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マンゲキ風紀委員に見る安定と不安定の間

 何かの流れで、YouTubeにて「マンゲキ風紀委員」という動画を見るようになったんです。マンゲキ、すなわち「よしもと漫才劇場」と呼ばれる大阪の劇場にて風紀委員として君臨する「令和喜多みな実」河野さんが、劇場を出入りする芸人の持ち物検査をするという番組です。

 以下の動画がシリーズ第1回目であり、企画の基本形と言っていいでしょう。

 持ち物検査をされるお二方も、企画へ挑む姿勢が綺麗に分かれていました。特に用意せず素で勝負する「ちからこぶ」宮北さんに対し、あらかじめ仕込んでくる「フースーヤ」谷口さん。奇しくも、この手の企画の挑み方としての王道パターン2種類をキッチリ示した形となっています。

 よしもと漫才劇場はその名の通り吉本興業が運営する劇場であり、出入りする芸人は基本的に吉本興業所属の人物です。

 吉本興業と言えば所属芸人が膨大という特徴がありますけれども、その割には芸人の結束が固いことで知られ、縦にも横にも繋がりが強い印象があります。その象徴とも言えるのが「団体芸」とも称される行動です。つまり、バラエティ番組のトークといった平場で、吉本芸人同士があらかじめ作り込んでおいたやりとりをするというものです。

 この団体芸というものに吉本芸人は本当に長けていまして、参加する芸人同士が互いのプロフィールやエピソードを把握し、話の流れでそれをうまく披露するんです。どの芸人のどこをどういじったらいいかとか、誰にどういうフリをすればいいかとか、MCを中心に本当によく分かっていて、同じ舞台にいるどんな芸人に対しても楽しいやり取りを展開する。常日頃から芸人同士が交流を持ち、日々話のネタを生み出し合っているからこそできる芸当なのだと考えられます。

 一方で、団体芸のデメリットも存在します。あらかじめ仕込んでいるネタを披露するため、場合によっては予定調和になってしまう危険性が常につきまといます。仕組んだ感じが出ると笑いは減る傾向があるため、自然な感じで展開していく必要が出てきます。

 つまり、団体芸は安定感があるんだけれども、安定すぎてつまらなくなる危険性があるわけです。これは別にお笑いだけの話ではなく、どんな組織でもある話です。同じメンバーであり続けると安定はしますが、安定しすぎて風通しが悪くなり、いろいろと弊害が出てくる場合がある。それを防ぐための方法として効果的なのは今も昔も外から人を呼ぶことです。そうやって、組織は変化し、生き延びてきたわけです多分。

 マンゲキ風紀委員側がそう思ったのかは知りませんが、シリーズが進むにつれ、他事務所の人が持ち物検査を受けるようになってきました。

ランジャタイ

真空ジェシカ

トム・ブラウン

モグライダー

 同じお笑い芸人でも事務所が違えば文化が若干異なります。企業風土くらいの差はあるでしょう。吉本芸人同士に比べて慣れない相手とも言えます。会話がどう転ぶか予想がつきませんけれども、当然ながら予定調和感は減り、新鮮なやり取りが生まれる可能性が増えて参ります。

 しかし、迎えた芸人のセレクションです。

 吉本興業がわざわざ他事務所から呼ぼうと考えるくらいですから、集客力のある方々を選んでいるはずです。上の4組は最近M-1で決勝まで行っているため、当然ながら集客が見込まれる。それにしたって、何を仕掛けてくるのか見当もつかない人と、仕掛けるつもりはないんだけどどう動くか分からない人ばかりなんです。

 最初は偶然だと思いました。たまたま特殊な面々が揃っただけだと。事実、モグライダーの芝さんは安定感が持ち味な方で、他のぶっ壊してなんぼの方々とは気質が異なっている。ところが、これを書いている時点でのマンゲキ風紀委員最新動画がこれです。

金属バット

 吉本芸人でありながら特異な芸風で人気の金属バットです。

 繰り返しになりますが、吉本芸人同士のやり取りは非常に安定感があります。金属バットも安定感はあるんですが、前提を壊す方向に安定感があるため、何を仕掛けてくるのか見当もつかない人だと思います。安定感のあるやり取りが続いたから、ちょっとここらでグラグラさせてみようかという企画者の意図を感じさせます。

 私は芸人がハプニングで追い込まれる姿を見るのが大好きなので、どれも十二分に楽しめました。

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