尾鷲:天満浦地区の甘夏農園
先日、取材のために尾鷲の『天満浦地区』へ行きました。
ひとくちに『天満浦』と言っても、以外に広大な範囲に及びます。
と、いうのも、人が多く住む天満浦地区の奥に広がる山を開墾した土地もまた天満浦地区になるからです。
元々は、山を開墾し柑橘類(尾鷲の場合は『甘夏』)を栽培する、というのが60年前ほどに行われた『国策』で、その国策によって開墾された山々もまた便宜上天満浦と呼ばれるようになったので、『昔からある天満浦』と『開墾によって天満浦と呼ばれるようになった場所』がある、ということです。
(60年前に開墾された場所は、まだ60年という歴史しかありません)
全国的に60年前の国策によって農業が奨励され、尾鷲では柑橘類、品種として『甘夏』が栽培出荷されており、ピーク時は20軒以上の甘夏農家が存在していたそうです。
しかし現在、農家の数は5軒にまで減り、しかも残った甘夏農家も高齢化が進み、継承者もおらず、耕作放棄地が増えているそうです。
2021年1月、耕作放棄地の利活用と甘夏の6次産業化を目指し、地域おこし協力隊の方が着任しました。
今回、耕作放棄地の利活用と甘夏の6次産業化をミッションとして着任した日下(くさか)さんに天満浦の甘夏畑を見せてもらいながら、色々とお話をお伺いしました。
ちなみにお話を伺うために天満浦に行ってみたのですが、天満浦を肌で感じてみたい、と思い、自転車で行ってみました。
かなりキツイ道のりですが、そこから見る尾鷲の町は壮観でした。
↑かつては火力発電所の煙突が見えていましたが、今はもうありません。
ちなみに『尾鷲ヒト大学』のnote(https://note.com/hitounivowase/)のトップ画像には在りし日の火力発電所の煙突が見えます。
海が望める日当たりの良い山の斜面に、甘夏の木が広がります。
目に飛び込んでくる、空の青さ、海の青さ、木々の緑と、柑橘の黄色のコントラストが美しい風景です。
山の斜面いっぱいに広がる甘夏の木々ですが、尾鷲市は隣の熊野市やさらにその隣の御浜町に比べると柑橘類の出荷量はとても少ないです。
と、いうか熊野市と御浜町はケタ違いに出荷量が多いのです。
特に『一年中みかんが取れる町』と知られる御浜町では多種多様な品種の柑橘が栽培されており、文字通り、一年を通して柑橘類が収穫されています。
↑冊子『東紀州の柑橘』。東紀州の柑橘農家さんを丹念に取材しております。
↑東紀州で栽培されている柑橘類と収穫時期など一目でがわかります。
熊野市や御浜町では多種多様な品種を出荷している一方、尾鷲市で出荷される柑橘といえば『甘夏』と決まっていて.....他の柑橘類も栽培はされているそうですが、数がとても少なく、出荷される品種としてはほぼ『甘夏』と言っていいそうです。
日下さんに「甘夏以外の柑橘類を栽培する予定は?」の問いに対してきっぱりと「今の所は考えていません」とのことでした。
近隣の市町は栽培している柑橘類の品種が多いぶん、『コレ!』といった名産品種がないそうです。
それに比べて尾鷲は柑橘の出荷量が少ないぶん、『尾鷲の柑橘といえば甘夏』と、一つの品種に特化したブランドイメージ戦略が取れるそうです。
これから甘夏そのものと、甘夏を使った商品展開をしていくそうです。
(目下の問題は獣害対策だそうです)
そしてそれと並行して、日下さんが考えている、尾鷲の環境を生かした観光戦略についてもお話を伺いました。
長らく甘夏栽培をしている天満浦地区は、元々が山であったこと、耕作放棄地になっていること、無農薬による甘夏の栽培ができることなどによって、とても昆虫が多い環境だそうです。
特に蝶を多く見かけるそうで、家族向けの昆虫採集ができる場所としてアピールしていきたいそうです。
また、街灯などがなく、夜間は真っ暗になってしまう環境を活かした天体観測、山の地形を活かしたトレイルランなど、アウトドアで楽しめる企画をしてみたい、とのことでした。
隣の紀北町では、海水浴場、川ともに、『オーバーツーリズム』の状態が続いており、自然環境が受け入れ可能な人間の許容量を完全に超えていて、環境に与える負荷が問題となっております。
(オーバーツーリズムとは、「Over(許容範囲を超えた)」と「Tourism(観光)」を組み合わせた造語。 観光客の大幅な増加によって観光地が過度に混雑し、地域住民の生活や自然環境に悪影響を及ぼす状態のことであり、世界各地の観光地で問題視されている。)
東紀州地域におけるアウトドアに関するオーバーツーリズムが発生する場所は、川と海のある場所ですが、尾鷲は案外、地元の人しか利用しない川があるだけで、アウトドアにおけるオーバーツーリズムは問題視されるレベルではありません。
が、近年、火力発電所の撤退後の跡地利用や、SDGsなどの意識の高さ、アウトドア事業への注目の高さから、尾鷲でもアウトドアを楽しめる環境の整備を進める声が高まっています。
もともと、釣り客の多い場所ではありますし。
アウトドア事業における問題点は、先述した通り、オーバーツーリズムとのバランスにありますが、うまくすればこの天満浦地区も自然を活かした体験などが色々とできる場所かもしれません。
個人的には無農薬の広大な柑橘農園を利用した養蜂業に興味があります。
現在、日本ミツバチが減少傾向にあり、国内で流通しているハチミツの中で、国産のハチミツはなんと7%しか流通していないそうです。
養蜂に関しても日下さんに聞いてみたところ、すでに興味を持っているそうで、養蜂とともに、甘夏と一緒に何か商品を作れないか模索中だそうです。
これからも、日下さんの甘夏の6次産業化の取り組みと共に、この天満浦地区のアピールに注目していきたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?