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「なんてったってアイドル!〜秘密の文化祭大作戦〜」第2話

第2話

○一王山高校・廊下

山口「そうか!」「広報だよ!」「俺がみなみんがやってることをみんなに広めればいいんだ!」
「え?」という表情のみなみ。

みなみ「いいよ。やらなくて」

山口「なんで?」

みなみ「山口くんが今初めて知ったのが何よりの証拠。私はずっと周知してるけ
ど、この学校は気候変動への興味だけはゼロ。でも私一人で変えるから大丈夫」

取り残される山口。

○同・生徒会室

書類を書いているみなみ。

スマホのグリッド画面に映るみなみ。シャッター音。

   ×     ×     ×

マイボトルを持ち飲むみなみ。

スマホのグリッド画面に映るみなみ。シャッター音。

   ×     ×     ×

校内で小型家電回収を仕分けしているみなみ。

カメラに気づき

みなみ「(呆れて)あのさ~」

シャッター音。

少し離れたところから冷めた様子で見ている優子、蘭。

優子「山口!お前も手伝えよ」

山口「広報で忙しいんだよ」

みなみ「私許可してないけど」

山口「何言ってんの」「これはあくまで生徒会の広報だから」「活動を撮ってん
の」

優子「工藤撮ってるとこしか見たことないんですけど」

山口、優子にカメラを向けて雑に撮る。

優子「おい」

   ×     ×     ×

撮った写真が生徒会のSNSで投稿される。

説明文に『生徒会の活動と日常の一コマを載せます』

みなみの画像を見ている生徒たち。

ハートが押されていく。 

○通学路(夕)

投稿したみなみの画像を見ている山口。

横並びで歩くみなみ、山口。

みなみ「ねぇ、帰る時ぐらい一人になりたいんだけど」

山口「すごい。開設3日でフォロワーの数100超えた」

みなみ「みんな捨てアカでしょ」

山口「みなみんが世界に見つかり始めた」

みなみ「んな大袈裟な」

山口「いいねの数も日に日に増えてる」

みなみ「それは行動に対してでしょ?」

山口「“アイドル”がやる行動に対してね」

みなみ「待って」「そもそもアイドルじゃないし、誰がやっても意味あることだか
ら」

山口「違う違う。アイドルがやるから良いんだよ」「俺みたいな小太りがやっても
誰にも響かないから」

みなみ「まずやってから言って」「てかそもそもアイドルって何?」「アイドルの
定義は?」「何すればアイドルなの?」

山口「んー、難しいこと聞くなぁ……歌って踊って……みんなを楽しませるこ
と?」

みなみ「良かった」「一つも当てはまってない」

みなみ、進行方向を変え手を挙げ去っていく。

山口、取り残される。 

○同・廊下

空き教室の電気を消しているみなみ。

視線を感じ、振り返ると男子生徒がスマホを確認しながらみなみを見ている。

みなみ、いぶかしげな顔。

みなみM「あの人、私を見てる……?」

山口「みなみん」

山口が後ろから声をかける。

みなみ「うわ、びっくりさせないで」

山口「みなみんのファンが見てる」「手ぐらい振ってあげたら?」

みなみ「ファン?」

山口、うなずく。

後ろを見ると、ファンが隠し撮りしようとしている。

山口「ちょっと!隠し撮りしないでください」

戸惑っているみなみ。

 ○同・廊下(日替わり)

みなみ、廊下を通ると生徒の視線を感じる。

不安を感じている様子のみなみ。

そのまま生徒会室に入っていく。 

○同・生徒会室

大文化祭の打ち合わせ。

生徒会の面々が、それぞれスマホで資料を見ている。

宮村の前にはPC。優子は占いのインスタを見ている。

みなみ、有志ステージの中に『アイドルライブ』という記述を見つけ、とっさに山
口の方を見る。

山口はみなみの画像を見ている。
宮村「何もなければこれで終わります」

顔をあげ、終わろうとする面々。

みなみだけ、いぶかしげにタブレットを見たまま。

みなみ「ちょっと待って」「ステージとか模擬店の認可団体なんでこんなに少ない
の?」

他の面々も再度スマホを確認する。

それぞれ10にも満たない参加団体数。

蘭「言われてみれば少ないですね」

山口「うちのクラスもないな」

宮村「山口くん」「具体的に何するか決まってる?」

山口「いやそろそろ決めないとって……」
宮村「そう!」

宮村、机をバンっと叩く。

ビクッとする山口。

宮村「(続けて)今回企画書がしっかり書かれてない団体は認可してません」

一同驚く。

みなみ「なんで?」

宮村「僕はここ数年で失われた“大”文化祭を取り戻したいんです」「一ヶ月もない
のに企画すらできてないとこより、しっかり計画された団体に手厚く予算を出すの
は当たり前でしょ」

みなみ「宮村くんの意見も分かるけど、当日までになんとか仕上げるのが高校生じ
ゃん」

山口「(笑って)毎年そうだよなぁ」

宮村「参加するなとは言ってないよ」「そういう人たちのために有志って枠がある
んです」「逆に今のうちから稼ぐ力を実践できて良いんじゃないですか」「自己負
担の分、売れれば、それだけ還ってくるんだから」

みなみ「機材レンタルで破産だよ」「それに全員が稼ぎたいってわけじゃなくて、
(山口を見て)ただバカなことしたいって人もいるだろうし」

宮村「だったら言うけど、クリーンな大文化祭のために(企画書を持ち)予算を削ったのは工藤さんじゃなかったかな」

みなみ、困った顔。

みなみM「うーん、どうすれば……」

宮村の意見が通りそうな静寂の中、

山口「(大きな声で)81%」

みんなが山口の方を見る。

山口「SNSを使ってみなみんの支持率を調査しました!」

優子「みなみん?」

みなみ、山口をギロッと睨む。

山口「工藤みなみ会長です。支持率は81%でした」

一同、沈黙。

宮村「……だからなに?」

山口「いやだから会長はみんなに支持されてるからある程度意見を聞くべきだ
と……」

宮村「いや待って待って」「何その論理?全く関係ない――」

優子「じゃあ工藤に賛成」

宮村、動揺。

宮村「いやいやいや」「これは多数決とか折衷案で決める問題じゃなくて、実行委
員長は俺なんだから運営方針は任せてよ」「もうオリンピックのこと忘れたの?」

みなみ「じゃあ認可がおりなかった団体には一週間で再提出してもらおうよ」「そ
れでもまだ不備があるなら絞ればいい」

蘭「いいですね!」

優子「じゃあそれで」

山口「さすがみな……会長!」

みなみ「宮村くんどう?」

宮村、苦虫を噛み潰したような顔。 

○通学路(夕)

並んで歩くみなみと山口。

山口、スマホを見ながら

山口「クソ」「またサッカー部と野球部がDM送ってきやがる」「何なんだこいつ
ら」

みなみ「さっきはありがと」

山口「(おどけたように)かわいいかよ!」「じゃあそのお礼にカラオケ行こ」

みなみ「取引多いな」「でもこんなに私の気候活動が支持されてるとは思わなかっ
た」

山口「違う違う」「可愛いからだよ」

みなみ「え?」

山口「可愛いから支持されてるんだよ」

みなみ「いや可愛くないし、私の行動が支持されてるんでしょ?」

山口「支持理由の1位は可愛いからって調査で出てるから」「次は何となく」

みなみ、がっくりして肩を落とす。

みなみM「なんだそれ……誰も私の活動を見てないの?」

山口「まぁまぁみなみん一丁パーッと歌って帰ろう」 

みなみ「だから行かないって」 

○カラオケ・部屋

乃木坂46『I see……』が流れている。

フリ付きでノリノリで歌う山口。

真顔で聞いているみなみ。

山口「♪意地なんか張ってちゃ もったいない」

みなみ、違う違うと手を横に振る。。

山口「♪自分の気持ちに素直になろう」「大事なのは一つだけWOW WOW
WOW」「君のことが好きだ」「みなみん!ステージ出て!」

みなみ、首を振る。

   ×     ×     ×

リル・ディッキー『Eearth』を歌うみなみ。

山口がオタ芸をして、思わず笑いそうになるみなみ。 

○一王山高校・化学室

白衣を着て、ゴーグルを着用している服部。

活性シュウ酸エステルと過酸化水素を混ぜる。

服部「いいぞ」

化学部員、部屋の電気を消す。

容器を振る服部。容器の中が発光し始める。

部員一同「おぉ」

服部「成功だ!」「よし、違う色素でも試してみよう」

部員「はい!」

部屋の電気がつく。服部の隣に山口。

服部「おぃ!びっくりさせるなよ」

山口「すごいなこれ」

服部「特製サイリウム」「この開発に大文化祭の予算を全部つぎこんだ」

山口「ちゃんと企画書書かないと予算おりないぞ」

服部「すっかり生徒会の人間だな」「でも会長にベットとは考えたな」「会長なら
知らない生徒はいないし露出も多い」「更に大本営で宣伝すれば動員も見込める」
「実力より物量作戦で勝負してくるとは」

山口「違う違うお前が言う戦略なんてこれっぽっちも考えてねーよ」「だってみなみん単純にめちゃくちゃかわいいだろ」

服部「そうか?」「全然ピンときてないけど」「それに別に批判じゃないぞ」「お
前のやり方もアイドルを売る一つの方法だ」「合法的に写真取り放題だしな」

山口「それが正確にはまだ合法じゃない」

服部、山口からとっさに離れて

服部「敵に塩は送らんぞ」

山口、服部に懇願。

山口「頼むよ。軍師服部くん。あと少しなんだ」「そもそもみなみんが出ないと勝
負にならないだろ」

服部「別に僕は不戦勝で構わない」

山口「オーディション好きの服部くんはそれでいいわけ?」「それで心が燃えるわ
け?」 

服部、立ち止まる。

振り向いて、手で「3」と示す。

山口「?」

服部「会長のオフショット」

山口「……いや好きじゃん」

 ○同・生徒会室(夕)

『電気をつけない日のお知らせ』というチラシを手描きしているみなみ。

山口、慌てて部屋に入ってくる。

山口「みなみん、ちょっと来て!」

みなみ「どしたの?」

山口「ちょっとマジで一瞬きて!緊急事態!」

みなみ、不安げな顔。

(3776文字)

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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