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細かすぎて伝わらない食塩相当量

 飴を舐めていたんです。知り合いが観光地で買ってきた飴で、確かにその辺のコンビニやスーパーでは見ないものでした。味はいわゆる「砂糖本来の味」というのでしょうか。いいお砂糖を使ってあるのか風味が上品なんです。私はその辺で売られてるフルーツ味の飴が大好きなんですが、上品な風味の飴も美味しかったです。パッケージに書かれている食品表示の「名称」を確認したら「有平糖」と書かれていました。

 ウィキペディアによりますと「金平糖と共に、日本に初めて輸入されたハードキャンディとされている」とあります。確かに、伝統的な飴と言われると腑に落ちる味です。

 ついでだからと食品表示の「栄養成分表示」も見たんです。飴1粒あたりの栄養成分量が書かれていまして、内訳は熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量となっています。「食塩相当量」はあまり日常生活で見慣れない言葉です。食塩は「塩化ナトリウム」とも言いまして、名前でも分かるようにナトリウムというやつが食塩の一部分を構成しているわけです。栄養的にはこのナトリウムがなかなか重要で、いろんな食材に含まれているんですが、なるべくみんなに分かりやすいよう配慮したのか、「このナトリウム量なら食塩だとこれくらいの量になるっすね」という計算式によって、食塩に換算した量をパッケージに載せているようです。

 私の下手な食塩相当量説明はどうだっていいんです。特筆すべきは、私が食べていた飴のパッケージに書かれていた食塩相当量が「0.0007g」だったという点です。

 「さすが飴、塩分控えめですね」じゃないんです。無塩ドットコムによりますと、厚生労働省が公表している1日における食塩摂取量の目標値は男性が7.5g未満、女性が6.5g未満です。もっと厳しめなWHO基準だと5g未満がいいとされています。

 普通の食事だと達成するのが結構難しい目標なんですが、それにしたって0.0007gはあまりにも少ない。目標値のおよそ1万分の1です。塩分多めの境地に達したいなら1日で飴1万個を食べなければなりません。パッケージによると飴は1粒4gですから、1万個なら40kgです。歴戦のフードファイターも瞬時に白旗を上げるレベルでしょう。

 これだけ小さな量だと普通のはかりで調べるなんて無理です。大学時代に0.00001gまで測定できるはかりを使ったことがあるんですが、はかりの上でため息をつくだけで反応するんです。言い換えると、はかりが敏感すぎてため息の重さも自動的に測り始めてしまうわけです。これだけ敏感なはかりだと小さな埃どころか、部屋の温度やはかりを置いた場所によっても重さが微妙に変わったりする。だから、そういうはかりには「今この状態を0gとする」というボタンがあって、それを押して0gにしてからサッサと重さを測るようにするんです。

 食品表示基準を確認したところ、ナトリウムの量はやっぱり別の方法で測定するように義務づけられていました。

 「原子吸光光度法又は誘導結合プラズマ発光分析法」という、巨大怪獣を一撃で葬り去る秘密兵器みたいな名前の方法を使ってチェックするようです。

 ただ、もう少し食品表示基準を調べてみますと、成分によってはあまりに少なかったら「ゼロ」と表示してもいい決まりになっていました。ナトリウム、つまり食塩相当量も同様で、その量は「五ミリグラム」とありました。0.0007gは0.7mgですから、全然ゼロでもよかったんです。でも、正確な数値を敢えて出した。

 どうしてなのでしょう。担当者がものすごく正確性を重視する人だったのか。それとも、「せっかく高いお金を出して秘密兵器みたいな分析方法を使ったんだから載せておこう」となったのか。塩分をとても気にする人に向けて「うちはこんなに減塩やってまっせ」とアピールすることで新たな顧客をゲットしたいのか。

 数値ひとつでたっぷり妄想を楽しんでしまいました。多分、飴そのものより楽しんでいたと思います。

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