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「なんてったってアイドル!〜秘密の文化祭大作戦〜」第1話

あらすじ

天啓を受け自分さえ頑張れば気候変動を解決できると信じている生徒会長工藤みなみ。一王山高校を環境モデル校にするための政策を推し進める中、アイドルオタクの山口が「アイドルになって欲しい!」とみなみに文化祭の出演を依頼する。アイドルに全く興味がないみなみは断るが、山口は勝手にプロデュースを始め、みなみは一躍アイドル的人気を得る。だが自分が生徒会長になれなかったことに恨みを持つ生徒会副会長の策略でみなみのスキャンダル写真が流出!みなみは大バッシングを受け、生徒会長の座を追われる。環境対策もアイドルも一人では成立しないことを学んだみなみは、全校生徒が待つ文化祭のステージに現れた。(288文字)

補足説明

登場人物

・工藤みなみ(16)……高二。生徒会長。ショートカット。気候変動を解決するため、一王山高校を「環境モデル校」にするため生徒会長として猪突猛進に活動する。

・山口新一(16)……高二。生徒会広報。みなみにアイドルとして文化祭に出演いsてもらうために、勝手にみなみをプロデュースしていく。小太りのアイドルオタク。

・宮村仁(16)……高二。生徒会副会長、大文化祭実行委員長。生徒会長になれなかったことを恨んでいる。クールなキャラ。

・林原優子(16)……高二。生徒会庶務。生徒会に似つかわしくないギャル。

・山崎蘭(15)……高一。生徒会書記。めがねをかけた読書家。しっかりしているが控えめ。

・服部良(16)……高二。化学部。山口のアイドルオタク友達。かっこつけたオタク。

・小嶋先生(40)……生徒会・進路担当。何かと行動するみなみに手を焼いている。

・工藤緑(21)……みなみの兄。どこかをほっつき歩いているバンドマン。

・みなみの母(47)

・吉田(14)……みなみの中学時代の友達。

・佐藤(14)……みなみの中学時代の友達。

・源先生(35)……みなみ中二の時の担任。

・小山、神谷、目暮……みなみのオタク

第1話

ポツンと立ったシロクマが遠くからこちらを見ている。

ニュース映像。

アナウンサー「連日記録的な猛暑日が続いています――」

みなみM「みんな暑い暑いってあきらめすぎじゃない?」

インタビューに答える暑さに堪えている街の人たち。

みなみM「でも大丈夫」「私がいれば」


タイトル「なんてったってアイドル!~秘密の文化祭大作戦」


○一王山高校・体育館

演台に向かって歩いていく脚。

みなみM「もし地球の命運があなたにかかってるって言われたら? 」「急に言われても困る?」「一体なにをすればいい?」「私はこう答える――」「オッケー、私に任せて」

ピンスポットに照らされる自信に満ちた工藤みなみ(16)の顔。短髪。

みなみ「一王山(いちのうさん)高校生徒会長2年4組工藤みなみです」

演説を続けるみなみ。

みなみM「何故かって?」「わたし、私こそが世界を変えるからだ

「私が一高の生徒会長になったことで世界は良くなり、地球は救われる」 

演説しているみなみが第四の壁を破りこちらを見る。

みなみ「え、大げさ? たかが生徒会長だろって?」「それじゃあみなさんにだけ、特別に私の秘密を教えよう……」


○工藤家・みなみの部屋(夜)・回想

窓に雨が激しく打ちつけている。

うとうとしながら、机に向かい勉強している長髪のみなみ(14)。

みなみM「あれは私が人生で初めて昨日と今日の境目を目の当たりにした日だった――」

ラジオ「お聴きの放送はTDCラジオ0時をお知らせします」

時報チャイムの音。針時計が0時になる。

その刹那、雷鳴が轟く。部屋が稲光で照らされる。

立ち上がり、ビクッと衝撃を受けるみなみ。

猛暑、豪雨、干ばつといった異常気象、気候変動による生活への影響。環境問題のイメージ。最後にシロクマがこちらを見ている。

目を見開いて、口が半開きのみなみ。

振り返るとシロクマが部屋にいる。

みなみ「うわ!」

シロクマ、鳴き声。

みなみ、唖然として何も言えない。

シロクマ、鳴き声。

みなみ「……どうやって?」

シロクマ、手を伸ばす。

その先にみなみが見ていた教科書。国会議事堂の写真。

みなみ「?」

みなみが振り返ると、もうシロクマはいない。

ぽつんと一人立つみなみ。

そこに雷鳴が再び轟き、ビクッとするみなみ。

みなみのシロクマ脳内イメージ「みなみよ、地球を救え!」

全てを納得したかのようにうなずきながら座って、笑いながら猛烈に勉強を始める。

部屋のドアが少し開き、兄の工藤緑(16)が覗く。

緑「うるさいんだけど……」

みなみ「お兄ちゃん!」「私政治家になって地球を救うことにした!」

緑「……まぁがんばれよ……」

ドアが閉まる。

笑顔で勉強しているみなみ。

みなみM「こうして私の伝説が幕を開けた――」 


○中学校・教室

通知簿に5が並ぶ。体育だけ3。

担任の源先生(45)

源「いやぁお母様、人が変わったようですね」

教室で三者面談が行われている。

みなみの隣にいる母(45)、照れ笑い。

源「工藤、お前頭でも打ったんじゃないか」

源、母、笑う。

みなみ、ドヤ顔。

みなみ「先生、私政治家になるんで」

教室「……」

唖然としている源。

母も驚いている。

みなみ、立ち上がって

みなみ「どうせなら日本初の女性総理大臣になります」

源、驚いたまま母と視線を合わせる。

母、私は知らないというジェスチャー。

源「(慌てて)工藤、悪いことは言わない」「政治家だけは絶対にやめておけ」

母「(慌てて)そうだよ、みなみ。みんなに嫌われちゃうよ」「一回落ち着きなさい」

二人が必死にみなみをなだめる。腑に落ちない顔のみなみ。

みなみM「大人はわかってくれない」「友達なら応援してくれるはずだ――」


○公園

みなみ、アイスを持ち、呆然。

同様にアイスを手に、唖然としている佐藤(14)、吉田(14)。

時間が止まったまま見合っている。

佐藤、みなみの溶けたアイスに気付き、

佐藤「みなみ、みなみ。アイス」

慌てて溶けたアイスをなめるみなみ。

佐藤「ははは、でもみなみなら総理大臣なれそう」

うなずく吉田。

みなみ「(取り繕った笑顔で)冗談冗談」

歩いていく3人。

みなみ「お母さんの言ってたことは本当だった」「そういえばヒラリーも野心が強すぎるって無駄に嫌われてたっけ」「あっヒラリーで思い出した」


○ヒラリー、メルケル、土井たか子のイメージ。

みなみM「ヒラリー」「メルケル」「土井たか子」「女性政治家、髪型全員ショート説」

 

○美容院

髪を切られる体勢のみなみ。名残惜しそうに髪を触る。

みなみM「世界の約束に気づいた私はすぐに髪を短くした」「だったら私が一人でやってやる」「これが決意の証だ」

高齢の美容師、手を震わせながらみなみの髪を切る。


○一王山高校・正門前

入学初日。登校する生徒たち。

正門前で仁王立ち、ドヤ顔のみなみ。

みなみM「私は地元で一番の名門、一王山高校、通称一高に合格した」「一高は明治に設立された百年以上の歴史を持つ伝統高」

人物の肖像画。

みなみM「政財界にも多くの人材を送り込み、派閥もある」

総理大臣と書かれた名札と豪華な椅子。

みなみM「この学校で生徒会長になれば、総理大臣の椅子に手をかけたと言っても過言ではない!」

正門前で立っているみなみの横を迷惑そうに宮村仁(15)が通っていく。

みなみM「でもそれは男の話。女(わたし)が歴史を変えようと思ったらゲームチェンジが必要だ」

何かに気づくみなみ。

ビニール袋が西部劇の回転草のように転がっている。不快感を示すみなみ。


○同・校内

ゴミが分別されず溢れている。

水が出しっぱなし。

ペーパータオルの無駄遣いをする生徒。

それらを目撃して眉間に皺を寄せるみなみ。

落ちていたゴミを拾い、握りつぶす。

みなみM「ダメだ、この学校は……遅れすぎている!」


○同・職員室

みなみM「早速私は部活を立ち上げることにした」

「環境部」の申請書。

先生「あの工藤さん……?」

みなみ「環境部を立ち上げます」

先生「やる気があって良いけどね、部活にするには3人部員が必要なの」

「え?」と少し焦るみなみ。

みなみ「わかりました!」


○同・教室

教室で声をかけているみなみ。

みなみ「あの環境部が……」「あの地球を一緒に……」


○同・職員室

「環境を考える会」の申請書。

リストにはみなみ一名。

先生「あっこれって……」

みなみ「別に部活じゃなくても地球は救えますから!」

圧に押されながら、判を押す先生。

みなみM「まぁこういうこともある」


○同・校門

『シロクマに救いの手を!』というプラカードを掲げ、一人デモをしているみなみ、誰も足を止めない。

みなみM「私は気候活動を開始し……」


○同・廊下

『生徒会長候補』と書かれたたすきをかけ、挨拶運動をしているみなみ。

廊下に貼られたみなみの選挙ポスター。

みなみM「生徒会長に立候補した!」


○同・教室

机上の投票用紙(選択式)

「工藤みなみ」の下に「宮村仁」の名前。

工藤みなみに○がつけられる。

続けて同じようにみなみに○がつけられる。


○同・校長室

座って校長(60)と面談しているみなみ。

みなみM「まぁこんな感じで、あれよあれよと一王山高校第113代生徒会長になった」

みなみ「私は一高を環境モデル校にしようと思います」「2050年までに日本は『一高モデル』と呼ばれる学校で溢れ環境先進国になるんです」

校長「最近は生徒会長になりたくて生徒会長になる子が多いが、君は違うようだ」

みなみ「はい!」

校長の話に合わせてイメージ画。

校長「昔、ある街に風車を作ろうとした人が二人いた」「一人は市民に呼びかけて作ろうとした」「それはみなから愛される風車になったが、いかんせん時間もかかり大変だった」「もう一人はもっと簡単な方法を使った」「市民が気づいた時にはもう風車が出来てたんだ」「言ってる意味がわかるかい?」「風車を作らせたんだよ。そいつは市長だった」

みなみ、真剣に聞いている。

校長「任期は一年だ。生徒会長」「上からやるか下からやるか、全て君次第だ」

分かった顔のみなみ。

みなみM「オーケー、校長」「上からやれってことね」


○同・校内

工事現場の格好で指示を出しているみなみ。

自販機を撤去している業者。

みなみM「自動販売機の削減、及びペットボトル飲料の排除」

   ×     ×     ×

電気を変えている業者。

見守るみなみ。

みなみM「校内の電気を全てLEDに変更」

   ×     ×     ×

木を植えているみなみ。

みなみM「植樹はもちろん……」

   ×     ×     ×

校舎内で指示をするみなみ。

みなみM「校舎をネットゼロエネルギービルに……」

咳き込む音。


○同・体育館(冒頭に戻る)

咳き込む音が続けて聞こえる。

みなみ、ステージ袖を見る。

小島先生(40)が腕時計を指し

小島「(巻け!)」とジェスチャーを送っている。

みなみ、正面に向き直り、笑顔でパソコンを連打。スライドが矢継ぎ早に流れる。

みなみ「(早口)え~みなさん、10月には記念すべき百回目の大文化祭が実施されます」「もちろんCO2排出実質ゼロで……」

小嶋先生の咳の音。横目で見るみなみ。

みなみ「ぜひ環境問題に変革を起こす歴史と伝統の……」「あと進学実績もすごい一王山高校に入学してくださいね」「生徒教員一同お待ちしております」

会場が明るくなる。驚くみなみ。椅子の数に反してスカスカの会場。

「パチパチ」とまばらな拍手。

演台の上に『オープンハイスクール』の横断幕。

一礼してステージ袖に移動するみなみ。

小嶋、イライラが隠せてない笑顔で

小嶋「お疲れ様」

みなみ「人少ないですねぇ」

小嶋「毎年こんなもんだ」「あと工藤、学習面の成果を中心に言ってくれってお願いしたよな?」

みなみ「それは今から先生が言うじゃないですか」

アナウンス「続きまして、一王山高校の進路実績について進路指導の小嶋先生からお話です」

みなみ、したり顔。小嶋、苦笑い。

みなみを指差して

小嶋「生徒が言うから意味があるんだ」

小嶋、一転爽やかな笑顔でステージへ。

呆れた様子で、小嶋を見送るみなみ。

 

○同・正門前

テントが張られている生徒会のブース。

林原優子(16)、山崎蘭(15)が座っている。

サングラスをかけ、ハンディ扇風機を持ちダルそうな優子。

眼鏡をかけ、文庫本を読んでいる蘭。

みなみ、ブース前に歩いてくる。

みなみ「お腹すいた~」

蘭「お疲れ様です」

微動だにしない優子。

みなみ、ブースに置いてある学校案内を手に取る。

みなみ「おっ、綺麗じゃん」

いぶかしげな顔になるみなみ。

みなみ「あれ? なんで載ってないの?」

学校案内の合格体験記。生徒会副会長宮村仁の写真と文章。

蘭「なんかジーコがみなみ先輩のは雷がどうたらで意味不明って言ってましたよ」

   ×     ×     ×

爽やかな顔で説明している様子の小嶋。

みなみ「なんだよ。ジーコに頼まれたから書いたのに」

   ×     ×     ×

みなみ「てかみんなどこにいるの?」

蘭「保護者も生徒もみんな公開授業とか部活のブースですね」

公開授業や化学部が実験して盛況の様子。

みなみ「あっやばっ!」「カンカン行かないと!」

優子「部活じゃないのにブースあんのって、会長権限?」

みなみ「なんだ生きてたのか。研究発表と募金活動で開けるんです~」

と優子の肩を持ち揺らす。

優子「(みなみの手を払いながら)募金なんて誰もしないのに?」

みなみ「少なくともここに2人いるなぁ」

優子、蘭、うんざり顔。 

みなみ「(手を差しだし)2人ともシロクマに救いの手を」

優子「募金パクられてんじゃね?」

みなみ、はっとした顔。

一拍置きダッシュ。


○同・廊下

『環境を考える会』の張り紙。長机の真ん中に段ボールで作った募金箱がポツンと置かれている。

背面には環境問題の資料がパネルに貼られている。

そこに走ってくるみなみ。

募金箱を持ち上げ、軽く揺らすみなみ。

音がしない。眉間にシワを寄せ、椅子に座り一息つく。

みなみM「元々なかったんだ……」

廊下に足音が響く。音の方を見るみなみ。

その時、スマホが鳴る。蘭からの着信。

みなみ「はいはい…」

蘭(電話から)「(慌てた声で)もしもし、先輩!?」

みなみ「なに? なに?」

蘭(電話から)「あ、あの…先輩が行ってすぐ…」

みなみ、ん? という表情。

優子(電話から)「あっ工藤?さっきデブがそっち行ったよ(笑)」

足音が近づく。揺れる募金箱。

みなみ「(不安そうに)デブ?」

廊下の先に影が現れる。

どんどん顔が引きつっていくみなみ。

だんだん近づいてくる影。

みなみ、身動き出来ないまま、顔がどんどんこわばっていく。

みなみの視線が正面に。大きな背中。

恐怖の顔でスマホを耳から離すみなみ。

目の前に膝をついて息を切らした男。

みなみ「(恐る恐る)環境を考える会でーす」

顔をあげた山口新一(16)がみなみに顔を近づける。

みなみ「(声にならない声!)」

山口「工藤みなみさん!」

みなみ、驚いた顔のまま固まっている。

山口、みなみから離れる。

山口「すみません!」「僕全然怪しいものじゃないんですけど、山口って言います」

唖然としたままのみなみ。

みなみM「なんだこいつー!」

山口「こうやって初めて会ったばっかで」「あの、いきなりなんだこいつって思うかもしれないんですけど……」

みなみ「(つばを飲み込む)ゴクン……」

山口、胸に手を置き一息吐く。

廊下に陽が差し込む

みなみ、山口を見つめる。

みなみM「え、なに? この雰囲気?」

山口、みなみを見つめる。

みなみM「まさか、告白……!!?」

山口「……アイドルになってください」

みなみ、山口、見つめ合う。

口あんぐりのみなみ。

みなみ「……は?」

   ×     ×     ×

(1時間後……)

滔々と語っている山口。

山口「いやぁ今まで何で気づかなかったんですかね?」「俺バカですね。一高に入ってからずっと探してたんです」「ダイヤの原石を」「俺が発掘してやる、俺が見つけてやるって」「でもまさか生徒会長…これは盲点でした」

みなみM「やばいデブのスイッチが入ってしまった……」

みなみ、死んだ顔で山口の話を聞いてる。

みなみ「あの~さっきから何を言って――」.

山口「(気にせず続ける)本当に雷に打たれたようでした」「こうビビビっと来たというか」「あぁこういう子がトップアイドルになるんだなって……」

みなみ「いやだから私は――」

山口「大丈夫」「絶対売れますから」「まずは大文化祭に出て伝説を作りましょう」「その後、オーディションを受けて­――」

みなみ、覚悟を決めた顔。

みなみ「今あなたが話している間に東京ドーム120個分の森林が消えました」

山口「え?」

みなみ「ここは環境を考える会です」「関係なければ帰ってください」

山口、ショックを受けた顔で立ち尽くす。

みなみ、言い過ぎたと気まずそうな顔。

山口、目の前の募金箱に気づく。

みなみM「さすがにちょっと言いすぎたかな……」

何かを思いついたように、おもむろに財布を取り出す。

戸惑いつつ、その様子を見るみなみ。

山口「課金したら話してくれます?」

と言って小銭を入れる。

みなみ、観念した顔で山口を見る。

   ×     ×     ×

(1時間後……)

みなみがスマホでシロクマの危機を見せている。

戸惑いながらも真剣に見ている山口。

みなみ「ごめん、気分悪くなってない?」「大丈夫?」

山口「あぁうん……」

みなみ「ショッキングな映像だけど、本当に悠長なこと言ってる場合じゃないの」「マジで地球終わるからね」「それを分かって欲しくて」

山口、真剣にうなずく。

みなみ『再生可能エネルギー100%電力への切り替え要請書』を差し出し

みなみ「賛同したならここに署名して」「これだけは署名を集めないと変えれないの」「まずは自分の学校から変えていかないと――」

さっと署名する山口。思わず顔がほころぶみなみ。

山口「(署名しつつ)じゃあこれ書いたら一緒にご飯とか…」

みなみ「(険しい顔で)なんでそうなるの?」

山口、指を差す。

すっかり日が傾いている。

みなみスマホを見る。通知がたくさん来ている。

みなみ「(独り言)やばいやばい」「生徒会行かないと」「ここも片付けて……」

慌てた様子のみなみ。

それを見て山口、ひらめく。

山口「じゃあ俺が片付けときましょうか?」

みなみ「え?でも……」

山口「その代わりと言っちゃなんですが…(ジェスチャーでご飯)?」

みなみ、渋い顔。

山口「(慌てて)まだ話も途中だし」「もっと工藤さんの話聞きたいし」「もちろん俺のおごりで。いやむしろ出したい!」

みなみ「でもなぁ……」

タイミングよくみなみのお腹が鳴る。

とっさに押さえるみなみ。

まずいと顔をあげると、笑顔の山口。

観念した顔のみなみ。


○同・正門前(夕)

生徒会に合流してペコペコしているみなみ。


○同・廊下(夕)

その様子を廊下から見ている山口。

環境を考える会の片付けをする。

後ろから段ボール箱を抱えた服部良(16)が来る。

服部「おっ、山口くんじゃないですか」

山口「服部!」「なんでいんの?」

服部「こっちの台詞だよ」「僕は委員会で夏休みに駆り出され、こき使われ……はぁ」

長机に段ボールを置く服部。

にやつきが抑えきれない様子の山口。

服部「なんだ?」「もしかして見つけたのか?」

山口「お前握手券いくら買ったんだっけ?」

服部、ピース。

山口「2万か」

服部「20万」

山口「は!?」

服部「全部当たればな」「10分の1も当たらんだろ」

山口「それでも2万だろ」「きついっしょ。しかも2人分」

服部「(ニヤッと)今ならまだやめられるぞ」

山口「もう一回確認しとく」「ライブの後、投票で……」

服部「負けた方が2人分払う」

山口「よし、俺も2万突っ込むか」

服部「言っとくけど、文化祭まで8週しかないぞ」「こっちは夏休みもみっちりレッスンして仕上げてるからな」

山口、自信満々。

服部「そんな自信あんのか?え、誰?」

山口「これはもう俺の勝ちじゃない」「日本アイドル界の勝利だ!」

服部、段ボールを再び抱え去っていく。

山口「(片付けに戻って)今ならまだやめられるぞー」

服部「可愛くて才能あってもつぶれることなんてざらにあるからなー」

 

○ファミリーレストラン・中(夜)

店内に飾られている天使の絵。

オムライスを食べようとしているみなみ。

食べようと口を開けたところで固まる。

山口がうっとり見ている。

みなみ「食べにくいんですけど」

山口「(我に返り)あぁごめん」「キモかったよね。気をつけよ」

みなみ「申し訳ないけど、アイドルにもならないし、文化祭のステージにも出ないから」「私は踊ってる場合じゃないの」「そもそも生徒会でそれどころじゃ­­­――」

山口「いや、工藤さんが拒否しても世界がそれを許さないと思うな」

みなみ、呆れた顔。

山口「なんでそんなアイドル嫌?」「他にやりたいことあるとか?」

スプーンを見つめるみなみ。

スプーンに歪んだみなみの顔。

みなみM「政治家になりたい……とは言えないな」

みなみ「一高ならもっと可愛い子いっぱいいるじゃん」「なんで私なの?」

山口「いやぁ説明するとなると難しいんだけど……強いて言うなら……髪?」

みなみ「かみ?」

山口百恵、松田聖子、小泉今日子、松浦亜弥などのイメージ。

山口「日本で一時代築いた伝説のアイドルってみんなショートなんだよ」「だから工藤さんはもうすでに選ばれし者なんだって……あっそうだあだ名も考えないと」

みなみ、髪を触り決まりが悪い顔。

みなみM「盛大に勘違いしてる……」

山口「そうだ…(深刻な顔で)全然変な意味じゃないけど……彼氏いる?」

みなみ「変な意味じゃん」

山口「いや大丈夫」「俺はファンとして絶対推しには手出さないから」

みなみ「待って待って待って」「手出すとかの次元じゃなく、そもそもあなたとは絶対にないから」

山口「だから俺もだって」「で、どうなの?」

みなみ「彼氏も彼女もいないよ」

山口、安心したように一息つく。

山口「今までは?」

みなみ「え~中学の時は」

山口「オッケーオッケー、落ち着こう」「2ショットで自撮りとかしてない?」

みなみ「(呆れて)したんじゃない?」

山口「チュープリは?」

みなみ「は?」

山口「(手でジェスチャー)こう接地面をハートで隠したり…」

心底呆れた顔のみなみ。

山口「スキャンダルが一番怖いから」「もしやばい写真があったら抹殺しといてね」

みなみ、無。


○工藤家(夜)

みなみ、音を立てないよう帰宅。

階段をゆっくり上がるみなみ。

みなみの母(47)が下から顔を出す。

母「みなみ!遅いよ」

みなみ「(ビクっとして)ごはん食べてた」

母「連絡しなさいよ。作っちゃったじゃん」

2階にあがり、向かいの部屋を見つめるみなみ。

扉にリンゴと蜂が描かれたバンドロゴが貼ってある。

みなみM「あのよく分からないロゴは兄のバンドのロゴだ」

言い合いのイメージ。

「兄は教員の父と壮絶な喧嘩の果てに大学を中退」

呆れた顔のみなみ。

「どこをほっつき歩いてるんだか」

シロクマのかけ看板が閉じる。

 

○同・みなみの部屋(夜)

ベッドに寝転がるみなみ。

みなみM「アイドルになるなんて言ったらどうなるんだろう」「まぁ絶対にならないけど」

 

○一王山高校・生徒会室

生徒会室のプレート。

椅子に座り驚いた顔の優子。蘭、宮村仁(16)は表情を変えず座っている。

みなみの話を聞く一同。

みなみ「え~今日から2学期ということで、電気をつけない日や大文化祭も控えていますけども…」

優子「待って、何でこいつがいんの?」

立って話すみなみの横に山口。

山口「こいつ?」

みなみ「あぁなんか生徒会に入りたいって」「こちら2年の……」

山口「山口です!」「よろしくお願いします!」

優子「ごめんね」「別にもう人足りてるし、役職も埋まっちゃってるから」「ねぇ宮村?」

宮村「俺は男子が増えるってことで歓迎しますよ」「ここは肩身狭いし」

優子「はぁ?」

宮村「冗談だって」

みなみ「あちら(を指し)宮村くん」「生徒会副会長兼大文化祭実行委員長」「(蘭を指し)1年の山崎蘭ちゃん」「書記」「(優子を指し)林原優子」「庶務」

山口「庶務ってなに?」

みなみ「まぁ……何でも屋みたいな」

山口「(笑って)じゃあ俺も庶務で……」

優子「おい、今お前バカにしただろ?」

山口「いやしてないしてない!」

優子「今日は一粒万倍日と天赦日が重なる日なのに、なんて日だ!」

山口「何それ?」

優子「大丈夫、あんたとは絶対関係ないから」

山口「はぁ?」

気まずそうな他3人。


○同・廊下(夕)

みなみ、歩いていると、後ろから山口が顔を出す。

みなみ「私ひとりで出来るんですけど」

誰もいない教室の電気を消すみなみ。

山口「生徒会長って大統領令みたいなのあんの?」「オーダー66みたいな」

みなみ「使えるなら使いたいね」

と言いつつまた電気を消すみなみ。

山口「みなみん毎日こんなことやってんの?」

みなみ、山口をチラ見する。

みなみ「意味ないと思う?」「でもこれは意思表示だから」「私がやりたいからやってるだけ」

山口「すごいな~みなみんのことますます推せるなぁ~」

みなみ、立ち止まる。山口も。

みなみ「待って、さっきから私のこと言ってる?」

山口「みなみん?」

みなみ、歩き出す。山口も。

みなみ「恥ずかしいからやめて」

山口「みいみとかみなみたそとか色々考えたんだけど、たそ感はないし」「やっぱりシンプルイズザベストだなって……」 


○同・掲示板

掲示板に8月の電気料金を貼るみなみ。

隣には過去数年の同月の電気料金がグラフ化して貼ってある。

山口「これもみなみんがやってたんだ」

みなみ「知らなかった?」

山口「俺らへの当てつけかと思ってた」

みなみ「なんでだよ。この紙もトイレットペーパーもFSC認証紙に変えて……」「まぁいいや」

みなみ、少し寂しそう。

山口、それを見てひらめく。

山口「広報!」

みなみ「え?」

山口「そうか!」「広報だよ!」

「俺がみなみんがやってることをみんなに広めればいいんだ!」

「え?」という表情のみなみ。

(9481文字)

第2話

第3話


#創作大賞2024 #漫画原作部門

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