間接照準法(書きかけ)

ここでは日本陸軍が間接照準をどのように行っていたかを述べたいと思います。間接照準とは、大砲のやるアレのことです。日本軍においては機関銃でも使用されていた方法ですが、とりあえず大砲に話を絞っておきます。しかし、機関銃でもやり方がそう変わるわけではありません。
このテーマについて、一つで全体像が明らかになるような資料は利用できませんでした。そのため、時代が異なる複数の資料から拾い読みしたツギハギの記述になっているので、矛盾をきたしているところがあるかもしれません。
使われている用語が難解で、その理論も複雑なので、見当違いな解釈をしている恐れもあります。「ここがおかしいぞ!」と思われたなら、バンバンご指摘ください。
用語や定義については基本的に日本陸軍のものをそのまま使用していますので、現在のものとは異なる可能性があります。
また、本稿では主に照準の理論面に焦点を当て、実際に射撃がどのように行われたかと言う面には深入りはしないことにします。つまり、どんな目標にどんな種類の弾をどれだけ撃ち込めばいいのか? といったことには触れません。

間接照準とは

間接照準とは、射撃したい目標を照準せずに適切な射向射角を砲に与える方法です。多くの場合は、射撃したい目標とは別のある一点を照準することによって行われます。
なぜこんなまどろっこしいやり方をするのでしょうか?

こちらから相手が見えないということは、相手からもこちらが見えないため、反撃されづらいためです。どこから撃っているのか位置がバレないのなら、一方的に敵を叩くことができます。
また、見えない位置にいる敵に弾を撃ち込めるということは、火砲をわざわざ視線の通じる位置に移動させずに射撃ができるということで、多くの火砲がすぐに、求められる目標に対して集中して攻撃ができるということでもあります。
間接照準というと、大きく上を向いた大砲が砲弾を山なりに飛ばすイメージがあるかもしれませんが、弾道がまっすぐなら直接照準、山なりなら間接照準というわけではありません。弾道の湾曲の具合に応じた分類は平射、擲射、あるいは曲射といったもので、直接照準か間接照準かとは関係がありません。間接照準とは、あくまで照準のやり方に関する分類なのです。

しかし、なぜ目標と違う位置を照準することで標的を撃つことができるのでしょうか? 順を追って説明しましょう。

火砲の構造

間接照準の方法について考える前に、火砲や弾道、また使用する機材について、ごく基本的なことを知っておきましょう。

火砲の模式図

一般的な火砲においては、大架が地面に固定され、小架はその上に接続され水平方向に旋回して射撃する方向を変えます。小架に接続された揺架は駐退復座機を内蔵し、砲耳を軸にして俯仰し、射角を変えます。
揺架に接続された表尺は、高低照準(必要な射角を砲に与えること)を行うための照準具であり、その先端に接続された眼鏡は、方向照準(必要な射向を砲に与えること)を行うための照準具です。
直接照準射撃を行う際は、眼鏡は砲に高低角を与えるために使用され、表尺は高角を与えるために使用されます。この高角とか高低角といった用語については後に説明します。

38式15センチ榴弾砲などの旧式火砲の場合、小架と揺架の役割が逆転しており、小架が俯仰し、揺架が旋回する構造を取っている場合があります。しかしいずれにせよ、表尺は揺架に取り付けられています。

弾道に関する用語

先程「射角」「高角」「高低角」といった言葉を使いましたが、これらは一体どういう意味なのでしょうか?

弾道に関する基本的な用語。
高角と高低角の合計が射角。

奥行きという概念がない、図のような二次元上の射撃を考えてみましょう。
奥行きがないため、左右に砲を動かす必要はありません。ただ適切な仰角がとってあれば砲弾は命中するものとします。
単純に考えれば、「火砲と目標がある距離だけ離れている場合、ある角度だけ仰角(砲を上に向ける角度)を取ってやれば砲弾は命中する」ということを事前に調べておき、これを表にしておけば射撃ができるように思われます。
この目標までの距離に対応した角度を「高角」といいます。
この方法で本当に命中するでしょうか? 実際に射撃してみましょう。
外れました。なぜでしょう?
あたりまえですが、戦場は水平な土地ではありません。目標と砲との間に高低差がある場合、高角だけでは命中しないのです。また、戦場が水平でないということは、砲を据え付けたとき、その砲はすでに傾いているということでもあります。これはどうすればいいのでしょうか?

ライフルの射撃

ライフルの射撃を考えてみましょう。
どれだけ精密に調整され、必ず300mで弾道と照準線が交わる(いわゆるゼロイン)ライフルがあったとしても、300m先の目標に射撃を命中させるためには照準線を目標に持っていかなければいけません。このときの照準線と水平面がなす角度を「高低角」といいます。言い方を変えれば、高低角とは目標がどれだけ上に(あるいは下に)見えるか、ということです。ライフルの射手は目標を照準することで、無意識のうちにライフルに高低角を付与しているわけです。
高角と高低角の合計(ただし、目標が下にある場合は高低角はマイナスとして考える)を「射角」といい、火砲の間接照準に当たっては、水平を基準としてこの射角を与えてやる必要があるのです。
厳密に言えば、この考え方は厳密ではありません。高低角を変えると、それによって弾道が変化するためです。しかしここでは話を簡単にするために、それによって生じる誤差は無視できる程度ということにしておきましょう。
この点については、「弾道不易曲線の設想」で詳しく話しましょう。

方向分画

現代ではどこの国でも砲兵は角度の単位として「ミル」を使います。これは円周を6400等分(旧東側諸国では6000等分)した孤一つに対する円周角です。一般的に使われる度(Degree)は360等分ですので、ミルはずっと細かい単位であることがわかります。日本ではミルは密位(みりい)と呼ばれ、大正10年頃までは6300等分でしたが、計算しづらいため他国と同様の6400等分に変更されました。また、100ミルを1単位として「分画」と呼ぶことがあります。この場合、例えば2367ミルは「23分画67」と言います。
1ミルは1km離れたところにある1mのものの見える大きさにほぼ等しいという性質があり、これを元に様々な計算が可能です。

前方・後方を0として反時計回りに数字が増加する。
前方の0を前視零、後方の0を後視零という

日本軍においてはミルを使った方向の呼び方がやや特殊です。前方12時方向を0として反時計回りに数字が増加していきます。後方の6時方向、つまり3200まで来るとこの数字は0にリセットされ、再び反時計回りに増加していきます。

パノラマ眼鏡

パノラマ眼鏡は間接照準を行う上で非常に重要な器具で、照準具の一種です。通常は砲の左に取り付けられています。

パノラマ眼鏡を横から見た図

狙撃銃に取り付けられるような眼鏡と異なる最大の点は、眼鏡の頭の部分(鏡頭)だけをくるくる左右に旋回させられることです。これにより接眼鏡の部分が動くことはないため、照準手の頭の位置を変えずに左右に視線を振ることが可能になっています。間接照準の原理的には、照準眼鏡全体が旋回し、それに応じて照準手が頭の位置を変えても問題はないのですが(実際に旧式の照準具はこのような方式になっている)、照準具の向きによってはどうしても覗き込む上で砲が邪魔になったり、砲の前方に出たりしなくてはならず不便なのでこのような方式になっているのです。

WW1で使用されたフランスの75mmM1897野砲の照準具。
左上のコリメーター式照準具が左右に旋回する簡素な構造で、パノラマ式ではない。
実際のパノラマ眼鏡の断面図

パノラマ式照準具はどれだけ左右に視線を振るかをミル単位で正確に設定することが可能で、逆にある方向を照準したときに、それがどれだけ左右にあるかを知ることも可能です。

方向盤

方向盤(Aiming Circle、あるいは方向鈑)とは、回転する目盛り付きの板の上に小さな望遠鏡がついたもので、間接照準においてはよく使われる機材です。三脚の上に取り付けて使用するもので、方向盤を据え付けた地点から2点の間の角度を測定することができます。

方向盤を操作する米兵。

日本軍の使用した方向盤。計算尺が付く

鏡頭だけを左右に振る機能はありませんが、照準具とよく似た構造になっています。

現代のロシアで使われる方向盤。
方位磁針が内蔵されているため磁針法(後述)に使用することもできる。

基本的な射向の付与方法

まず、パノラマ眼鏡を使っての基本的な射向(砲の左右の向き)の付与方法を見てみましょう。
「照準点右後方一本杉の頂上、方向900」という号令がかかった場合を例にとって説明しましょう。これは一本杉に砲を向けろという意味ではありません。

方向照準をする前の状態。パノラマ眼鏡の向きは前視零

わかりやすいようにパノラマ眼鏡の拡大図を砲の上に表示しましょう。

目盛りは前述の方向分画の図とは逆で時計回りに数字が増加することに注意
パノラマ眼鏡を方向900に設定する

パノラマ眼鏡を回転させ、方向を900に設定します。「右後方の」と言われていますので、逆方向の900と間違えてはいけません。
この段階ではまだ照準は目標の杉を捉えていません。

ここで方向照準機を動かして砲を動かします。照準機と言うと、照準眼鏡のことかと思われる方が多いと思いますが、日本軍ではそちらは「照準具」と呼ばれ、「照準機」は砲を直接動かすためのギアやねじ、ハンドルのことを指すので注意が必要です。
方向照準機を動かすのに従ってパノラマ眼鏡も回転します。これは方向照準機が表尺を介して揺架に接続されているためです。
これにより、無事命令された杉の木を照準に捉えることができました。

これで砲に射向が付与された

次に一度設定された射向の修正をしてみましょう。
今眼鏡には1000(10分画)が入力され、右後方の木を照準しています。
「3分画左へ」と号令が発せられました。

「左へ」で砲を左に振るためには、眼鏡を右回転させます。これにより、通常は数字が少なくなります(0をまたぐ場合は別として)。1000-300=700なので、700を入力します。

砲を旋回させ、再び木を照準します。これにより砲は左に旋回しました。

パノラマ眼鏡に入力した数字を砲目方向角といいます。

土みたいな形の記号は砲を表している

先程の「照準点右後方一本杉の頂上、方向900」という号令は、一本杉を基準に砲目方向角を900ミルにしろ、という意味だったわけです。

射向の決定法

砲に射向を付与する方法についてはわかりました。しかし、「どの向きに砲を向ければよいのか」をどうやって知るのでしょうか?
簡単な方法から紹介していきましょう。

垂球法

砲の後方から垂球を垂らし、糸と目標を含む垂直面に砲身の軸を誘導する方法です。

垂球を持った分隊長は砲を操作させ、左右に誘導する。
右のように目標を通過する糸と砲身の中心軸を一致させる。

子供だましの方法と思われるかもしれませんが、少なくとも日本軍においてはこれはれっきとした間接照準法の一つと考えられており、山砲・歩兵砲の属品の一つとして垂球がありました。
こんなちゃちな方法でも、ある程度の掩蔽を砲に与えることはできますし、何より手軽です。大砲の照準法にも、簡易なものから複雑で手間のかかるものまで色々あるということです。

標桿法

標桿法も垂球法と似た方法で、まず砲を据える予定地の後方(または前方)に目標に通じる2本の標桿(測量でよく使う紅白の棒)を植えます。パノラマ眼鏡を真後ろ(後視零。前方に植えた場合は前視零)に向け、標桿が重なって見える位置に砲を動かします。


反覘法

反覘法(はんてんほう)とは、ある光学機器(パノラマ眼鏡や方向盤)から別の光学機器を照準することによって射向を付与する方法です。
覘という漢字はあまり馴染みがありませんが、「のぞく」という意味です。

今、方向盤が目標を照準している。とりあえず大雑把に砲を目標の方に向けて据えたが、どうやったら砲に方向盤と同じ方向を正確に向けさせられるだろうか。

方向盤で砲のパノラマ眼鏡に対して照準を行います。

読まれた数字は砲側に伝えられる
砲側は伝えられた数字をパノラマ眼鏡に設定する
これにより、砲は方向盤が先程照準していた向きになった

なぜこれで砲が方向盤で照準したのと同じ方向になったのでしょうか?

ここの角度が等しい

学校で習った平行線の性質を思い出してみましょう。
2つの直線に一つの直線が交わるとき、
・2つの直線が平行なら錯角は等しい
・錯角が等しければ2直線は平行である
この場合、図で示されたところの角度を等しくしたので、方向盤の照準線と砲の射線が平行になったわけですね。
しかしもちろん、2直線が平行であるということは、厳密には射線は目標からズレています。
このズレを間隔修正量といいます。

方向盤と砲の距離がごく近いときには間隔修正量は小さく、問題にはなりにくいのですが、状況がそれを許さず、方向盤を離れた位置に設置しなければいけないのならこの分を修正しなければいけません。

目標-方向盤-砲のなす三角形が直角三角形であるとみなすことができる場合は、この修正は極めて簡単です。以前、「1ミルは1km先の1mにほぼ等しい」といったことを覚えているでしょうか?
では、1km先の2mはどうなるでしょうか。当然2ミルですね。このことから
砲と方向盤の間隔(m)/方向盤から目標までの距離(km)=間隔修正量(ミル)
であることがわかります。この場合、2/1=2で、反覘法実施の後砲を2ミル左に向ければ射向は目標を捉えます。

そうでない場合は、略近式(大雑把な答えを出してくれる式)を用います。
図の場合、
θ'=θx/X
の式によって、(誤差がありますが)答えが出てきます。
この誤差はθが大きくなるのに伴って増大するということに注意しましょう。

計算によって得られた値と実際の値

反覘法を行う場合、砲がまだ位置についていなくても、砲の予定位置(の照準具の位置)に標桿を立てておき、これに対して方向盤を使い数字を読んでおくことで時短が可能です。

照準点法

照準点法は、砲、観測所、目標、照準点の4点が一つの円の上にあるという仮定のもとに行われる射向の決定法です。
今、砲から直接目標を照準することができないのですが(間接照準なのだから当然)、ある明確な一点を照準する事ができるとします。
一方観測所にあっては、目標と照準点の両方を見ることができます。

ここの角は等しい

観測所は目標と照準点の間の角を測定し、砲に伝えます。
砲はこの角をパノラマ眼鏡に入力し、照準点を照準します。これにより砲は目標を向きます。学校で習った円周角の定理ですね。
一つの孤に対する円周角は一定である、というやつです。
実際にはこの4点が都合よく円の上にあったりはしませんので、誤差が生じます。そのため、次の2点に対する注意が必要です。
・観測所をなるべく砲に接近させる
・照準点はなるべく遠隔するか、目標に接近したものを選ぶ

なお、実際に計測され伝達される角度はここである

三角法

砲目距離(砲から目標までの距離)と、観測所と放列と目標がなす角を求めよ

三角法(一般解法)とは三角関数を使った計算、あるいは図解(紙に図を書いて計測する)によって砲目距離と射向を求める方法です。図解よりも計算の方が精度において優れることは言うまでもありません。では早速計算していきましょう。
三角関数なんてわかんないよ~! という方もひょっとしたらいるかもしれません。私もわかりません。しかしGoogle電卓という心強い味方が我々にはついています。もちろん日本軍が電卓を使用することはできませんでしたが、頻繁に行われる計算は方向盤の計算尺でできるようになっていました。
まずは上の公式を使い、砲目距離を求めてみましょう。

Google電卓はミルには対応していないため、ラジアンに換算する。1000で割れば良い。
左上のRadをクリックすれば電卓がラジアンに対応する。

右辺は(100-a^2)/96だから、

両辺に96をかけて…

-167.869…=-a^2
167.869=a^2

砲目距離がわかる

砲目距離は約12.96kmであることがわかりました。
しかしこれだけではまだ射撃ができません。目標と何らかの照準点の間の角度を知る必要があります。観測所を照準点として計算してみましょう。
下の公式の出番です。

ここで逆関数というものを使います。
左側のInvをクリックしてください。

ついでcos^-1をクリックし、arccos()に計算した数字をぶちこみましょう。

Google電卓を持たない日本兵は三角関数表を使った

よくわからない数字が出てきました。しかし計算にラジアンを使っていたことを忘れてはいけません。1000倍してミルに戻します。
砲から見て目標は観測所から約458ミルのところにあることがわかりました。
あとはパノラマ眼鏡に458ミルを入力して観測所を照準すれば射向が付与されます。

砲目距離と射距離の違い
砲目距離とは砲から目標までの距離を指す言葉です。これは単純に考えれば、射撃の距離、すなわち射距離というのと変わらないように思えます。これはどう違うのでしょうか?
射距離は砲目距離に風などの影響を勘案して修正を加えた「実際に射撃に使用する値」を指します。
三角法で求められるのは砲目距離ですから、通常ただちにこの数字を使って射撃することはできないわけです。
砲目方向角と方向角についても似たような関係があり、実際の位置関係から求められるのが砲目方向角で、これにやはり風の影響や偏流(後述)の影響を勘案したものが方向角です。

二重解法

図の場合、中間測点はaあるいはbの位置に設ければ良い

二重解法は三角法の応用で、観測所と放列(射撃体勢を取った砲)の間で視線が通じないとき、障害物を迂回する中間測点を取り、まず三角形aAO(あるいはbAO)で三角法を行うことによってAOを求める方法です。

磁針法

三角法は通常精度の良い方法ですが、観砲間の視線が通じていないときには使用できない欠点があります。そのため二重解法、二重解法も使えないときは三重解法…と中間測点を追加していく必要があります。このように、ある点からある点へ方向と距離を測りながら繋げていく方法を導線法(トラバース測量)といいます。
この導線法は簡易にできる利点があるのですが、点から点に測量を続けるうちにどうしても誤差が累積する欠点があります。
誤差が出てしまうのは仕方がないとしても、砲がとんでもない方向を向くことは避けたい…そこで考え出されたのが磁針法です。

単純化した磁針法の概念図。
実際に測定される角とは異なる。

今観測所Aから導線法によって中間測点aを経て砲車位置Oを求めたとします。しかし、測量の誤差によって中間測点の位置はa'、砲車位置はO'として図上に作画されてしまいました。この状態から例えば中間測点の位置を照準点にして目標を射撃すると、あらぬ方向に砲弾が飛んでいってしまいます。
そこで磁針法では磁針儀(磁針方向板。方位磁石が組み込まれた方向盤)を使い、磁北を基準にして照準を行います。
それには例えば、このような方法が考えられます。
∠NO'a'を計測し、図解によって求めた∠ZO'a'を引くと∠NO'Zが求められます。この角度を使い、磁針儀による反覘法を行います。


磁針儀を使った反覘法
磁針儀の0を磁北に合わせてから1100ミルを入力する
鏡頭だけをパノラマ眼鏡に向けて照準し、鏡頭前方の目盛りを読む(1700)。
3200から1700を引き1500を得る。
実際には反対周りの数字も目盛りに表示されているため引き算をする必要はない。
1500をパノラマ眼鏡に入力し
砲を動かし磁針儀を照準する

これにより付与される射向はOO'の分だけズレたO'Zの平行線であるため、望ましい射向とは違うのですが、中間測点を照準点にする法よりはマシです。
この方法は測量が困難な南方のジャングルでしばしば用いられ…やはり精度が悪いと不評でした。

実際に使用される角は図の通りです。
射撃に使用する砲目方向角を求めるには、放列位置において計測した磁針照準点分画と観測所において計測した磁針平行分画の合計に、(計算か)図解によって求めた間隔修正量を加減します。こうすれば、任意に照準点を選ぶことができます。
ちょっとここで似たような用語がいくつも出ててきてややこしいので説明しておきましょう。
磁針方位角は、磁北を基準にした方位で、一般的な方位の数え方と同じで、時計回りに数えます。
磁針照準点分画は、(ミルの場合は)3200-照準線の磁針方位角によって求められる角、つまり照準線の磁針方位角の補角です。
磁針平行分画は、観目線(観測所と目標を結ぶ線)の磁針方位角です。
これらの用語は次の「測地成果を利用する法」でも使用します。

測地成果を利用する法

さて、これまでに見てきた間接照準の方法は、私達が映画やゲームで見てきたようなものとは随分違ったもののように思われます。
前線で無線機を手に取った士官が、
「こちら〇〇中隊! △高地に砲撃を頼む!」
とか、
「座標xx,yyにありったけ叩き込んでくれ!」
とか、敵の位置さえ報告すれば砲撃は飛んでくるような、そんな方法はないのでしょうか? それとも、そういった描写は嘘なのでしょうか?
まさか、日本軍は技術が遅れていてできなかったとか…?
そんなことはありません。
第一次大戦では間接射撃の技術が急速に発達し、広範囲の砲兵を統一的に運用する方法が開発されました。一般的な砲撃のイメージはこれに近いものです。日本軍も戦訓を研究し、その方法を取り入れたのです。
その方法はこのようなものです。
大隊以上のレベルで事前に徹底的な測量作業をしておき、放列と観測所と敵(あるいは敵が出現しそうな箇所)の関係位置を地図上に正確に記入しておきます。その地図を全中隊に配布しておくことで、観測所は敵の位置を座標で言うか事前に測量した点(標点)の名称を伝えることですぐに砲撃が可能になる、という寸法です。予備の放列位置を測量しておけば、敵の砲撃が来て移動を余儀なくされても動いた先ですぐに砲撃を再開できます。また、他部隊と地図を接続すれば共同の作戦が可能となります。
この「測地成果を利用する法」を使うためには、基礎測地・陣地測地・そして前地測地の三段階の手順を必要とします。最も手間がかかるが最も強力な方法と言っていいでしょう。

基礎測地
基礎測地はまず放列あるいは観測所の付近(ただし、敵砲火を受ける場合は十分後方)に適当な間隔(200mくらい)の2点を取り、これの座標を決定します。以後の測地(測量作業)は、これを起点にして行われるため、ミリ単位まで正確に計測する必要があります。
この2点を結ぶ線を基線といいます。

基線設定の一例。基線南を原点とした。
y軸が南北、x軸が東西(単位はメートル)。

この場合、基線南の点を原点として切りのいい数字にしました。
この座標が(0.0)でないのは、座標がマイナスになる点が出るのを避けるためで、適当な数字を加算しておきます。図にはありませんが、実際には標高Hも計測します(標高も適当な数字を加算する。ただし、標高は0未満になることは稀なので、原点の標高がわかっている場合、それよりあまり大きくする必要はない)。
また、方位も厳密に計測し、基準として方位の原線を設定しますが、基線にこの役目を兼ねさせるのが普通です。
基線から基準点に三角測量を行い、辺り一帯を三角形で埋めます。
基礎測地においては特に精度を必要とするため、計算によって基準点の座標を決定するのを普通とします。



陣地測地
放列陣地・観測所の予定地に基準点を設け、基礎測地基準点と接続します。


前地測地
目標座標を特定します。前地測地の場合、目標位置に敵がいれば当然その地点での測地はできません。したがって、前方交会法(後述)を使用します。

図は観測所・放列を配置した状況です。

方向基線の設定
さて、いざ実際に照準をなす段になり、照準点を取るわけですが、この照準点は普通の基準点のようにただ三角測量で位置を特定して、地図に書いて終わりではありません。
何をするのかと言うと、まず方向基線という線を地面に引きます。地図上にではなく、実際に地面に杭を植えて線を作るのです。
次にこの方向基線の方位角を厳密に測定します。できれば既知の線を利用したり、天体観測を利用する方法が望ましいとされています。
なぜこのような作業をするのかと言うと、照準点方位角を正確に求めるためです。磁針法のときに使った、あの照準点方位角です。磁針法と同様、測地の結果生じた実際の位置と地図上の位置のズレ問題の解決のため、方位を使用するのです。無論、磁針法ほどの誤差はないでしょうが、万全を期します。
話を簡単にするために、方向基線の一端は放列にあるとします。

照準点方位角=方向基線の方位角-a

照準点方位角が分かれば、図上の砲目方位角から砲目方向角を割り出せます。
砲目方向角=砲目方位角-照準点方位角(マイナスになるなら+3200)

Fは図上の、Tは真の放列位置。
放列砲車の位置とは無関係に方向だけは正しい。

射撃準備

間接射撃の火力を有効に使用するためには集中運用が不可欠です。
ここでは一個中隊四門の砲をまとめて運用する方法について見てみましょう。

中隊の編制

と、その前に日本軍における砲兵中隊(ここでは野砲兵中隊。重砲は異なる)の編制を見てみましょう。
中隊は指揮小隊と中隊段列(弾薬運搬部隊)、そして戦砲隊(実際に砲を発射する部隊)で構成されています。戦砲隊は2つの小隊からなり、小隊は2つの分隊からなっています。分隊はそれぞれ1門ずつ砲を持っているため、一個中隊に付き4門の砲があることになります。

射向束の成形


照準点法による平行射向束の成形
まず原点を設定します。原点とは射向操縦の基礎となる点です。このような点を設定せずにすぐに目標に対する照準に取り掛かってもいいのですが、原点を設定しておくと、のちのち砲の指揮がしやすくなります。
戦場では複数の砲を同じ射距離で撃ったり少しづつ違う射距離で撃ったり、平行に向けたり集中させたり広げたり…と複雑なコントロールが要求されます。原点はこれを基準に左にいくつ動かせ、というふうに命令もできますし、一門一門の砲の射向がどれだけバラバラになっていても、この原点をすぐに照準できるようにしておけば、いわば砲の向きのリセットボタンとして機能し、大変便利なのです。
では、どうやってその設定をするのでしょうか?

中隊はだいたい原点の方向に向けて砲を据え終わった。
砲を据えることを放列布置という。

原点はこれまで見てきた射向の決定法における目標と同じく、砲側から直接見ることはできません。
ですから、まず砲側から見える手頃な目標を選び、これを照準点とします。射向が一点に集中していますね。これを集中射向束といいます。しかし、射撃の基本となるのは射向が平行になった平行射向束です。

零分画で照準する。つまり直接照準。

そのため各砲車は砲車間隔と照準点までの距離を元に射向束を開き、平行射向束を成形します。この修正量を平行量といいます。

平行量は2番10ミル、3番20ミル、4番30ミル

観測所の測角を元に射向を原点に向けます。

原点に通じる基準砲車(通常右翼砲車)の射向を基準射向といいます。
原点に対し平行射向束が成形できたなら、各砲車は適当な目標を選ぶか、あるいは標桿を立ててこれを標定点とします(普通は複数取っておく)。以後この標定点を基準にすることで、目標が煙に覆われたりして見えなくなっても射撃を継続し続けられるのです。

小隊長の「分画書け」の号令で、分隊長は標定点に何を選んだか、その方向角はいくつか等の諸元をメモしておきます。

原点分画の記録の例


これで「原点分画取れ」の命令があれば、すぐに砲は原点に向けて平行射向束を取ることができるわけですね。

反覘法による平行射向束の成形(基準砲反覘)
反覘法を用いる場合、基準砲車の射向が決定された後、基準砲車は他の砲車に対して反覘法を行います。パノラマ眼鏡を使う場合でも、方向盤を使う場合と違いはありません。単に他の砲車の眼鏡を照準してそれぞれに方向角を伝えるだけで、それに従って砲を動かせば射向は並行になります。これを基準砲反覘といいます。

測量法

(書きかけ)

目測、歩測、音響による法


 

巻き尺による法

これについては説明を要しないでしょう。92式歩兵砲や41式山砲には属品として10mの巻き尺がありました。
 

単一の測遠機による法


 

標尺法(定角法、定距法)


 

正切法


 

交会法

前方交会法

測板上にa,bとして記される2つの既知点A,Bから未知点Cの位置を求める。
AにおいてaからCへ線を引き、Bに移動しbからCに線を引く。
2線の交点cがCの位置を表す。

側方交会法

測板上にa,bとして記される2つの既知点A,Bから未知点Cの位置を求める。
AにおいてaからCへ線を引き、Cに移動しbからBを見る。視線bBを含む直線を測板に引く。2線の交点cがCの位置を表す。

後方交会法

測板上にa,b,cとして記される3つの既知点A,B,Cから未知点Dの位置を求める。
方位磁針を使い、未知点Dにおいてab,bcがそれぞれAB,BCと平行になるように測板の向きを合わせる。
視線aAを含む直線、bBを含む直線、cCを含む直線をそれぞれ引く。3線の交点dがDの位置を表す。

射角の付与

射距離の計測方法がわかった今、やっと砲に射角を付与することができます。
とその前に、射角をどうやって照準具に入力するのかを知っておきましょう。砲に射角を付与するための照準具を表尺といい、これの上端にはおなじみのパノラマ眼鏡がついています。

表尺の構造

ここで例にするのは孤形表尺で、その名の通り眼鏡を取り付ける表尺桿が円弧の形をしています。これをスライドして射距離を入力することにより、高低水準器に射距離分の角度をつけることができるのです。

高角・高低角の付与

砲に射距離3500m分の高角を入力するとします。ここで重要なのが高低水準器です。これは液体が封入されたガラス管で、液体内の気泡の位置によって水平を測り、高角・高低角の基準とすることができるのです。

続いて、+5ミルの高低角を付与しましょう。

これでようやく大砲の間接照準ができました。
直接照準を行う際の操作はずっと簡単です。表尺に射距離を入力し、砲を操作して眼鏡で目標を照準するだけです。ライフルの照尺と特にかわりありません。

弾道不易曲線の設想


2つの目標までの水平距離は等しいが、高低角が異なる。
この場合2つの弾道は同じ曲線を描くのか?

高低角がごく小さい場合は、目標までの水平距離が同一なときに砲は同じ高角で射撃ができるという考えを弾道不易曲線の設想という。
厳密には高低角が異なる場合は、それに応じて与えるべき高角も変化するので、この考えに基づいて射撃した場合誤差が生じる。
しかしその誤差が十分小さければ、射撃が簡便にできる利益がある。
これと同じ法則は銃の世界でも知られており、Rifleman's ruleといいます(弾丸の落下量は目標までの水平距離に依存するものとして考えることができる、というもの)。

高低角補助修正量

(書きかけ)

砲耳軸傾斜の修正

最初の方で、「戦場の地面は水平ではない」と書いたことを覚えていらっしゃるでしょうか? 前後方向の傾斜なら、これを修正するのは簡単です。砲身を俯仰させれば打ち消すことができるからです。問題は砲耳軸傾斜という左右方向の傾斜で、何も対策しないと低くなった方に弾道がズレてしまいます。これに関してはどうすればいいのでしょうか?

地面が傾いていると、砲弾は低い方に飛んでいく


まず、最も単純な解決法として、放列布置の前にあらかじめ地面を水平にしておく方法が考えられます。しかしこれには手間がかかりますし、仮に完全に水平にしたところで、大砲を撃てば反動がありますから、また水平が狂ってくることもあるでしょう。
二番目の解決策として、大砲に、全体を傾けることによって傾斜を打ち消すことができるような機構を組み込むというものがあります。現代の大砲ではそのようなものもあるのですが、どうしても構造が複雑になり、少なくとも日本軍では一般的なものではありませんでした。
かわりに日本軍がよく使っていた方法は、照準表尺だけを傾けて垂直にするというものです。

気泡管は高低水準器の他に、このためのものがもう一つついているのです。

表尺を回転させるのは実際には弧形のレール

表尺を垂直にしたことによって眼鏡に右向きの方向が付与されたことがわかるでしょうか?
これにより照準線は弾道を正しく捉えます。
このような機能がない火砲は、面倒ですが表を見て射向を修正しましょう。

射角と砲耳軸傾斜の量から、射向をどれだけ修正すればよいかがわかる。
ここでは砲耳軸傾斜の量の単位は度+1/16度。
1/16度は約1.1ミル。

偏流の修正

ライフリングのある火砲を発射した場合、ライフリングが右回り(後ろから見て)なら砲弾は右へ、左回りなら左へ少しずつズレていきます。このズレを偏流といい、その発生する原理については省きますが(私もよくわからないので)、ともかくこれを修正する必要があります。
とはいえ、このズレはかなり単純な方法である程度修正することができます。すなわち、表尺がちょっとだけ(1~2度程度)傾くように火砲を設計するのです。
「さっき傾斜地では表尺を垂直にするって言ったじゃん」と思うかもしれませんが、このちょっとだけ傾いた状態が、表尺の垂直だと考えてください。
これにより、高角を付与した場合、図のように自然に照準線が右を向いてズレに合わせてくれるのです。

実際には偏流の量は射距離に単純に比例しないため、特定の距離以外ではまだズレが生じる

機材について

(書きかけ)

方向盤
砲隊鏡
磁針儀・測角器
潜望式経緯儀
地上標定機
8年式野戦重測遠機
測板

おまけ

ゆるキャラ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?