見出し画像

いいお笑いはいい文章である、ただし半分は  水曜日のダウンタウン 数珠繋ぎネタ編

 3月9日放送の「水曜日のダウンタウン」は「"長い"説タイトルランキングSP」ということで、文字数の長い説をランキング形式で振り返るという、ひとひねりある総集編が放送されました。

 その中に、以前も興味深く見ていましたが、改めて見てもやっぱり興味深かったものがありました。「漫才やコント 全然面白くない出だしからスタートしても 自分が面白いと思う芸人に次の展開考えてもらって数珠繋ぎしていったら 最終的に面白いネタになる説」というやつですね。ナイツの塙さん、ハナコの秋山さん、シソンヌのじろうさん、インパルスの板倉さん、さらば青春の光の森田さん、ロバートの秋山さん、バカリズムさんの順番でネタを少しずつ継ぎ足していったものを、かまいたちのふたりに演じてもらうというとどうなるのか、という内容です。

 実際どうなったのかはもちろん興味がありました。それに加えて、それぞれのブロックに作者の特徴が見え隠れしている気がして、私は面白く拝見いたしました。で、せっかくなので、その特徴を個人的な興味だけでほじくりだしてみようと思いました。各人が書いたネタを引用し、あれこれ書くということです。

 引用したセリフは読みやすくするために細部を変更したり、カッコ書きで内容を補足したりしています。芸人の方のお名前は敬称略となっている部分がありますので、あらかじめご了承ください。では、ネタの進行順に参ります。

1.ナイツ 塙ブロック

濱家「タクシーなかなか捕まらないなあ」
山内「ブーン、ブーン」
濱家「あ、やっとタクシー来た。タクシー!……なんだあのタクシー、運転手眠ってるだろ。ああ、危ないよ。危ないよ。危ない。壁にぶつかる、危ない!」
[衝突音]
濱家「事故った。思いっきり事故った。〈ドアを開ける仕草をして〉大丈夫ですか」
山内「どこまでですか?」
濱家「乗らないよ。客なわけないだろ」
[破裂音]
濱家「エアバック遅いな」

 一応、「全然面白くない出だし」とされている部分です。

 書かれている内容はタクシーの事故であり、2箇所の笑いどころがある。テーマもウケの狙い方もオーソドックスと言えばオーソドックスです。オーソドックスだからつまらないとは限りませんが、何しろオーソドックスですから、普通という印象をされがちであり、それを嫌う人にはつまらないと思われてしまう可能性はございます。少なくとも、塙さんらしさは見当たりません。ただし、敢えて塙さんらしさを消して書かれている可能性があります。

 とにかく、タクシードライバーと客のコントであり、ドライバーがボケで客がツッコミである、という点を冒頭で確定させ、次の人に託しています。


2.ハナコ 秋山ブロック

山内「おお、びっくりした」
濱家「遅いなそれも」
山内「うわー、参ったな、書き入れ時なのに。これって戻せましたっけ」
濱家「えっ」
山内「このエアバック、これって戻せましたっけ」
濱家「いや、たぶん1回きりじゃないですかね」
山内「あー、くっそー これまだ乗りたいのにな」
濱家「もうでも終わってますよ、この車。前もぺしゃんこになってるし」
山内「ええ?」
濱家「ケガとか大丈夫ですか」
山内「あ、はい。あれ」
濱家「え、どうしました」
山内「うわ、出れないぞ」
濱家「ええっ」
山内「挟まっちゃってて」
濱家「大丈夫ですか」
山内「出れました」
濱家「何なんですか」

 冒頭の設定を受けて、更に詳細な設定を追加し、ネタの方向性を固めています。具体的には、車は完全に壊れてしまい、ドライバーは無傷という点です。そして、笑いどころを入れつつ、次の人にバトンを渡しています。

 ハナコは秋山さんと岡部さんがネタの制作者となっています。そのため、どのコントのどのセリフが秋山さんの書いたものなのか私には分からず、それゆえに今回のネタから秋山さんらしさを見出すことは難しい状況です。ただ、見た印象ですと、お笑いのネタとしては全体的に表現が柔らかめであり、「書き入れ時」や「ぺしゃんこ」などの言葉選びに秋山さんの特徴が見て取れるように思いました。


3.シソンヌ じろうブロック

山内「〈車を見て〉うわー、本当だ。ぺしゃんこですね。へっへっ」
濱家「なんでちょっと笑ってるんですか」
山内「うーわー、これ」
濱家「くさっ。……漏らしてません?」
山内「えっ?ああ、事故を起こす前に『トイレに行かなないといけない』って思ってた記憶はかすかに残ってるんですよ」
濱家「漏らしてますって、事故の衝撃で」
山内「はっはっはっはっは」
濱家「(その笑い方)出ちゃった時のやつですよね」
山内「いや、私も出れたし、こいつも出れたんだなと思って。はっはっはっはっは」
濱家「笑い事じゃないですよ」
[猫の鳴き声]
濱家・山内「ん?」
[猫の鳴き声]
山内「あ、猫だ。猫いますよ。どうちたの、さみちいの」
濱家「いや、挟まっちゃってるんですよ」
山内「ん?」
濱家「綺麗に挟まってんなー」
山内「〈頭抱えて〉ああ」
濱家「どうしたんですか」
山内「いやあ、ちょっと問題が乱立しすぎててどれから片づけたらいいのか。……よし、猫だ」
濱家「うんこでしょ、まず」

 シソンヌはあくの強いキャラクターが出てくるコントで知られています。

 じろうさんブロックになった途端、タクシードライバー役の山内さんがよく笑うようになり、猫に赤ちゃん言葉を使うなど、登場人物に新たな性格が表れ始めます。

 また、においに言及するネタが比較的多いのもシソンヌの特徴で、このブロックに入ってからくさいくさい言い始めてます。まあ、漏らしてるんですから当たり前なのですが、においで笑いを取るコントはシソンヌらしさと言えるのかもしれません。

 「私も出れたし、こいつも出れたんだな」のような言葉遊びも特徴的です。


4.インパルス 板倉ブロック

山内「いや、警察への通報でしょう」
濱家「急にまともなこと言った。確かにそうですね」
山内「〈警察に電話をかける〉あ、今赤坂五丁目でクソもらしてしまいまして」
濱家「いや、その報告してどうすんだよ」
山内「……来てくれないみたいです」
濱家「当然だよ」
山内「ええー。戻せましたっけ」
濱家「何を」
山内「〈おしりを指さして〉これ」
濱家「戻るわけないだろ。ちゃんと事故のことを通報しないとダメですよ」
山内「いや、しかしなんと言ったらいいのか」
濱家「そのまま伝えればいいでしょ」
山内「言い方が難しいというか。相手が人なら人身事故って言えるんですが、猫ですからね。ニャン身事故と言えばいいのか」
濱家「ふざけてると思われますよ」
山内「さらに私は漏らしてしまってるという状況も加味すると人糞事故とも言える」
濱家「言えねーよ。言い方とかいいから、もう早くかけ直せって」
山内「ええー」
濱家「ああ、人、集まって来ちゃった」

 このブロックでは山内さんが一言発するたびに濱家さんがバシッとツッコむ形になっています。その辺りは、インパルスのネタを髣髴とさせますね。ツッコミの言葉が一段階荒くなるのも、インパルスの堤下さんを思わせるものがあります。

 「ニャン身事故」や「人糞事故」と言った、じろうさんとはまた違った言葉遊びも特徴的です。前のブロックのラストからすぐに視点をずらすところも注目点かと存じます。


5.さらば青春の光 森田ブロック

山内「〈誰かに向かって〉え?」
濱家「なんか話しかけられてるじゃん」
山内「はい、ああ、すいません。今もう乗せれないんですよ」
濱家「変なやつだった。こいつと同じマインドの変なやつだった」
山内「はい?ニャン身事故?そうなんすよ、うん。はい?人糞事故?あ、そっちもあるんすよ」
濱家「ある言葉なの?俺が知らないだけなの?」
山内「いや、だから乗せれないって言ってるでしょ」
濱家「うん」
山内「ニャン身事故だから乗せれないって。え?空車になってんだろって?いや、だからそれニャン身事故の時点でね。え?ケツはカラんなってんだろって?いや、それは俺が決めることだから。まだ出るかもしんねえだろ」
濱家「変なやつと変なやつがずっと揉めてる。変なやつと変なやつが変なことでずっと揉めてる。この状況、何?あれ、警察か?」

 かまいたちのふたりが最もしゃべりやすそうにしていたブロックでした。理由としては、作者の森田さんが今回唯一の関西弁話者なのが大きいと思われます。ちなみに、各製作者と演者の出身は以下の通りです。

かまいたち山内 島根県松江市
かまいたち濱家 大阪府大阪市
ナイツ塙 千葉県我孫子市
ハナコ秋山 岡山県岡山市
シソンヌじろう 青森県弘前市
インパルス板倉 埼玉県志木市 ※生まれは兵庫県宝塚市
さらば青春の光森田 大阪府堺市
ロバート秋山 福岡県北九州市
バカリズム 福岡県田川市

 意外と全国に散らばっていますが、大半はいわゆる共通語というものでネタを作っています。

 今回のネタに限って言えば、セリフ自体は関西弁ではありませんけれども、無意識のうちに関西弁で話しやすいような文章を書いてしまっているのかもしれません。もしくは、かまいたちはネタの制作者を知っている状況で演じているため、同じように関西弁でネタをするさらば青春の光のしゃべりが最もイメージしやすく、演技をするにも一番しっくりきた可能性が考えられます。

 このブロックでは、ふたりの他に更なる人物を登場させ、その新たな人物のセリフは敢えて誰も演じないことで観客に想像させる手法を取っています。また、相手の発言に対して「え?」などと問い返すのはさらば青春の光のネタではしばしば見られる特徴となっています。「変なやつと変なやつがずっと揉めてる」という言い回しも森田さんならではのものでしょう。


6.ロバート 秋山ブロック

山内「待て。来た。すごくいいぞ。その詩」
濱家「は?詩?」
山内「変なやつと変なやつがずっと揉めてるー♪変なやつと変なやつが変なことで揉めてるー♪変なやつと変なや……」
濱家「ちょ、ちょっと、ちょっと待って。え、何?」
山内「あ、わたくし、川峯ほおずきと申します」
濱家「川峯ほおずき?」
山内「こう見えて、細々と歌手活動をおこなっております」
濱家「なんだ、急に」
山内「この川峯ほおずき、まだデビューはできておりませんが、それを夢見てタクシードライバーをがんばっております」
濱家「展開が急すぎるって」
山内「はっきり申し上げます。あなたが発した『変なやつと変なやつがずっと揉めてる』、『変なやつと変なやつが変なことで揉めてる』。こんなに刺さった詩は初めてです」
濱家「詩とかじゃないんです」
山内「あなたと出会ったのは運命です」

 番組内では若干ながら問題視されていたブロックですね。作者の特徴が最もよく出ていたブロックとも言えます。

 秋山さんのネタは歌が多く用いられ、奇妙な名前の人物がよく登場します。しかも、その手の人物が割とよく名乗ります。話の流れをへし折ってでも、強引に自分の得意分野へ引きずり込んだほうが面白いじゃない、という秋山さんの考えが見て取れるようです。


7.バカリズムブロック

濱家「違いますよ」
山内「一緒に歌いましょう」
濱家「何をですか」
[軽快な音楽が流れる]
山内「この状況を歌にするんです」
濱家「嫌ですよ、恥ずかしい」
山内「〈客席に向かって、わざとらしい言い方で〉変なやつと変なやつがずっと揉めてる。変なやつと変なやつが変なことで揉めてる。こうなったのは誰のせい?猫のせい?クソのせい?」
濱家「〈わざとらしい言い方で〉あなたの居眠り運転のせい」
山内「そう、私の居眠り運転のせい。ニャン身も人糞も、あのボケもこのボケも」
[音楽が止まる]
濱家・山内「すべては居眠り運転のせーいー♪気を付けよう、居眠り運転」
[ふたりが一礼する]
濱家「やっぱり普通にビデオ見せたほうがいいんじゃないですか」
山内「いや、こっちのほうがお客さんも楽しいだろ」
濱家「いや、楽しませることないんですよ。運転免許の更新に来てるだけなんで」
山内「いやもういいから、午後の回まで、もう一回返しとこ。ほら、行こう」
濱家「めんどくせえ」

 まとめです。これまでに登場した様々なものを受けて、お笑い的になるべく必然性のあるオチに着地させています。具体的には、今までの無茶苦茶な流れは全て自動車教習所の出し物ということにしてしまう。

 これまでの出来事を別次元のものにしてしまう、という手法はいわゆる夢オチを始め、数多くの創作物に見られるものですが、この手法をある程度の必然性を持たせて使える辺りはさすがの手腕です。ストーリーのある王道コントからシュールなネタ、歌ネタまで手広くやってきたバカリズムさんだから、どうにかまとめられたのではないかと思えてしまいます。


8.数珠繋ぎ的手法の特徴と問題点

 さて、ここまで各ブロックの特徴というか個人的感想を書いて参りましたが、演者であるかまいたちのふたりはネタを終えた際、今回のような数珠繋ぎネタの問題点を端的に指摘していました。

濱家「読んでる時に知ってる方ばっかりやから、その人がしゃべってるその人がボケてるイメージが湧くんで面白いな面白いなと思ってたんですけど、繋げるとこんな事なるんですか。ま、こんな事言っていいのか分かんないんすけど(ロバート)秋山さんのブロックからめっちゃスベってませんでした?」
山内「秋山さんがやるから面白いというか……」

 ネタ作成の時点では演者が決まっていなかったのか、各制作者は基本的に普段のネタと同じ風に作られていて、セリフが共通語に固定されていました。演者がかまいたちだと分かっていたら、皆さん、もう少し演者に寄せた言い回しにしていたでしょう。いわゆる「当て書き」というやつです。ロバート秋山さんのところが目立ってしまったのは、ロバート秋山さんのネタが秋山さん自身のキャラクターがあってこそ成り立つネタだったのに、別の人が演じてしまったからだと考えられます。

 また、恐らくは敢えてしているのでしょうが、多少は前の人のセリフを受けつつも、登場人物の言い回しが書く人によってかなり違っているため、見る人によっては人物の性格が不安定すぎて違和感を覚えるでしょう。この違和感を防ぐには、全員のネタを出し終えた上で、各ブロックの整合性を調整する担当の人をつけるなどの必要があります。そうやって内容に一貫性を持たせるわけですね。

 当たり前の指摘と言われればそうなのですが、その2点を取り入れてやるだけでも、よりよいネタが出来上がると思います。そうやって作られたネタも見てみたいですね。

 今回は以上になります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?