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鉄塔トラップ

 郊外の巨大建築と言えば高圧電線の鉄塔です。山に連なっている場合もあれば、住宅地のど真ん中に鎮座している場合も珍しくありません。

 高圧の電気を扱っている関係上、鉄塔の周囲は金網で囲まれ、一般市民の侵入を拒んでいます。ご丁寧に「危険 立入禁止」の看板が設置されている場合もあります。危険なことが嫌いな私は登ろうなんて一度も思わずここまで来ましたし、何なら電力会社の人を除けば誰かが登っているところを見たことがありません。でも、万が一にでもその辺の人が登ったら一大事ですし、過去には登って一大事を達成した人がいたのかもしれません。それは危ない。だから設けてある柵であり、看板なんだと思います。

 しかし、田舎に行くと鉄塔事情は一変します。柵で囲っていない鉄塔がグッと増えるんです。山に立つ鉄塔はもちろん、畑のど真ん中に立つ鉄塔、道路脇の鉄塔、民家の隣にある鉄塔に至るまで、とにかく柵がないんです。

 もちろん、鉄塔自体に「危険 のぼるな」みたいな看板はありますし、仮に登られても高いところまでいかないようネズミ返し的な構造物が完備されています。それにしたって、あまりにも無防備なんです。触ろうと思えば全然触れる。ちょっと人口密度の高い地域ならば柵でガッチリガードして侵入者から守っている鉄塔が、田舎ではどうしてそんなに丸出しなのか。羽を伸ばすにも程があると思ったんです。

 ひょっとすると罠なんじゃないか。私は思いました。何しろ、禁止されると敢えてやりたくなる人は一定数存在します。ですから、人の多い場所では厳重なガードをしておき、鉄塔に触れない禁断症状を増幅させていくわけです。そして、フラッと立ち寄った田舎町でむき出しの鉄塔を発見すると「おおノーガード鉄塔じゃん」とフラフラ近寄るように仕向け、やってきたところを電撃でバチーンとやる仕組みなのではないかと。

 案の定、畑の中に立つむき出しの鉄塔を見た私はフラフラと近寄って行ったんです。罠だ罠だと思いながらも誘惑に抗えない心の弱い人間でございます。ただ、臆病な私は鉄塔から少し離れて一応は観察しました。電撃バチーンがあったとしたら、その辺に黒焦げの小動物が散らばっていてもおかしくありませんが、そういうものは全くない。恐る恐る根元に触ってみましたが、当然ながら何事も起きません。さすがに登る気にはならず、そのまま鉄塔から離れました。

 私の何が問題かって、「そんな罠を張って電力会社に何の得があるのか」という考えに至らない点だと思います。ちなみに住宅地の中でもノーガード鉄塔がごく稀に見つかります。これなんかはもう、強力なトラップだと私は勝手に思っています。

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