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ギリギリ落とせる落とし物

 昔から、冬になるとガードレールや電信柱に手袋が片方だけ引っ掛かってるなと思ったんです。最初は悪戯だと思っていましたが、どうやら違うと考え直しました。恐らく、落とし物を引っかけてあるんです。

 財布のような貴重品ならまだしも、片方の手袋だと交番に持っていくのはいささか大袈裟に感じる。しかし、道の片隅に放置したまま見て見ぬふりするのは忍びない。こうしている間にも持ち主が探しているかもしれない。そんな心の迷いが、電柱に引っかける行為に繋がるのかもしれません。少し高い位置に持っていくことで持ち主に見つかりやすくなると共に、土埃による汚れを少しでも軽減したい狙いもあるのでしょう。

 もっとも、散歩中なんかに注意して確認してみると、引っ掛けるものも引っ掛けられるものも意外と多彩です。引っ掛けるものは手袋の他に靴下、ハンカチ、タオルなど、やはりウッカリ落としやすいものが多いです。キャラクターもののクッションみたいな変わり種もたまにございます。引っ掛けられるものはガードレールや電柱、中でも多いのは街路樹や生垣といった街中の樹木です。

 落とし物をカーブミラーに養生テープで貼ってあったこともありました。それはビニール袋に入った扇風機のリモコンと、その説明書でございました。多分、どこにも引っ掛けようがなくて、たまたま手元にあった養生テープで何とかしたんでしょう。落とし物もレアの類ですが、養生テープのお陰でよりレア感が出ていました。

 こんな落とし物と、それを見つけた親切な人の共同作業により出来上がった、落とし物オブジェとも呼ぶべきものですけれども、つい最近も個人的に初めて見るタイプの落とし物を見たんです。

 そこは海辺の公園でございまして、そこかしこに松の木が生えているためか、どこか和風庭園を彷彿とさせる光景が広がっていました。そんな松の木の1本にべったりと藍色の何かが絡まっているんです。近づいてみて正体が分かりました。レインコートです。レインコートが幹に巻かれているんです。

 よくよく見ると、松の木に着せてあるかのように、丁寧に巻いてある。レインコートを着た人が公園で悪い魔法使いの呪いにかかり、そのまま松の木になってしまったようにも見えます。

 レインコートはこれまでの落とし物に比べてかなり大きいです。「ウッカリ落とすものなのか」と思えるほどには巨大です。でも、折りたたんで自転車の荷台に載せていたらワンチャン落とせるかもしれないとも思います。

 こうなってくると、人はどこまで大きなものをウッカリ落とし、他の親切な方によって木か何かに引っ掛けられるのか気になるところです。あまり大きいとウッカリ落とせないですし、何かに引っ掛けるのも難しい。道端に落ちていたところで、落とし物というよりは不法投棄と思われるでしょう。

 そう考えると、レインコートが意外と落とし物としてギリなのかもしれません。

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