擦り切れるまで!

 普段は散文的なものを並べていますが、今日は昔話を兼ねて私の好きなバンド「cinema staff」(シネマスタッフ)と出会うまでの過程を綴ります。

 高校時代、毎週聴いているお気に入りのラジオがあった。ある日、番組内でパーソナリティの人が「次の曲、cinema staffでニトロ」と曲紹介をすると、とても泥臭いバンドサウンドが流れた。その頃の私は丁度、残響レコードに所属するアーティストの楽曲を聴き漁っている頃でcinema staffも残響レコード出身のバンドだったこともあり、気になって色々調べることにした。当時はサブスクなんて文化はほとんど流通してなかったため、次の日すぐに最寄りの廃れたTSUTAYAへ足を運び、たまたま置いてあったSymmetoronica、document、Blue,under the imaginationを借りた。今もだが、当時の私は音楽のことを何も知らないペーペーだったからかあまり好きにはなれず、「ボーカルの人の声結構低いな。ドラム難しそうだな。ギターピロピロしてるし、誰か叫んでるけどなんだこれは。」くらいにしか思えなかった。なにより、曲が複雑で難しかったためあまり聴くことはなかった。
 その後、同じラジオで「西南西の虹」という楽曲が流れたけれどガチャガチャしていて早い曲でよくわからないなと思い、そこからほとんど聴かなくなってしまった。
 ただ、「ニトロ」だけはとても好きな曲調をしていたのと、サビの「明け方に残された飲みかけのアルコール」という歌詞が好きだったのでそれだけはよく聴いてた。知り合いの人に誘われて出演したDJと言う名のただ曲を流すだけのイベントで流したり、バンドでドラムやってる時はドラムのフレーズが好きでカバーしたいと提案までしたが、メンバーからは「この人たちを知らない」という理由で却下された。でもそのくらい好きな曲だったことを今でも覚えているし、今も変わらず好きな曲であり続けている。

 そこからかなりの年月が経った、2019年。インディーズのバンドを追いかけて毎週のように下北沢あたりのライブハウスへ通っていた頃。確か、下北沢MOSiCでライブを見てた日だったと思う。Twitterを見るとcinema staffの全曲サブスク解禁、ベストアルバム発売、白い砂漠のマーチのMV解禁、國光氏と曲を作ってツアーも一緒に回る(情報の日付等順不同)と書いてあってなんだかすごいことが起きてて大変そうだな、好きなバンドthe cabsだった高橋國光氏となんかやるのかすごいなと思ったのを覚えている。もともとthe cabs自体好きだったし高橋國光が陽の目を浴びること自体大変喜ばしく思っていた。しかも昔から信仰のあるcinema staffとの共作となればとんでもないものが生まれるんだろうなとなんとなく期待をしていた。けれど、その期待はそれ以上膨らむ事なく、後日公開された高橋國光との共作「斜陽」と高橋國光が映像監督を務めた「白い砂漠のマーチ」のMVだけを見て満足してしまい、そのままにしてしまった。

 2020年の冬。突然発生したコロナウイルスが蔓延して世界が一変した。心の拠り所であったライブすらも見に行けなくなってしまい、精神的にも参っていた時にSNSで3.28の公開レコーディングをするという情報を目にした。YouTubeでの公開だし、手軽に見れるから試しに見てみようと思っていた。しかし、その日に限って忙しく、バイトが終わって帰宅をして少し経った10:30頃に少しだけ見たけれど途中を見てなさすぎて内容がわからず断念した。
 次の日に斜陽のレコーディングとベストツアーのドキュメンタリーを生放送で配信する聞いて、前日と同じくバイトを終えて10:30頃から遅れて視聴し始めた。何を見たのかはほとんど覚えていないけれど、画面越しにもしっかりと伝わるほどにライブの熱量が凄まじかったこと、「なんだこのバンド、すげぇ」と言葉を漏らしたことはしっかりと覚えている。それと同時に高校時代から今まで、好きなバンドとの対バンやフェスなど、思い返せばこの素晴らしいバンドのライブを見るタイミングが何度もあったのにも関わらず、自らそのチャンスを手放してきたことに対して強く後悔をし、私は何度選択を間違えれば気が済むんだ(ここには記載されていないさまざまなものも含め)と責めた。
 完成した3.28とはどんな曲なのかと思い音源を買って聴いてみると、「なんだ?この爆発的な音は。なんだ?この複雑な構成は。なんだ?この全体のまとまりは。なんだ?この歌のうまさは。」と溢れんばかりの疑問の渦に飲まれるほどのとんでもない曲だったが、それと同時に、いい意味で気持ち悪いほど自分の肌に合う音楽であると確信した。

 その数日後、転がり込むように近所のTSUTAYAを物色しながら梯子し、血眼になってcinema staffの CDを探した。既に全曲サブスクで解禁されていたが、私自身が今までサブスクという文化に触れてこなかったこと、レンタルでもいいからCDというもので歌詞カードを見ながら聴きたいというエゴイズム丸出しの考えに従い、アナログな手法ながらも必死に曲をかき集めた。結局は金銭的な部分やCDの取り扱いなど様々な障壁により、集めきれなかった残りの音源はサブスクで買うことになった。
 集めた曲を日々聴き漁っていると、歌詞がストレートに突き刺さる曲、メンバーそれぞれのスキルを全面に出す曲、楽器と歌のスポットの当て方の違う曲などあげたらキリがないほど音楽的に面白く、聴けば聴くほど味が出てくる。それが楽しくて何度も繰り返して聴くようになり、今ではコロナも落ち着き始め、ライブハウスへ足を運び生音を全身で浴びるという至福な時間を堪能できるようになった。
 これがcinema staffとの出会いであり、今までの経緯だ。

 出会い自体はもう何年も前、けれど、3.28のレコーディングまでの間はほとんど聴いてこなかった。そして、コロナ禍に入ってから本格的に応援をするようになった新参者。だから、まだライブへ足を運んだ回数は少ないけれど、行くたびに思い出すこの一連の出来事は、戒めでありながらも大切な思い出なんだと今日(2021.10.08)のライブを通じて気が付かせてもらえた。遠回りをしすぎてしまったけれど、今こうして本人たちを目の前にして生の音を全身で浴びられること、音楽の海へ誘ってくれること、私はとても幸せに感じています。これからも何度でもその海へ連れて行ってください。