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【好きな落語家、好きなネタ】第12回 三遊亭円生

物書き兼「落語音源コレクター」である私なかむらが、ただただ好きな落語家さんのネタの思い出を書き綴るだけのシリーズ。
再開第2弾は、三遊亭円生について。(故人の敬称は略します)

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前回の古今亭志ん生と並んで、芸域の広さは昭和の落語界で双璧。
2019年の大河ドラマ「いだてん」では、共に満州慰問をする姿が描かれました。個性は正反対なのに、異国で同じ苦労をした二人が、後年同時期に「昭和の名人」と称されるというのは、ドラマ以上にドラマチックな話です。

円生もまた、膨大なネタ数の保有者でした。
志ん生と違う所は、映像でもかなりの数の高座を残した点でしょうか。
そこで前回同様、自分の音源コレクションから「円生でしか聴いたことがないネタ」をリストアップしてみたところ、まーあるある。志ん生より多かったです。

円生の場合は、「円生百席」という全58巻(131席)に及ぶ大作シリーズがあります。(1970年代後半にレコードリリース、1990年代後半にCD化、2022年にCD再発売)
スタジオ録音で、円生自身も立ちあって編集にも入念な時間をかけた、「ヘッドホン用の落語」に徹した演出が特徴的なシリーズでした。

この「円生百席」には、落とし噺で『おかふい』『お祭佐七』『九段目』『後家殺し』『蕎麦の殿様』『遠山政談』『長崎の赤飯』『猫怪談』『派手彦』『一つ穴』『庖丁』『骨違い』など。
人情噺で『おさん茂兵衛』『お藤松五郎』『梅若礼三郎』『松葉屋瀬川』『福禄寿』などの稀少ネタが、それぞれたっぷりの時間を費やして収録されています。

ただ総体的に世話物因果物の類いが多く、地味だったり、他のネタと重複したり、当節では口演しにくい事情があったりなど、今では演じられない理由がそれぞれあるように思います。
その中で、立川談春師が『庖丁』を、柳家さん喬師が『福禄寿』と『松葉屋瀬川』を(『松葉屋瀬川』は『雪の瀬川』に改題)、いずれも今の観客向けに演出をアレンジして再演する例も、僅かですが存在してます。

で、話はここからなのですが…
円生は生前、レコードやテープを様々な会社からリリースしたため、今も見つけやすい「円生百席」だけでなく、今ではすっかり入手困難なCDとか、CDにならず1990年代に販売終了したテープというのも、実はべらぼーにあるのですよ。
以下、そんな演目の数々を列挙。

・『四宿の屁』
(品川・新宿・板橋・千住という四宿を舞台にした屁の小咄集。
寄席のトリでよく掛けて、お席亭に嫌な顔をされたというエピソードも)
・『継信(初音の鼓)』
(『初音の鼓』には別名『ポンコン』と呼ばれる同題別話があるが、内容はだいぶ違う)
・『位牌屋』
(演者があまり多くないケチ噺。現・三遊亭歌奴師が持ちネタにしている)
・『蚊いくさ』
(演じ手の少ない夏の長屋噺。三遊亭好の助師が先般「落語研究会」で演じていた)
・『開帳の雪隠』
(便所の噺だが汚くはない。マクラの『御印文』という小咄も珍品)
・『お七』
(『子ほめ』の逆で、皮肉な男が友達の子供をけなしに行く噺。立川志らく師で一度聴いたことがある)
・『五段目』
(「忠臣蔵」五段目が題材の素人芝居ネタ)
・『蟇の油』
(口上で聞かせる『蟇の油』とは別に存在する、艶笑バージョン)
・『狐つき』
(江戸の学者・熊沢蕃山のエピソード噺。これは1961年にラジオで放送されたのちマニア間で音源が出回っているもので、市販音源は無い)

他にも「増補落語事典」掲載の小咄が多数ありますが、細かすぎるので略。
それにしても、現在演じられなくなった円生のネタって、多いですよねぇ…。トリネタだけでなく、『四宿の屁』なんてすごく寄席向きな気もしますが。別にトリでやれって意味じゃないですよ。

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円生の持ちネタはとにかくバラエティに富んでいて、前座噺から笑いの多い噺、音曲噺、地噺、新作、さらに長編人情噺まで、一人で寄席の番組が組めるんじゃないかというくらい豊富。しかも、いずれも「十八番」と呼ばれる演目ばかり。
ふと思い立って、ひと興行のプログラムをオール円生で組んでみました。ちょっとしたお座興。

開口一番『転失気』円生
『金明竹』円生
『真田小僧』円生
相撲漫談~『相撲風景』円生
『寄合酒』円生
『夜店風景』~『蟇の油』円生
『三十石』円生
  ~仲入り~
『やかん』円生
『浮世床』円生
音曲噺~『豊竹屋』円生
『盃の殿様』円生

寄席の流れとして、十分成立しそうなのが怖い。出てくるの全部円生ですけど。
ちなみに全部私が個人的に好きなネタばっかり。あ、どうでもいいですね。すいません。
(第12回・了)


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