OWCモノローグ)「あなたに花束を」 by 日生良

いらっしゃいませ。
ああ、いつもありがとうございます!
本日も花束でよろしかったでしょうか? かしこまりました。
あ、そうだ。
本日、新しい花が入荷しましてね。お値段は少し張ってしまうのですが、どの年齢層の女性にも人気の花なので、プレゼントに最適だと思いますよ。
この花束で喜ばない女性はいません。
僕も花屋長いですから、こればかりは自信を持って言えます。
はい。ありがとうございます! 最高の花束、お作りいたしますね。

ありがとうございました! よい1日を!
……ふぅ。
おい、何笑ってんだよ。
あん? 俺の接客が胡散臭かった? バカ言え、最高の間違いだろ。
死んだ婆ちゃんに「素敵な笑顔を身につけろ」って言われて身につけたスキルだからな。
結構自信あるんだ。

お前もあの爺さんには愛想よくしとけよ。うちのターゲットだから。
爺さん?
ああ、あいつさ、ストーカーなんだ。ストーカー歴60年くらいのプロ。
相手嫌がってんのに、毎日つけまわして花束渡し続けるの。
いやぁ、飽きないのかねぇ。60年もやってりゃ日課になってるか。
バカ。うちの店はあいつのおかげで儲かってんだぞ。
というか、あいつに花を売りつけることを目的に店を出してんだぞ。
そら愛想もよくするわ。

うん。俺はガキの頃からあの爺さん知ってる。
俺んち――ていうか婆ちゃんが、あいつに長年ストーキングされてたんだ。
プロストーカーだから、何度引越しても現れる。
死ぬほど家族会議して逃げ切る作戦考えたけど、全部失敗。「もう絶対に逃げきれないだろう」って結論になった。
俺が物理的な実力行使に出るのは婆ちゃん嫌がったから、暴力以外の方法で復讐できないかって考えて、これ。花屋。
クリーンな仕事で爺さんの金をしゃぶりつくす――……ごほん。正当な対価をもらうことで、復讐してるってわけ。
険しい顔すんなよ。需要があるところに供給する。ビジネスの当たり前の考えだろが。

まぁ、俺を非難したいのはわかるよ。甘んじて受け入れよう。
でもさ、そういうの。俺に言う前に、長年のストーキングで相手に恐怖を与え続けて殺した、あの爺さんに言えよ。
あいつのせいで婆ちゃんは死んだんだ。
「逃げきれない」って結論になった次の日に死んだ。自ら。絶望は人を殺すからな。そういうことなんだろうよ。

……あ、悪い。感情的にならないように気を付けてたんだけどさ。

なんで婆ちゃんが死んでるのに店に来るのかって?
フフン、いい質問です。
死んだ人間に花束を贈り続けるのを、人は愛と呼ぶかもしれないが。
愛ってのは付け込まれたら仕舞いだ。

婆ちゃんの部屋に、写真を貼ってある。実物大になるようにでっかく引き伸ばした婆ちゃんの写真を、窓の外から見える位置にな。
外からは、遠慮がちに窓から顔を出してるように見えるはずだ。
あいつは毎日拝みに来てるよ。うちで買った花束持って。

はは! それがバレねぇんだ。
爺さん、歳のせいか目が悪くてなぁ。ボケてもきてる。
真実知る前にお迎えが来るだろうよ。

何が酷いってんだ。
あのなぁ、これでも感謝されてんだぞ。
「あのストーカーが故人に執着してるから、穏やかに生きることが出来ます」って。街のマダムたちに。婆ちゃんの前にもやらかしてんだよ、あいつ。
いいか、これは復讐でもありボランティアでもある。うちの店は市民に平和を与えてるんだ。
生きる希望が無くなれば、人なんて簡単に死ぬからな。

おら。とっとと働け。
あ、明日の花の仕入れ手伝えよ。
クソ高い花、見つけたんだ。


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モノステ/モノステフレッシュに関しては上演に際して連絡は不要です。
それ以外の場で上演いただける場合はご一報くださいませ。
なお上演にあたってお代は一切頂戴しません。

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