出てもいいようです。非売品が好きな友人はイベントオリジナルグッズと聞いて目を輝かせました。「出たい」。面白そうだったので私はそばで見守っていることにしました。

 子豚のレースへの参加を許された友人ですが、賞品がもらえるのはトップだけです。多くの人と同様に、友人も子豚のレースに関しては素人です。友人の物欲を満たせるかどうかは未知数でした。

 出走前の数分間、子豚と人間はひとつのゲートに入り、スタートに備えます。お互いパートナーに慣れる数少ない時間で、遠くからゲートの中を眺めておりますと、子豚を撫でる心優しい子からひたすら豚と見つめ合う不思議な子まで、人と子豚との交流は十人十色というか十人十頭二十色というか、とにかく多様性に富んでいました。

 当の友人はと申しますと、豚の前でしゃがんでいるのだけが辛うじて見えました。しかし、身体の大半はゲートの壁に隠れていたため、何をしているのかはよく分かりません。しかし、友人のゲートから「プギープギー」という子豚の鳴き声がするんです。友人は子豚のレースに出るくらいですから生き物が好きですし、そばにいる係員の方がニコニコしながら友人の様子を見守っていたので子豚に恐怖を与えているわけでは全然ないようなのですが、それにしては子豚が高い声で鳴いている。というか、鳴いてる子豚が友人と一緒にいる子だけなんです。

 何をしているんだろう。私が疑問に思っていると、いよいよレースが始まりました。レース中の子豚はトコトコと走ってくれることもあれば、コース序盤で寝転んでしまうこともある。それも含めて楽しんでもらうというのが本来の子豚レースでした。

 しかし、友人の場合は違いました。ゲートが開くと同時に子豚が猛ダッシュでゴールに向かったんです。後ろから本気で追いかける友人でさえ結構な差つけて子豚はゴールイン。もちろん、2位以下に圧倒的な差をつけての勝利です。

 勝利者には商品授与と同時に簡単なヒーローインタビューがございます。インタビュアーの女性も子豚の猛ダッシュには驚きを隠せていませんでした。

「私が今まで見た中で1番早かったかも。勝因は何だと思いますか」
「やっぱり子豚ちゃんとの事前の打ち合わせに尽きますね」

 友人がやたらと自信満々に言うんで、失笑してしまった私です。当然ながら、非売品をもらってホクホク顔の友人に訪ねました。ゲートで子豚と何をしていたのかと。

「だから打ち合わせだって」
「打ち合わせって何だよ。もっと具体的に言えよ」
「まず子豚と目を合わせるじゃん。あとは『ゲートが開いた瞬間にゴールまでダッシュだぞ』と言って聞かせるだけだよ」

 初対面の子豚と意思疎通ができることを前提に話を進めるんで私はついていけませんでした。とりあえず、子豚レースの結果で今後の人生が左右されるときが来たら意地でもこの友人を招聘しようと思いました。

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