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DREAM×藻=ドリーモ?

世界中にパワーユニットを提供するホンダは、クルマやバイクの電動化やユニットの高効率化を推し進めるとともに、大気中のCO2を回収して燃料に変換する技術を研究開発している。短距離移動のクルマやバイクには太陽光由来などの電気を、長距離を走る大型トラックなどでは水素を活用。航空機や船舶などは、CO2から変換した燃料を使用するカーボンサイクルでエネルギーを循環利用する。ホンダは、すべての製品と企業活動を通じて、2050年にカーボンニュートラルを達成することをめざしている。

ホンダは、約30億年前の太古から地球に存在する「藻」に秘められた大きな可能性に着目した。藻は太陽光や水、窒素やリンなどの元素があれば、光合成でCO2を吸収して増殖し、炭水化物やタンパク質などの有価物を作ることができる。炭水化物からは燃料や樹脂を生成でき、タンパク質は食品や化粧品、医薬品などの原料になる。しかも、砂漠や塩害地域などでも培養でき、サトウキビやトウモロコシなどを原料とするバイオ燃料生産で課題となる食料生産との競合がおこらない。藻は大気中のCO2濃度を減らすとともに、エネルギー、環境、食料など人類が抱える問題を解決する可能性を秘めている。

藻(藻類)は、ワカメや昆布などの海藻類と、10ミクロンから100ミクロンの微細藻類に大別される。コンタミネーション(培養液に混入する雑菌や虫)によって成長速度が低下する微細藻類は、屋外での大量培養が難しい。ホンダは、微細藻類の一種であるクラミドモナスをコンタミネーションの中で培養してスクリーニングを重ね、影響を受けにくい「Honda DREAMO(DREAM×藻=ドリーモ)」を作り出し、生物特許を取得した。ドリーモは、低温環境でスクリーニングすることで低温に強い特性も獲得。約5時間に1回のペースで細胞分裂し、1日に最大で32倍まで増殖することが確認されている。藻には炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンなどが含まれているが、エタノールを作る場合は炭水化物、食料品はタンパク質の比率が大きい方が生産効率が良い。ドリーモは培養液の元素調整で、炭水化物を60%にしたり、たんぱく質を69%にしたりと、わずか3日で成分比率を変えられる。また、一般に微細藻類は厚い細胞壁で覆われているため、エタノールを作る過程で細胞壁を溶かしたり破壊したりすることが必要だが、ドリーモは細胞壁が薄いため、酵素を加えるだけでデンプン(炭水化物)をグルコースにすることが可能で、エタノール生成プロセスを簡略化できる。

屋外で藻の培養を行うには、システムが重要になる。プール方式は大規模化しやすいが、コンタミネーション対策が難しく、太陽光をプールの底まで透過させるため水深を浅くする必要があり、水中に導入したCO2が大気中に逃げやすい。これに対して、フラットパネル方式(藻と培養液をパネルに閉じ込めたユニットを使う)は、プール方式よりもコストは高くなるが生産効率に優れている。ホンダはフラットパネル方式を採用し、「Honda DREAMOシステム」を開発した。幅1.8メートル、高さ0.9メートル、奥行0.2メートルのパネルは、太陽光が効率的に入射するように角度を変えられるチルト構造。パネルの底部からCO2を導入して藻を攪拌・循環させ、CO2と藻の接触率を高めた。さらに、培養層の周りに熱マス(熱を蓄えることで温度変動を平滑化する)用の水層を配置し、適切な水温を保てるようにした。システムは、緻密な元素濃度調整によって、一般に2~3回までが限度とされる培養液のリサイクルを12回にし、84日もの連続培養を可能にした。Honda DREAMOは、太陽光を最大限に活用した低エネルギーの屋外培養を確立。ホンダは、成分を余すことなく使い切れる藻の特長を活かし、低価格帯の燃料やプラスチックを生産するとともに、高価格帯の医薬品、化粧品、健康食品などの副産物を製造することで事業として成立させることができると考えている。

※ 見出し画像にはPixabayのフリー素材を利用しています。

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