カツアゲが現実を揺るがす
今でも問題になってると思うんですけど、カツアゲというのがあると思うんです。中高生くらいになると、ちょっと年上の怖い人から「カネくれや」と言われ、お金を巻き上げられる例の犯罪です。
私も高校生の頃、1回だけ遭遇しました。友人3人と一緒に頭の悪い話を自転車をこぎながら下校をしていたんです。通学路は大きめのチェーン店と住宅地が混ざり合う、車通りの多い道でございまして、地方都市の郊外にありがちな景色が広がっている場所でした。
ファッションセンターでお馴染み、しまむらの前を通った時です。茶髪の4人組に呼び止められ、私たちは止まりました。年齢は全員20代前半といったところで、内訳は男性3人、女性1人でございました。
「何してるの?」
男性のひとりがなぜか照れながら話しかけてきます。その間にふたりの男性が私たちの周囲を取り囲みます。
「家に帰るところです」
「へえ、そうなんだ。高校生?」
「そうです」
もうすっかり不安になった私、「これはひょっとして」と思っていると案の定、男性が物騒な本題に入りました。
「実はさー、君たちからお金をもらいたくてさー。俺たちにくれない?」
やっぱり。私は血の気が引きました。他の友人も顔面蒼白です。「いいっすよ」とは言えないけれども、じゃあ他に何と言えばいいのか、何をすればいいのかも分からなくなっていました。
繰り返しになりますけれども、私たちがカツアゲされているのはしまむらの前なんです。ですから、私たちがお金をむしり取られようとしている間にも、買い物を済ませたにこやかな親子が何組も出てくる。そのうちに男性は気が変わったのか、「まあ、もう行っていいや」と言いまして、結局、私たちは1円も取られることなく解放されました。
当時は怖かったですし、無事でよかったと思いましたけれども、よくよく考えると変なんです。カツアゲというのは繁華街なんかにたむろしている怖い人がターゲットを薄暗い路地裏かなんかに連れ込んで、場合によっては刃物をチラつかせてドスの効いた声で脅してくるものだと思っていたんです。漫画なんかでそんな描写を見て、カツアゲは怖いなとビビっていたんです。だから、郊外にあるしまむらの前で恥ずかしそうにお金をねだられるのは予想外だったんです。しかも、こちらがビビっている間にカツアゲを断念しましたし。
そもそもどうしてあんなところでカツアゲしようと思ったんでしょう。しまむらに欲しい服があったけど持ち合わせがなかったから、通りすがりの高校生からお金を巻き上げようと思ったのかもしれません。でも、カツアゲをやり慣れていなかったのか、生まれつきの人見知りが災いしてか、うまいことお金を脅し取れず、私たちをリリースしてしまったのかもしれません。
もちろん、漫画はフィクションです。そして、フィクションは言ってしまえば嘘でございます。事実と異なる描写がたくさんありますし、むしろ異なるほうが多い。史実の水戸黄門は印籠を見せびらかさなかったそうですし、実際の探偵は持ち前の推理力を駆使して猟奇的連続殺人犯を捕まえたりはしないようです。それと同じで、実際のカツアゲだって案外、しまむらの前でおこなわれているのかもしれませんし、カツアゲする人は人見知りゆえに獲物をすぐリリースしてしまうのかもしれない。
現実って何なんですかね。高校生の頃の思い出が、今になって私の現実を揺るがしてきます。
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