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デルタゾーン供給過多

 友人たちとボーリングに行ったんです。しかし、ボーリングの才能が欠如している私は気が進みませんでした。一生懸命やって小学生以下のスコアを叩き出し、しかもそれをおいしくいじられるようなスキルもない。そのため、ボーリングのたびに微妙な空気を充満させてきた過去があります。

 しかし、その日は何とかなりました。理由はいろいろありますが、居酒屋経由でボーリング場へ来たため、みんなしっかりお酒が入っていたからというのが最大の要因でした。全員アルコールブーストで陽気になっていますから、どれだけミスろうが、どれだけ雑にいじろうが、みんなケタケタ笑っていました。もちろん私もです。

 あと、もうひとつ、私のしょぼいスコアどころじゃない現象があったのもありました。友人たちの中には、一際派手な格好をした女性がいたんです。ここでは仮に大下さんとしておきます。

 大下さんは誰にでも明るく話しかける女性ではあったんですが、お酒が入るとすぐに話題が放送コードの向こう側へ行ってしまう癖がありました。具体的には強力な下ネタでございまして、その強さたるや男性陣を時にたじろがせるほどでした。

 この日の大下さんもまた充分量のアルコールが全身を駆け巡っておりまして、いつ放送コードの向こう側へ旅立ってもおかしくない状態でした。しかし、ここは居酒屋の個室ではございません。言っちゃいけないことを大声で叫べば、隣のレーンにセクハラを振りまくことになります。そこは人並に常識のある大下さん、酔っぱらっていてもあんなことやこんなことを叫びはしませんでした。

 しかし、ボーリングが始まるとすぐさま大下さんに異変が起きました。何しろ大下さんはシラフでも明るいのに、お酒で明るさドーピングをかましている状態です。球を持ってレーン前にフラフラと歩いていく時点で何だか不穏でございましたが、かくして私の予想は当たりました。球を転がすと同時に、大下さん自身も派手に転倒したんです。

 転倒した自分自身に大爆笑する大下さんは、こんな時に限ってスカートだったんです。当然のように丈は短め、派手な転倒で簡単にめくれます。当然、本来ならばスカートに隠されるべき部分が周囲に公開されてしまいます。

 我々友人が「大丈夫?」と駆け寄ったところ、幸いにも怪我はないようです。しかし、悲しいかな男性陣は大下さんのスカートに隠されていた下腹部のデルタゾーンに視線が吸い寄せられてしまうんです。すぐさま思い直して目をそらすんですが、本能というのは本当にコントロールが難しいものだと痛感いたします。

 本能の操作が難しいのは隣のレーンの男性6人組も同様だったようです。何しろ大下さんは格好も派手なら転倒も派手ですから、隣のレーンの男性も「おっ、何だ何だ」と大下さんを見るわけです。彼らも視線は大下デルタゾーンに注がれていました。

 しっかり注目を浴びてしまった大下さんでしたが、酒の力もあってか本人は全く気にしていませんでした。笑顔で起き上がり、他のみんなの投球を盛り上げ、再び自分が投げる番になった。そこでまた転倒するんです。もう狙ってるとしか思えないほど1回目と同じ形でした。投げながら倒れ、めくれるスカート、再び注目を浴びるデルタゾーン。

 さすがに風紀が乱れすぎだと思った我々友人一同は大下さんにやんわりと忠告します。大下さんは「分かった分かった」とは言うんですが、いざ球を投げると毎回転倒し、デルタゾーンをあらわにするんです。周囲に人がいるし、ちょっとまずいんじゃないか。友人一同は誰もがそう思っていました。

 ただ、変化は確実に訪れていたようです。大下さんが何度も転倒しているうち、友人一同はもちろん、隣レーンの男性たちもまた、大下さんに注目しなくなりました。どれだけスカートがめくれようと、何度デルタゾーンがあらわになろうと、みんな自分たちのプレイへ集中するようになったんです。

 私は自分のプレイに集中しようがしまいが、いつも通り壊滅的なスコアを叩き出していました。やっぱりボーリングは苦手だと再確認するに至ったわけですが、この時はちょっとした気づきがありました。最初こそ男性がみんな見ていたデルタゾーンも供給過多になると見向きもしなくなるのだと。もしくは、定期的にデルタゾーンが公開される状況に慣れてくると、もはや何とも思わなくなるのだと。

 何の役に立ちそうもない発見でしたので、せめてここでネタにしてみました。

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