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理想と違ったらしいウッドデッキ

 友人から聞いた話です。

 友人は最寄り駅までの道のりで、新しく戸建ての家ができたんだそうです。その家はウッドデッキがあり、木製の机と椅子が設置されていました。

 休日にお出かけをした友人がたまたまそのウッドデッキハウスの前を通ると、そこに住んでいると思しき女性がウッドデッキに設置された椅子に座っていました。机の上にはお皿とマグカップが置かれ、ちょうどサンドイッチを食べようとしていたそうです。そして、口にサンドイッチをくわえた瞬間、友人としっかり目が合い、そのまま固まったそうです。

 友人としてもまさか近所とは言え知らない人に「おいしいですか」とか「お気になさらず召し上がってください」とか気軽に話しかける勇気もなく、そのまま通り過ぎていったそうです。その日以降、休日にその家を通り過ぎることは何度もあったそうですが、ウッドデッキハウスの女性がウッドデッキで軽食をとる様子は一度たりとも見かけなかったようです。

 友人は思いました。あのサンドイッチをかじったまま固まった時、女性は何となく「もうウッドデッキで食べるのはやめよう」と思ったのではないかと。

 ご自宅を建てる時、ウッドデッキハウスの女性はきっと完成を心待ちにしていたはずです。何ならウッドデッキは女性の希望だったのかもしれない。自宅が完成した暁には「ウッドデッキで朝日を浴びながら優雅に朝食を」なんて思っていた可能性もあります。

 しかし、いざ完成してみると、ウッドデッキは女性の理想とはかけ離れたものだったのかもしれません。何しろ、外は暑くもなるし寒くもなる。風も雨もバンバン飛んでくるし、そうなればだんだん汚れていくでしょう。その上、外から中の様子が見えてしまうため、優雅な朝食をしようにも、たまたま前を通っていた通行人、すなわち私の友人とバッチリ目があってしまった。ウッドデッキハウス建設中に思い描いた夢から覚め、現実と遭遇した瞬間だったのかもしれません。女性にとって思ったより楽しい施設ではなかったウッドデッキハウスはその後しばらくの間は放置されていたのか、枯れ葉や土埃が薄っすら積もった状態だったようです。

 それから何年も経ちまして、友人はウッドデッキハウスの前を通ってもウッドデッキを意識することがなくなっていました。そんなとある日の休日、遊びに出かける友人がウッドデッキハウスの前を通ったところ、ウッドデッキで久々に人の気配がしたそうです。ふたりの女の子とひとりの女性がままごとをして遊んでいました。女性はもちろん以前サンドイッチをかじったまま固まった女性です。

 ままごとは何しろままごとですから、プラスチックの更に盛られた料理はカッチリ丸めた泥団子だったりするわけです。当然、ウッドデッキのあちらこちらにも泥が飛んで汚れている。でも、ふたりの女の子もひとりの女性も楽しそうだったそうです。何より女性はそばを通る友人を見て固まったりしませんでした。

 なかなか理想通りにいかない時はありますが、じゃあ楽しくないかというとそんなことでもないようだと友人は言ってました。その通りだと思います。

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