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電車あるあるの洗礼と対策

 電車でいねむりをしている人は当然のようにいらっしゃいます。ひとつの車両に複数人いても何も珍しくない。あまりに深く眠っているからなのか、隣に座っている乗客にもたれかかる方もいらっしゃいます。これだって「電車あるある」みたいなもので、様々なところでネタにされているところを何度も見ております。

 上京したばかりの時、山手線に乗って1周してみたんです。それまで電車に乗る習慣があまりなかったから、慣れておいた方がいいと思ったんです。そもそも東京に慣れてない。私は何しろ新宿の中に銀座があると思っていましたし、下北沢と北千住の区別がついていなかったんです。何なら下北沢と北千住は未だにごっちゃですけれども、それはともかく、大体の位置関係は把握しておかないと出かけるたびに迷子になると思ったんです。

 山手線は場所柄、いつでも人がいますから、座れたらラッキーな時間帯が結構ございます。その時も車内に入った途端、割と人がいるにもかかわらず空席を見つけたんです。しかもふたつ。ひとりの男性を挟んでポンポンと空いている。これはありがたいと思いながら片方の席に座ったんですが、電車が動き出した瞬間、隣で寝てた男性の頭が私の肩に乗ったんです。次の駅に停車すると男性の頭は反対方向の空席に向く。

 「電車が動いたり止まったりするたびに身体の傾く方向が変わるから、居眠りしている人の両脇が空いている」というネタを私は即座に思い出しました。なるほど、これがそうか。「電車あるある」の洗礼を受けた私は、男性の頭を肩に乗せながらひとり感動しておりました。

 とは言え、それからも電車に乗り続けると「電車あるある」の感動は薄れてゆき、他の人と同じように「ああ、またか」と軽くうんざりするようになってゆきました。私としては隣の人を起こす勇気がありませんので、知らないふりしてスマホをいじることしかできません。

 他の人の対策を見ていますと、隣人の頭が乗っている肩をさりげなく動かして起こしにかかるか、私と同じようにただただ降りるまで耐えるか、それとも席を立ってしまうか、そのみっつが多いように思います。ただし、寝ている人が何かの拍子に起きたとしても、またすぐ眠りに落ちてしまう場合がほとんどのため、根本的な解決はどちらかが席を立つしかないようです。そう思ってたんです。

 先日も電車の吊革に乗って帰宅の途についておりますと、目の前に女性が座っていました。表情から推察して、女性は不機嫌そうでした。というのも、隣に座っている女子高生の頭が肩に乗っていたからです。もちろん、女子高生は熟睡しています。

 その次の瞬間でした。目の前の女性が女子高生のの頭を叩いたんです。叩いた音は全然聞こえませんでしたから、かなり加減したのでしょうが、それでも叩いたのは叩いたんです。密かにビックリする私の前で女子高生は目を覚ましまして、何かを悟ったのかそれ以降は寝なくなりました。そして、ターミナル駅に止まると女子高生は先に降り、叩いた女性もそのふたつ先の駅で降りてゆきました。

 熟睡した頭を肩に乗せられた人は席を立つ以外、なす術がないとばかり思っていた私にとっては、隣の人をちゃんと起きたまま保った初めての事例でした。でも、目の前に人がいる状態で隣の人を叩くのは相当の勇気がいると言うか、普通はダメですよね。トラブルに発展する可能性もありますし。

 あそこまでしないと隣の人を起こせないなら、今後も私は熟睡した人の頭を肩の乗せる日々が続きそうです。

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