梟【建築家の卵】

徒然なるままに。

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コーヒードリップ

 カランと音が鳴って溶けた氷が黒い海に落ちた。外は相変わらず雨が降り注いでいる。ときどき店の入り口の自動ドアが開閉し、そのたびに生ぬるい風が頬を撫でた。注文したアイスコーヒーは一度口をつけただけで、汗をかいたコップが折りたたんだ紙を濡らしていた。僕はただ、雨がガラスにあたって流れ落ちていく様を眺めていた。  どれだけ時間がたっただろう。いつの間にか隣でカタカタとキーボードをたたいていた男性はいなくなり、店内も少し落ち着いていた。大学生くらいの男性店員が同じくらいの年齢の女性

    • 生きるって、なんだ

       遠く鳥のなく声が聞こえて、まどろむ頭の中で朝を感じた。天気は曇り。夏らしくない涼しい風が肌にしみた。細胞の一つ一つがまだ夢を見ているようで、しばらく起き上がれる気がしない。今日は何日だろうか。靄のかかる頭の中で昨日の日にちを思い出そうとすると、だんだんと目が覚めてくるのを感じた。今日は7月24日。本来なら夏の盛りの時期だ。  白い天井をボーっと見上げながら、なぜ目が覚めてしまったのだと思う。目が覚めなければ、何も考えなくていいのに。夢の中では、すべてがどうでもいい「つなぎ

      • 僕は、僕を失った

        僕は今、闇の中にいる。 「当たり前で退屈」だと思っていた日常が遠のいてから、自分がその幸せな環境の上で胡坐をかいて座っていただけだったと気づく。なんと愚かで、滑稽だったのだろう。僕はあの時の自分が憎い。 コロナウイルスが蔓延し、外出自粛になった時から、僕の日常は壊れだした。毎日通っていた大学がなくなり、オンライン授業になった。通っていた当時は片道2時間以上もかかる大学にうんざりし、「何で退屈な授業にこんなに時間を割いていかなければならないんだ」と憤慨していた。当時の僕は、

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