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「何歳か」よりも「現役かどうか」

 みんな自分の将来は気になると思うんです。ある年齢までは身体も大きくなり、力もついてくる。そして、以降は次第になだらかではありますが衰えていく。人生の諸先輩を見ていれば、誰もが察することです。

 年齢による衰えのひとつとしてあげられるのが、「時代から取り残される」という現象です。新しいものについていけなくなり、昔からのものに固執する。最近の流行が何だか分からないし、知ったところで理解できない。そんなところです。

 確かにそういう面はあるんでしょう。だから昔からずっといじられてきた。でも、私よりもっと新しいものについていけないはずの両親だって、「最近の電話は分からん」とか言いながら普通にスマホでLINEをやってますし、何か分からないことがあったら検索もしている。新幹線のチケットもスマホで買ってる。ちゃんと時代に取り残されたいなら、せめてスマホを光る石板くらいに思ってもらわないとダメでしょう。

 そういう物事をあれこれ見てきて、何となく分かってきたことがあります。それは「何歳かどうかよりも現役かどうかのほうがデカい」ということです。

 お笑い芸人は売れるとネタをしなくなる傾向がずっと続いています。入ってくる仕事の多くがバラエティの平場だったり何らかのロケだったりとCMだったりと、ネタを必要としないものになるからでしょう。もちろん、ネタを続けている方もいらっしゃいますけれども、そういう方々はご自身の信念に則って、過密スケジュールの合間を縫ってネタを考え、稽古をして本番に臨んでいるはずです。言い換えれば、そこまで意識して動かないと、売れている芸人はネタから離れてしまうのだと思われます。

 それに関連して、お笑い関係で印象深い出来事がふたつございます。どちらの件も名前を伏せるなど、いろいろぼかして書くことをご了承くださいませ。

 ひとつ目の出来事は、とあるお笑いコンビについてです。そのコンビはもうとっくの昔に売れていて、ネタ以外の仕事も積極的にやり続け、ふたりはそれぞれ芸能界で確固たる地位を築いています。今ではピンでの仕事がほとんどとなっている。

 ここまで来ると、ふたり揃うこと自体が貴重になります。ふたりでネタをするとなれば、もう一種のお祭り状態です。そんなお祭りが、とある特番で行われました。最後にネタをしたのが20年以上前というから、お祭らないほうがおかしいんです。ただ、「往年の名コント」なんて銘打って大騒ぎの周囲に対して、ふたりはなんか落ち着かない風に見えました。少なくとも「やってやりますよ」感はなかった。

 実際にネタを見て理由が分かりました。古いんです。内容は誰にでも分かりやすい普遍的なネタだったんですけれども、セリフから動きから構成に至るまで全体的にそこはかとなく古臭さが漂うんです。本当に20年以上前のものをそのまま持ってきたんだなと分かるほどです。

 問題点はそれだけじゃありませんでした。全体的にふたりがぎこちないんです。普段の超有能な仕事ぶりからは全く想像できないレベルで、慣れてない感じが思いっきり出ていました。

 もうひとつの出来事も、とある有名な芸人の話です。その方もまた、もうとっくの昔に売れていて、様々な分野で活躍する一方、ネタを作って披露する機会は長らく失われておりました。

 そんなところ、降って湧いたようにその芸人が様々なネタを披露する番組を放送する運びになりました。当時、既にネタを作らなくなってから10年以上が経っていました。当然、私は放送日を待ち望んで過ごしていましたし、当日は放送10分前から待機していました。

 しかし、いざ番組を見ると、どうもおかしいんです。全く笑えない。私の中では未だに面白い人だったのですが、番組自体は面白く感じられなかったんです。

 単に私がネタの面白さを理解できないだけかもしれない。お笑いでは珍しい話ではありません。そんなわけで私はSNSでリアルタイムの感想をあれこれ確認しました。面白いとおっしゃる方ももちろんいらっしゃいましたが、賛否で言うなら否が明らかに多い。この芸人にしては珍しい現象です。あとで確認したら視聴率もよくなかったようです。私はSNSのとある感想が印象に残りました。「ネタ作りから離れていたのが大きい」。

 今回あげた某コンビも某芸人も、長らく売れているだけあって能力は申し分ないと思います。芸能人としては明らかに現役で、能力が非常にある方々です。しかし、ネタ作りから長らく離れていたため、「ネタを作る筋肉」が衰えていた。すなわち、ネタ作りという1点においては、現役ではなかったということでしょう。

 もちろん、年齢による衰えは否定できません。ただ、現役かどうかに比べればその影響は遥かに小さいようです。若くても現役を離れてしまうと、本当にしっかり衰える様子を他にも見てきました。片方の引退によって解散した若手お笑いコンビが一日限りの再結成をするイベントを見ると、やっぱりどちらが現役か一発で分かるんです。逆に年齢を重ねていても現役ですと、舞台での振舞いがちゃんとしていますし、笑いも取っています。ネタの内容は「スマホよく分からん」みたいなご年配の方向けだったりするんですが、それは単に年齢で客のターゲットを絞っているだけであり、そういう意味では若い方向けにネタをしている若手芸人と本質的には同じです。

 そう考えると、現役にこだわる方の気持ちが分かってきます。こだわる理由は人によって様々でしょうが、その根底には現役を退いた後に起こる衰えを恐れる気持ちが横たわっているのだと思われます。面倒くさがりな私でも現役でいたほうがいいよなあと思うくらいですから、世の働き者は当然そう考えるでしょう。

 衰えはやめた途端に始まる。何事も続けることは力だと改めて痛感した次第です。

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