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お笑い探偵、「猿の殺意」の謎を解決する

 大学生のお笑いを見ようと、縁もゆかりもない大学に堂々と入ってた話を以前noteに書きました。

 それだけでも充分に不審者なのですが、更に私、大学お笑いの大会にも行ったことがあります。出場者は大学生で、主にお笑いサークル所属の方々です。ちゃんと会場を借り、有志の学生が運営をし、司会はプロの若手芸人が担当する。決勝にもなると大きな会場でおこなわれ、チケットも場合によっては有料、それにもかかわらず売り切れ続出という状況のようです。

 出場者はプロと同じようにグループ名や芸名を名乗ります。そして、大学お笑い独特の文化として、所属するサークルの名前が併記されます。司会が芸人を紹介する場合、芸名の前に「〇〇大学お笑いサークル××××」と言うわけです。当然、あのサークルはすごいとか、ここのエースがヤバいみたいな噂が学生の間を駆け巡るようです。

 この手の大会だと、ライブと同じように観客へ事前にアンケート用紙が配られます。大会そのものへの感想の他、各組のネタに対する感想を書く欄もあるのが一般的です。もちろん、各組は名前と共に所属サークルが記載されています。この時、私が見に行った予選大会もまた同様でした。

 だからこそ、目立ったのです。「無所属」、つまりどのサークルにも所属していない学生がお笑いの大会へ参戦した。名前も「猿の殺意」となかなか特徴的です。

 ネタもまた特徴的でした。始まりと共に何とも言えない音楽が流れて明転し、三角コーンをかぶった人間がひとり現れる。手にはボールが入ったカゴのような装置と、1枚のカードが握られています。カゴっぽい装置を地面に置いたところで、それがビンゴマシンだと気づきました。ボールを出るたびに、ビンゴカードに穴を開け、ひとりビンゴに熱中する三角コーン人間。終始無言ですが、穴が開くたびにガッツポーズをするなど、何だか楽しそうです。

 やがて、舞台袖から3人の女性が現れ、ビンゴを楽しむ三角コーン人間の後ろに立ちます。彼女らは遠巻きに三角コーン人間へ汚物を眺めるかのような視線を投げかけます。そのうちのひとりがおもむろにスマートフォンを取り出すと、嫌そうな表情をキープしたままビンゴ中の三角コーン人間を撮影する。そのまま舞台はゆっくりと暗転し、ネタは終了しました。

 文章で書くと大したことない風に思えるでしょうが、独特な雰囲気もあって観客に大ウケでした。休憩時間中、興奮した女子大生たちが「猿の殺意、ヤバい」などと訳の分からないことを言い合っていたくらいです。

 全てのネタが終了すると、結果発表までの時間を繋ぐため、司会の芸人が気になった学生を呼んで話を聞くというのが恒例になっています。当然、司会はいち早く猿の殺意を呼びましたが、既に帰ってしまったのか現れませんでした。猿の殺意は決勝に行けませんでしたが、観客に少なからずインパクトを残しました。

 もちろん、私も気になりました。あの人たちは誰だったのかと。特に三角コーン人間は素顔すら分からない。ただ、私は学生お笑いと関係のない人間です。詳しく調べるためにはいろんな大学に出入りして関係者から情報を収集するなど、変質者同然の行為に及ばねばなりません。警察の世話になる勇気などない私には、明らかになりそうもない謎でした。

 それから時は流れ、昨年のM-1グランプリ予選になります。

 「ダウ90000」という5人組が準々決勝まで残りました。名前はもちろん、男性1人女性4人という構成も独特です。気になって調べてみたところ、ウィキペディアに独自の項目ができあがっていました。そこに気になる単語を発見します。「はりねずみのパジャマ」。ダウ90000はその集団を前身としている。

 最近は仕事が忙しくなった上、コロナもあって大学お笑いの大会に行かなくなっていました。ただ、SNSで大会本部のアカウントをフォローしているため、大会出場者の情報だけは入ってきます。その中に、様々なサークル名に混じって出てきた単語が「はりねずみのパジャマ」でした。つまり、ダウ90000は大学お笑いの大会に参加経験がある。

 そこで私は猿の殺意を思い出しました。複数の女の子を周囲に配置するスタイルはダウ90000と共通します。それに、女の子の雰囲気も何となく似ています。軽く検索したところ、私の予感は当たってました。猿の殺意は「はりねずみのパジャマ」の方々だったのです。

 三角コーン人間は恐らくダウ90000主催の蓮見翔さんでしょう。現在は舞台をメインに活躍されているようです。ネタを見てから数年、ようやく素顔を拝見できました。

 個人的には未解決事件を解決に導いた探偵のような気分なのですが、悲しいかな喜びを分かち合えるような人がいないんです。というか、この謎を解いたところで何のプラスになるのか自分でもよく分からない。ただ、せっかくなのでここに載せてみました。自分としては満足しています。

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