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若者も言う「最近の若者は」

 「最近の若者は」という常套句があります。ベタベタすぎて丸々そのまま使う人は逆に少ないんじゃないかと思えるほどです。そういう意味では、唐草模様の風呂敷包みを背負った泥棒と一緒で、既にひとつの記号になってしまっているのでしょう。ただ、似たような意味のことを言われた方は多いと思います。私も言われてきましたし、それに対して「何でそんなこと言うんだろう」みたいな感想を抱きました。

 もちろん、「自分も大人になったらそんなこと言うようになるのか」とも思いました。どうしたら言わなくなるようになるのか考えたこともありましたが、いい解決法を用意できないまま大人になってしまいました。

 二十歳を過ぎてしばらくした日のことです。社会人になった私はようやく新人と呼ばれなくなってきまして、後輩も結構できてきました。そんな後輩のひとりと仕事をしていた時です。どういう話の流れでそうなったのかはサッパリ覚えていませんが、後輩がこう憤っていたのだけは覚えています。

「今の若いやつってほんとダメっすよね」

 それを聞いた私、一気にふたつ驚きました。ひとつ目は「20代でもうそんなこと言うんすか」という驚きです。思わず「君も『若いやつ』なんじゃないのか」というツッコミをしそうになりました。そういう嘆きはもっとお腹が出て白髪も増えて病気をみっつよっつ持つような中年になってから言うものだと思っていたんです。しかし、私も後輩も、まだ丸いお腹も白い髪もたくさんの病気も用意できていない。それなのにこの一言です。そして、ふたつ目は「自分より年下の人がもっと年下の人に言うんすか」という驚きです。この場ではせめて年上である私が言ってこそなんじゃないかと思い込んでいたわけです。いや、別に言いたいわけじゃないんですけど、いざ後輩に言われると先を越された感が半端なかったんです。

 でも、よくよく考えたら、中学生の時も周囲に「俺たちの代はもっと厳しかった」みたいなことを言ってる人がいたんです。これも「最近の若者は」と根っこは同じです。だから、そういうことを言うのは年齢の問題じゃなくて、考え方の問題なのかもしれないと思うようになりました。

 そういやあ、「最近の若者は」みたいなことを言う人がいるのと同様、「これだから老害は」みたいなことを言う人もいらっしゃいます。方向が真逆なだけで、自分とは違う年代の人へ年齢を理由に文句を投げかける点では共通しています。どうしてもそういうことを言っちゃう人がどの年代にもいるんでしょう。もしくは、誰でも油断するとそういうことを言ってしまうのかもしれない。言い方を変えれば、どの年代にも「最近の若者は」的な何かを言わない人もいるということでしょう。

 そもそも後輩が私より先に「最近の若者は」と言われたからって焦る必要はないんです。言わずに済むならそれでいい。そんなわけで、私は今日までどうにか言わずにきているわけです、と言いたいところですが、大体こういうのは本人の自覚なく言ってたりするものなんです。だから、私が無意識のうちに「最近の若者は」的なことをポロッと呟いてしまい、後輩から陰で「これだから星野って野郎は」と言われているのかもしれません。何だったら、実は私が先に「最近の若者は」的なことを言ったから、先述の後輩は追随して「そっすよね、若いやつってダメっすよね」と答えただけなのかも。

 なんか自分の妄想に心をパックリ食べられてしまいそうなので、今回はこの辺で。

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