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作曲に関する気まずい思い出

 先日、Youtubeでこんな動画を見たんです。

 作曲初心者が作りがちな曲を披露し、その曲のどこが問題かを指摘しつつ直していく動画でございます。

 この動画で最初に披露された、初心者がやりがちな曲を聞いていたら、私、心の奥がキュッと縮み上がりました。と申しますのも、ちょうどそんな感じの曲を聞かされ、感想を聞かれたことがあるんです。しかも3回、それぞれ別の人からです。

 最初に曲を披露してきたのは、高校の同級生でした。彼はバンドをやっていたんですが、どうやらこの間の土日に作曲ソフトを使って作曲活動に勤しんだそうなんです。家から一歩も外に出ず、己の内側から湧き出る音楽と向き合ったんだそうです。

 しかし、彼の曲は動画に紹介されたような、初心者がやりがちな曲でございました。そんな曲を「苦労して作ったんだよ」と言って披露してくる。でも、私にだってその曲が変だと一発で分かりました。プロの作曲家が作ったものと、悪い意味で明らかに違う。

 こういう時、友人として見せる優しさには2パターンあると思います。ハッキリ言うパターンと噓でも褒めるパターンです。私が選んだのは前者でした。最後まで聞いた私は、嬉しそうにニコニコしている友人に向かってこう言いました。「音符が酔っぱらっている」。

 気を遣った表現のつもりでしたが、友人はしっかりカチンと来ていました。私としてはこれをきっかけに作曲レベルを上げてほしかったんですけれども、友人は「どういうことだよ」と問い詰めてきます。あまりに詰められすぎて「プロの曲とかちゃんと聞いた? こんなにメロディーライン、ピロピロしてなかっただろ」などと、想定以上に友人の作品を批判してしまいまして、友人関係にヒビを入れてしまいました。

 ふたり目は大学時代の彼女でした。確かに音楽は好きな子でしたし、歌も上手でした。でも、別にバンドを組んだ経験もなければ、楽器を習ったこともありません。作曲に手を染める素振りなんて全然ありませんでした。

 だから、私にとっては本当に突然のことだったんです。彼女はいつの間にかパソコンで曲を作っていたようで、ある日、いきなり私に曲を聞かせてきたんです。

 どうして曲を作ったのか、未だに分かりません。でも、私に曲を聞かせた彼女は明らかに満足げです。音楽の才能が本格的に花開いちゃったと言わんばかりの顔に見えたんです。

 私には、友人関係にヒビを入れた苦い思い出がありました。嘘でも褒めた方がいいのだろうかと、一瞬だけよぎりました。でも、相手は昨日今日に知り合った人ではない。ひょっとしたら意見を真摯に受け止めてくれるかもしれない。そう思ったからか、気づいた時には「変だよ、この曲」と言ってしまっていました。彼女が怒らなかったのは幸いでしたが、「まあ、星野君は作曲とか分からないからね」と返してきました。

 作曲が分からないのは事実ですが、彼女の曲が明らかに変なのは分かったんです。ご存じの通り、世の中にはガチのプロが作った音楽が溢れていますし、聞こうと思えば割と簡単に聞ける曲がたくさんあります。当時だってそれは同じでした。だから、普通の大学生ならばガチプロの曲をたくさん聞いてきている。素人が初めて作った音楽とガチプロ音楽との違いが即座に判別できる程度には、耳が鍛えられているはずなんです。

 最後は同じく大学時代、ネットで知り合った人でした。これまでのふたりもそうなんですが、どうして音楽素人の私に自作の音楽を聞かせようとするのでしょうか。どう考えても私より適役な人類が50億人くらいいると思うんですけれども、どうも曲を作ると身近な人に聞かせて感想を聞きたくなる人が一定数いらっしゃるようなのです。

 その知人の曲もまた、動画の冒頭のようなピロピロメロディーでございまして、私は正直に感想を言うべきか悩んでしまいました。3度目の正直を狙うことも考えましたが、結局は褒めてしまいました。完全な嘘です。知人はお礼を言ってくれましたが、かなりの罪悪感が残ってしまいました。

 私は音楽に詳しいわけではありません。だから、ピントのズレた感想を抱いたのではないかとも考えました。本当は曲としてちゃんとしているのに、私の耳が悪いばかりに見当違いな感想を抱いてしまったのではないかと。

 でも、今回の動画を見て「ああ、やっぱり素人の曲だったんだ」と思いました。私に曲を聞かせてくれた3人とはもう連絡を取っていませんけれども、音楽家として成功したという話も聞きませんので、やっぱりそういうことだったんだと思います。

 動画をきっかけに、気まずい思い出を一気にみっつも思い出してしまったわけですけれども、なんかホッとしたのも事実です。

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