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座席の透明糞

 どうでもいい発見をしてませんか。気づいたところで得も損もないし、深く掘り下げたところで何も出てこなさそうな発見を。私はたまにします。そしてすぐ忘れます。理由はどうでもいいからです。でも、何度も発見してるとさすがに記憶が定着してくるのか、「これこの間も発見したな」とか思ってくるんです。

 例えば、電車で起きる現象です。電車に乗ると、人は席に座る傾向が極めて強いです。まあ当然ですよね。席が空いていれば誰かが座る。非常によくある光景です。

 私、帰りはいつも乗車駅で折り返しになる電車に乗るんです。つまり、電車がやってくるよりもちょっと早めにホームで待っていれば必ず席に座れる。だから、電車が来る頃には往々にして人が列を作っています。電車が来て乗客が全員降り、車内確認が終わったらようやくホームで待っていた人が乗車する。当然ながら皆さん席につき、座席は次々と埋まっていくんですけれども、そこで時々奇妙な現象を目にします。誰も座らない席ができるんです。

 吊革につかまる人もチラホラ出てきているのに、ひとつだけポツンと開いている席がある。別段そこに座りたくない理由が見当たらないにもかかわらず、立っている乗客は誰もそこに座ろうとしない。

 たまに私の隣にもそういう謎空席が生じるんで、いろいろ観察してみたんですが、やっぱり分からない。私に問題があるんでしたら両脇が空くはずなんですが、逆サイドは普通に人が座っているんです。もう本当に分かりません。私には見えないしにおわないし触れない透明な糞が座席にこんもり乗っているとしか思えないくらい、立ってる客の誰もが頑なに座らないんです。

 しかし、ひとつ目の駅に停まり、そこで乗って来た乗客は空いている席を見かけるとすぐに座るんです。透明糞なんて気にする様子もありません。さっきまでポッカリ空いていた席は何だったのかと言うくらい、皆さんアッサリと座ってしまう。

 帰りの電車で近くの席がポッカリとひとり分空くたびに、そして次の駅でその席が簡単に埋まるたびに、これはどういうことなんだろうとぼんやり考えるんです。しかし、透明糞とかいう訳の分からない概念を思いついてしまったばっかりに、ポッカリ空いた席を見ると心の中で「あ、透明糞」とおちょくるだけで、座席の謎を解決することなく現在に至っています。

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