見出し画像

擬態だらけの世の中で擬態に戸惑う

 「嘘をついたり騙したりするのは良くない」とよく言いますけれども、嘘をついたり騙したりしないと生きていけないのもまた事実です。それこそ文字通り「生きていけない」場合がある。だから「擬態ぎたい」なんてのが存在するんだと私は勝手に思っています。擬態、つまり「自分の身体を別のものに似せる行為」でございまして、身を守ったり、餌を捕らえたりするのに活用しているとされています。

 カメレオンに代表される、周囲のものに身体の色や形を変化させて見つかりにくくするのも擬態の一種です。身近な例ではアマガエルもそうですね。トラやシマウマの模様も茂みに入ると見つかりにくくなる効果があると考えられています。

 別の危険な生き物に似せるパターンもよく知られています。毒を持つ危険な生き物は「自分は危険ですけど何か?」と周囲に知らせるため、敢えて派手な身体になる「警告色」という現象がございます。

 他の生き物に見つかっても反撃する能力があるどころか、相手を打ち倒してしまう場合もあるため、身体の色を周囲に合わせる必要がない。結果として派手な色になったのかもしれません。擬態と真逆の戦略なんですが、その真逆のはずの警告色に擬態するやつらがいるわけです。全然危険じゃないのに「自分も危険っすよ。超危険っす。危険が危なくて危機的状況を危惧してるっすー」みたいな感じで、警告色バリバリの生き物に身体を似せる。そうすることで「あいつも危険そうだな」とみんなが避けていき、生き延びる確率が上がるという算段です。

 この手の擬態で有名なのはサンゴヘビとミルクヘビだと思われます。サンゴヘビはアメリカ大陸に住む強力な毒蛇で、その外見も「ほらほら危険危険」と主張しているかのような派手さです。

 一方、ミルクヘビは毒のない蛇でございますが、サンゴヘビのような派手目の色をしており、「自分も危険っす。ほらほら危険っす」と言って回っているかのようです。

 他にも、針がないのにハチのような外見をしたハエなどもこの手の擬態に該当します。

 当然ながら、人間だって擬態を利用しておりまして、迷彩服やギリースーツなど軍事面では古くから擬態の有効性に注目していました。

 日常生活だって、別に腕っぷしは強くないし鍛えてもないけどモヒカンにしたり髭を生やしてみたりして自分をちょっと強そうに見せるなんてのも、誰もそうだとは言ってないですけれども擬態の側面を持ってると思います。

 生き物は擬態する。人も擬態する。言ってしまえば世の中擬態だらけということです。

 さて、生きているといろんな人を見かけます。先日、某巨大駅の地下道を歩いておりますと、前から特徴的な方が歩いてきました。根元から毛先まで「蛍光紫」としか表現できない色の髪をしていたんです。しかも、その長い髪を首回りに巻き付けている。

 折りしも急に寒くなってきた頃合いでしたので、マフラー代わりに自分の髪の毛を巻きつけているのかと思ってたんですが、女性とすれ違う辺りになって気づきました。「あ、マジのマフラーだ」と。正確にはマフラーはマジのマフラーで、髪もマジの髪でした。どちらも全く同じ色だったので、すれ違うレベルの距離まで近づいてようやく、マフラーと髪の毛の境界線が薄っすら見えたんです。

 この場合は髪がマフラーの擬態をしているのか、逆にマフラーが髪の擬態をしているのか、それとも髪とマフラーのセットで別の何かに擬態しているのか。考えれば考えるほど分かりません。

 こんな擬態もありました。これも同じ駅の地下道で見かけた方なんですが、目の前を横切るその女性から明らかに何かをズリズリ引きずる音がずっとしてるんです。でも、何度確認しても女性は何も引きずっていない。裾が床についているわけでなければ、キャリーケースを引っ張っているわけでもない。でも、女性から引きずる音はずっと聞こえる。

 引きずってないのに引きずる音を出す。これも擬態の一種ではないかと思っています。

 マフラーと同じ色の髪にする女性。何も引きずってないのに何かを引きずっているかのような音を出す女性。どちらの擬態にも言えることは「誰をどう騙すためにそんな擬態をするのか」だと思います。

 世の中には謎が多い。擬態もまた例外ではありません。その女性たちにどうこうする気なんて更々ない私ですが、しっかり擬態に戸惑わされています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?