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【第147回】土曜日の夜の過ごし方

いつも覗きにきてくれているあるnoterさんが、「トム・ウェイツ」の「クロージング・タイム」の記事を書かれておりまして、昔ウェイツさんを聴いていた時期があったなぁというのを思い出してちょっと興奮。それで今回はそれに便乗してウェイツさんについて書いてみる。アーティスト風に言うとアンサー記事みたいなもんす。
私がウェイツさんを聴いたきっかけってなんだっけなって考えたんだけれど、これがとんと思い出せない。ただ最初に聴いたウェイツさんのアルバムは「土曜日の夜」である。このアルバムはジャケットが渋くてカッコ良い。私の中で1、2を争うほどに好きなジャケットだ。なのでジャケ買いでもしたのかしらと思う。ジャケット的には深夜にバーボン片手に飲みながら聴くのが似合いそうだけれど、そもそも私はアルコールを受け付けない人間なので、入浴中のBGMとしてよく流していた。
ウェイツさんはしゃがれた歌声をしている。それは写真やアルバム・ジャケットの印象通りである。でも曲自体はキレイなバラードが多くて、歌詞も女々しい恋を歌っていたりしていて、なかなかのギャップがある。そのギャップもウェイツさんの魅力の1つである。不器用な男が歌う恋の歌という感じだ。なのでホントは失恋をした夜に、バーボン片手に聴くと染みるのかもしれない。私は恋もそれほど多くはしてきてないし、アルコールも受け付けない人間なので、入浴中のBGMとして聴くのである。
そしてウェイツさんの曲は結構ジャズっぽい。ピアノとか吹奏系の楽器が聴こえるからそう思い込んでるだけかもしれない。でも「エゴ・ラッピン」というバンドがいて、その人たちがジャズ・テイストのロックを演っているのだけれど、ウェイツさんの曲を聴いていると随所にラッピンさんが影響受けたのであろうなと思わせる箇所があったりするので、その感じ方もあながち間違いではないような気もする。
「土曜日の夜」を聴いてウェイツさんを気に入った私は、しばらくしてから「クロージング・タイム」にも手を出してみた。「クロージング・タイム」はファースト・アルバムで「土曜日の夜」はセカンド・アルバムになる。雰囲気とか曲調にそれほど大きな違いはない。個人的にはジャケットの好きさ加減で「土曜日の夜」のほうをよく聴くけれど、どちらも大人な雰囲気の良い曲が揃っていて好きだ。
さて、では上記を踏まえて、正しい「土曜日の夜」の聴き方を考えてみる。まず、土曜日の夜に女性にふられよう。できれば薄暗いバーのようなところが良い。そして1人で飲んでいる女性に、バーテンダーの方から「あちらの男性からです」っていう例のヤツでお酒を渡してもらい、その女性としばらく一緒に飲んで、いい感じになったところで「今日は帰るわね、お酒、ごちそうさまでした」と言われて女性に逃げられよう。無事女性に逃げられたら家に帰って、まずは洗面所で顔を洗う。石鹸は使ってはいけない。水だけでゴシゴシするのだ。お風呂に浸かるなんてもってのほかである。次はお酒の準備だ。グラスを用意し、手づかみで氷をグラスに挿入、そしてバーボンを無造作に注ぎ込む。もちろんオン・ザ・ロックだ。そうしたらグラスを片手にレコード棚に移動、「土曜日の夜」のレコードを取り出して、そのまま1分間ジャケットを眺めよう。たまにバーボンを口にしながら眺めるのが良いだろう。1度グラスを置き、「土曜日の夜」のレコードをプレイヤーにセットして針を落とす。そして再びグラスを手にとり、そのままソファーに寝転がって、しばらく「土曜日の夜」の音楽に耳を傾けよう。このときソファーに座るのではなく、寝転がるのがポイントである。バーボンをちびちびやりながら、1〜2曲目までウェイツさんのダミ声を堪能して、3曲目になったらおもむろに、ヨレヨレのジャケットの胸ポケットから1枚の写真を取り出すのだ。写真は半分に折り畳まれてしわくちゃなものにしよう。そして写真に写っているのは別れた妻と小学生のときの娘で、更に娘とはもう10年近く会えていないとなお良い。家族と過ごした日々を思い出しながら写真を眺めつつ、バーボンをちびちびやりつつ、しばらくは「土曜日の夜」に浸ろう。このとき間違っても涙を流してはいけない。ウェイツさんに涙は禁物だ。そしてA面の5〜6曲目あたりで、「土曜日の夜」に浸りながら、そのままソファーで明け方まで眠ってしまえば良い。B面を聴いていなんて野暮なことを言ってはいけない。そしてソファーの上で「またやっちまった」と呟こう。
と、ここまでが、私の考える「土曜日の夜」の正しい聴き方である。このアルバムが1番心に染みる聴き方である。少し条件は難しいかもしれないけれど、まあ「土曜日の夜」は「クロージング・タイム」で妥協しても良いですよ。ちなみに私はアルコールがダメなので、バーボンの代わりにほうじ茶をちびちびやっている。後はこんな馬鹿げたことを想像しながら「土曜日の夜」を堪能している。

ウェイツさん
あんたでないと(サタデー・ナイト)
ダメなんだ

季語は土曜日の夜。

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