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繊細な人間がスプレーを図太く使う

 制汗スプレーをもらったんです。しかも未使用。封すら開いてません。せっかくなので暑くなったら使ってやろうと思っていたんです。

 そこは地球温暖化がやる気を出している昨今ですから、使うチャンスは思ったよりも早く訪れました。まだ世間が花粉症でヒーヒー言っているうちから夏日を叩き出し始めたんです。暑ければ汗をかく。制汗スプレーの出番です。

 ワクワクしながらスプレーの封を破いたんですけれども、缶をまじまじと見て初めて気づいたんです。この制汗スプレー、制汗は制汗でも足の制汗専門だったんです。

 せっかく胸やら脇やらデリケートゾーンやら、あらゆる汗かきな部分にシューシューやってやろうと思ったのに、まさかの足専門ですか。あの爽やかな冷たい煙を足にしか浴びせられないというのですか。

 軽くショックを覚えた私ですが、すぐに考え直しました。そもそも人間、全身が足の裏みたいなものだろうと。どうせ同じ皮膚です。気にせずバンバンやってしまいましょう。皮膚に何か異常が出てから使用法を変更しても遅くはない。

 そんな感じで、夏日の予報が出るたびにシューシューやっていたのですが、ある日、シューシューやり終えてから缶をじっくり見て気づきました。私が全身に吹き付けていたのは足用制汗スプレーではなく、花粉をブロックするスプレーだったんです。今日も間違った用法で足用制汗スプレーを使ってやろうと思っていたら、別のスプレーを間違った用法で使っていたんです。

 「しまった」と思った私でしたが、すぐに考え直しました。花粉がくっついて困るのは何も目鼻だけではありません。身体にだって花粉がくっつくはずです。身体に花粉をくっつけたまま室内に持ち込んでしまい、何かの拍子に空気中へ改めて散布してしまえば、いつかそれは鼻を刺激してしまうことでしょう。せっかく花粉まみれの外界と遮断された密閉空間が台無しです。室内でもくしゃみ連発の危険が出てくるわけですから。

 室内でも外のような苦しみを味わうくらいならば、うっかり全身に花粉ブロックスプレーをして、花粉に付け入る隙を与えないに越したことはありません。「うっかり」なんて書いてしまいましたが、むしろ結果オーライだったわけです。

 私はちょっとしたことを気にしがちで、人と話すのも緊張しがちなため、随分と繊細だなあ、もっと図太く生きた方がいいのになあ、などと思っていました。しかし、スプレーの使い方を振り返ってみると、繊細さのかけらもありません。むしろ、図太いほうに思います。

 大抵の人は繊細さと図太さを併せ持っておりまして、それぞれ繊細な部分と図太い部分が異なるだけなのかもしれません。とりあえず、私はスプレー方面に図太いことが分かりました。

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